†Glorious Revolution†

†Glorious Revolution†

3.魔の手


クロムはトロフィーを握りしめると、一歩外に踏み出した。
と、その途端、二人の黒装束の男がクロムの目の前に立ちはだかった。
「灰袮黒君ですね?」
自分の名前を呼ばれて、クロムはとっさに身構えた。身長180センチのクロムから見ても、二人の黒装束は大柄だった。サングラスの奥で光る目が、先程からじっとクロムを見つめている。
「灰袮黒君ですね?」
もう一度、黒装束の一人が問いかけた。
「そうですけど……貴方たちは?」
クロムは身構えたまま訊き返した。そんなクロムの様子を見た一人が、困ったような顔で言った。
「どうか、安心して下さい。私達はこう言う者です。決して怪しい者ではありません。」
言いながら、二人はそれぞれに名刺を取り出した。そう言う奴に限って怪しいんだ、と思いながら、クロムは名刺を受け取った。
「UN……国連の人?」
「はい。この度はクロム君に大事な用件があり、伺いました。少し…お時間をいただけないでしょうか?」
とっさにクロムは腕時計の文字盤を見た。三時十五分…六時には玄が家に帰って来る。それまでに夕飯の支度までしようと思うと、あまり時間はなかった。会場から家まで、少なくとも帰るのに一時間半はかかる。
「あの……今日じゃないと駄目ですか?俺…今急いでるんですけど……」
「大事な用件です。長引かせる訳には行きません。」
「真中」と名乗った男が、強い口調でぴしゃりと言った。
「でも……」
「これは政府の命令なのです。今日中にクロム君と話すようにと言われてきました。」
今度は「白川」と名乗った男が口を開いた。
「政府……」
思った以上の話の大きさに、クロムは?然とした。
「政府が一体俺に何の用ですか?」
「それは此処では言えません。とにかく重大な事です。」
「そんなあやふやな説明で俺が付いて行くとでも?」
「何度も言っているように、国からの命令です。しかも、今回は「重要」さが違います。此処でクロム君が断れば、クロム君の家族も危険な目に遭うでしょう。」
「家族が……」
クロムの頭の中に、今も必死に働いているであろう、玄の姿が浮かび上がった。
「…………本当に少しだけで良いんですね?」
「もちろん。三十分もすれば、すぐに私どもは退散します。」
そう言うと、真中がクロムの前方を指差した。
「あそこに車を用意しています。決して危険な目には遭わせません。」
「分かりました。その代わり…!」
クロムは真中と白川を真っすぐに見つめた。
「俺の家族には手を出さないで下さい。」
「もちろんです。」
答えると、二人は先に車に向かって歩き出した。クロムも、一瞬戸惑ったが二人の後を追いかけた。

これが、クロムの不幸の始まりだった………





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