蘇芳色(SUOUIRO)~耽美な時間~

「折り梅」

TVで放送していた「折り梅」という映画。
以前、私の住む町で上映会があった。
町内会の掲示板に張り出された「折り梅」のポスターを眺めつつ、『痴呆がテーマなら、今の私には関係ないよなぁ』と思い、見に行かなかった。
昨夜も、見ようかどうしようか迷いつつ、レンタルビデオ屋には置いていないだろうから、見てみよう・・・という軽い気持ちでチャンネルをあわせる。
ところが・・・。
これが、面白いのだ。
嫁の巴との同居が始まってから、すこしずつ痴呆の症状が出はじめる姑・政子。
お金をとられた、ゴミ捨て場の位置がわからない、急に感情的になるなど、政子の痴呆の症状にとまどう家族たち。
巴の夫・裕三も、口では巴をねぎらうが、彼女の本当の気持ちにまでは、思いが至らない。
政子の痴呆が進むのに比例して、巴の疲労がピークに達し、家族が崩壊していく。

痴呆がテーマの映画なので、暗くやりきれない内容なのではないかと、ビクビクしていたのだが、杞憂に終わった。
痴呆が進む政子の、幼い頃の話を聞いた巴が、政子を“やっかいものの痴呆老人”として扱うのではなく、一人の人間として接していく。
姑の痴呆に戸惑っていた巴の、政子に対する意識の変化が、無理なく演じられていた。
こういうところが難しいと思う。
変に善人ぶった演技では、白けてしまう。
巴の心の変化と一緒に、観客も痴呆の政子を受け入れ、それ以降のシーンを見るとき、穏やかな視線をおくっているはずだ。
そして、クライマックスの「あの」シーンでは、共に喜びを分かち合いたいと感じる。
「折り梅」というタイトルの意味がわかる瞬間。
痴呆をテーマにしていながら、心が温まる作品なのだ。
見終わった後、これからやってくるかもしれない、親の痴呆、そして自分の痴呆も、恐がらずに迎えられそうだ。

「折り梅」公式HP http://www.oriume.com/


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