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海外における相互理解のための日本語教育
こんばんは。ばななぼうやです。
ぼうやは現在キリバスで日本語教師をしているのですが、海外における日本語教育に関する記録や研究の少ない日本語教育界の現実の中において、ここキリバスの日本語教育はほとんど資料が残されていない国であるため、後の研究、分析・考察、検証のための資料としてキリバスの日本語教育の状況を発信して欲しいという依頼がぼうやのもとに舞い込んできたので、そんなものかねと思いつつ、半死半生のこのブログを活用し、私見、偏見が混ざるのを恐れず、後の研究のたたき台、踏み台となるような記事を何回かに分けて発信していきたいと思います。
今回はその第2回目「海外における相互理解のための日本語教育。」です。興味のある方は是非ご一読を。
2.海外における相互理解のための日本語教育。
海外で日本人が日本語を教える場合「直接法」が用いられ、それが最良の方法(なぜなら子供が語学を習得するのに外国語の介入はないから)とされているが、これは日本人が海外で日本語を教えるにあたり日本語で教える方が都合がよく(現地語の習得の必要が無いため)、また、日本語で教えることによりどの国ででも教えることができるという利点を最大限に享受するための詭弁だとぼうやは思っている。
この詭弁はぼうやにとってももちろん都合がいいので日本人が教える場合この流れはこの流れでいいのだが、現地語が堪能な現地人日本語教師に直接法を推進するのはいかがなものかとぼうやは思う。
文法とはすなわち言語のルールでありルールを教えることにより言語習得時間の大幅な短縮が可能となる。
て形の導入1つとってもルールを教えることによりほとんどの動詞のて形への変換ができるようになる。
それが初めて接する動詞でもである。
一方でネイティブスピーカーのて形変換の習得には膨大な時間が実は費やされている。
ネイティブスピーカーはて形変換のルールを知らないからだ。
ではなぜネイティブスピーカーはて形変換を自然にこなすことができるのか。
単に全部覚えているにすぎない。
間違った「て形」への変換は聞き慣れない形、言い慣れない形となり口から発せられる前後に話者自身がそれに気づくのである。
外国語として異国で日本語を学ぶ学習者にこの聞き慣れないから、言い慣れないからというフィルターで誤りに気付かせることはいかに日本人日本語教師がクラス内外で日本語のシャワーを学習者に浴びせたとしても不可能な領域である。
ではそれを量の確保のために現地人日本語教師にやらせるとどうなるか。
現地人日本語教師は日本語教師といえども多々誤りがあり、なおかつそれが定着しているケースが多いので、学習者は誤った日本語を浴びながら日本語を学習することになる。
なんと不幸なことだろうか。
日本人が世代間で表現方法に食い違いが出てきた場合、その違いは普及の過程で広辞苑等にのり市民権を得て時間の経過とともに正しい日本語と認識されるようになるが、ノンネイティブの間でいくら普及しても間違いは間違いのままである。
話がそれたが、文法というネイティブが母語を習得する際に利用されないツールをクラスで教えているのに、クラスで使用する言語はネイティブが母語を習得する際外国語の介入はないという理由で直接法が最良だとするのは私には矛盾以外のなにものでもないのである。
一方で文法にも限界がある。そもそも言語は文法ありきではないからだ。文法はそこにあった言語に対し後からルール付けをしたにすぎない。よってルールの精度により例外が生じるのが当然だ。
また、文法的に正しくても日本人が使わない文は多々ある。
日本語教師として生徒の作った文を採点しているといくらでもその例に触れることができるだろう。
母語の干渉を受けているケースや文化的背景からくる誤りも多い。
「きのうはいいてんきでした。あめがたくさんふりましたからみんなでシャワーをあびました。」
みなさんは学習者がこのような文をテストで書いた場合どのように採点するだろうか。
この文が意味する状況を詳しく説明すると
キリバスでは上水道が整備されていないので水は雨水をタンクに貯めてそれを使っている。
雨が降らない日がつづくと水が無くなるので「雨」は「いい天気」。
雨がたくさん降り、貯水タンク内の水の残量が増えたので浴室にあるシャワーを使ってシャワーを浴びたのではなく、基本家にはシャワーというものはないのでこの「シャワー」はたくさん降った雨を「シャワー」のようにして浴びることを意味する。
野外でシャワーを浴びているので「みんなで」は場合によっては10人を超えるかも知れない。
さて読者の方々はこの状況を上の例文から想像できただろうか。話し手と聞き手のイメージのギャップが大きすぎないだろうか。
でも文法の間違いは一つもないのである。
日本語教師として「いいてんき」を「あめ」になおさなければならない。クラスで「いい天気」は日本では「晴れ」と教えている。でもキリバス人にとっては「雨」もいい天気。将来日本の船に乗ってもキリバス人にとっては「雨」は魚を釣らなくてもいい「いい天気」なのかもしれない。
同じ理由で同僚の日本人漁師も「雨」を「いい天気」と表現するかもしれない。
日本人だって状況もしくは人によっては「雨」を「いい天気」と表現するではないか。
そうしておいて後ろの文でわざわざ「雨」と言いなおし誤解を防ぐという手法もある。
図らずもそのようになっている文をわざわざ「なおす」のである。初級だからである。
「いいてんき」を「あめ」になおすとそれに続く「あめが」の「あめ」が日本人には不要の「あめ」になってしまうが不問にする。そこでふと気付く、「あめがたくさんふりました」と「シャワーを浴びました」は「から」でつなげることができるのだろうか。
現在キリバス在住のぼうやにとっては状況がイメージできるのでもちろん問題無しだが、仮に日本の日本語学校で生徒が試験でこの文を書いた場合「なぜ雨が降ったからシャワーを浴びるのか」と疑問に思い、前件と後件がつながらないという理由で減点する可能性がある。
「バナナが好きですから、学校をやすみました。」の文が意味不明な文として0点となるのと同じ理由である。
なぜなら日本人はこのような文を作り得ないから。そしてこの文は日本人には意味がわからないから。
国や状況によっては上記の文が正しい文となる可能性もあるのにである。
日本語教育とはなんと自分勝手なのだろう。
日本の言葉や文化を教え、生徒に日本への歩み寄りを期待するのに、生徒の母国の文化が滲み出ている正しいかもしれない文を「日本人にはわからない。」という理由で非文にするのである。
日本語教育を通じての文化の”相互”理解を謳うなら、「バナナが好きですから、学校を休みました。」の文から多くを感じ取れる感性が日本語教師に求められるのではなかろうか。
そんなこんなで
ばななぼうやでした。
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