†Glorious Revolution†

†Glorious Revolution†

6.別れ


「ちょっと…楓のうちに行って来る。挨拶もしなきゃなんないし…」
クロムはそう言うと、スニーカーの紐を解き、足をその中に押し込んだ。
「……クロム…」
突然玄に名前を呼ばれ、クロムは急いで顔を上げた。此処数日間、玄はショックからか、クロムと口を利いていなかった。
「これ……持って行きなさい。」
そう言うと玄は、青い新品の携帯電話を差し出した。
「これ……どうしたの?いつの間にこんな…」
「昨日買って来たの。しばらくクロムが居ないから……お金にも余裕ができるし…海外でも使える機種にしたから、暇な時は連絡入れてね…」
玄は悲しげな笑顔を向けると、クロムの手に携帯電話をそっと載せた。
『母さん…』
玄が無理をした事が、クロムには分かっていた。普段、自分の化粧品一つ買うのにもお金の事を心配している玄が、携帯電話を買うお金等、持っている筈がなかった。
『母さん、生活費とか全部、これに使ったんだ……』
そう思うと、掌に載っている携帯電話が、とても重く感じられた。クロムは涙が出そうになるのをぐっと堪えると、笑顔で玄に言った。
「母さん、ありがとう。俺、絶対戻って来るから、それまで待っててくれよな!!」
一気に言うと、クロムは外に飛び出した。
背後で、玄の鳴き声が聞こえた。


「朝から家に来るなんて、珍しいね。どうかしたの?」
クロムの幼なじみの横松楓が、玄関のドアを開けながら、クロムに尋ねた。
「ちょっと。A国に行く事になったから、お別れを言いに。」
「え、A国?なんで?旅行??それならお土産……」
「誰にも言わないと誓うなら、教える。」
いつもと違う、クロムの真剣な顔を見て、楓は真顔になった。
「うん。…取り敢えず上がれば?」
そう言って、楓はクロムを家に招き入れた。

「第……三次…世界大戦…?」
クロムから全てを聞いた楓は、あんぐりと口を開けた。
「で、その為にA国へ…?」
「うん。」
「そう……でも、クロムが決めた事なら、私は反対しない。それに、クロムが勝つって信じてる。」
「楓…」
「絶対平和な世界に戻してね!!もう…クロムにしか出来ないんだから…」
心なしか、楓の目が光ったような気がした。
「で、でもさ。今回、母さんが携帯買ってくれたから、楓にも連絡入れるよ。」
焦りながら、クロムはおもむろに携帯を取り出した。と、楓の顔が輝いた。
「なんだ。そう言う事は先に言ってよ。貸して。私の携帯にも登録しとくから。」
そう言うと楓は、慣れた手つきで2つの携帯を扱い始めた。
楓の部屋には、しばらくの間携帯のプッシュ音だけが鳴り響いていた。


「じゃあ、俺そろそろ行くわ。」
数時間後、クロムが重い腰を上げた。
玄関に座って靴を履いていると、突然後ろから楓が抱きついて来た。
「絶対……帰って来てね…」
顔は見えなかったが、楓が震えているのが、クロムには分かった。
「うん…」
顔を見ると、行くのを躊躇してしまいそうだった。クロムは、そのまま振り返らずに玄関を出ると、家に向かって全力で走り出した。


二人の気持ちを映し出しかの様に、突如、雨が降り始めた。




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