蘇芳色(SUOUIRO)~耽美な時間~

「ディスタンス」



是枝監督作品を見始めて、これが3本目。
最新作「誰も知らない」で感動し、長編2作目「ワンダフルライフ」でじんわりし、意気込んで見た 「ディスタンス」
ラストに近づくにつれて、どきどきした。
というのは『ここでいきなりエンドロールが出てきたらどうしよう?』という不安。
是枝監督の、ドキュメンタリータッチの映画は好きだけれど、今回の「ディスタンス」は、その手法がアダになったのと、内容がより観念的になっていたため、理解度が低く消化不良になってしまった。

3年前、あるカルト教団の5人の信者が大量殺人を起こした。
5人は教団の手によって殺害され、焼かれ、灰になって、山奥の湖にまかれた。教祖もまた自殺をした。
加害者である5人の信者の遺族たちは、毎年命日になると、その湖に行き、死者の冥福を祈った。
今年の命日も、遺族達は湖にやってきた。
そこには、事件の直前に教団から脱走した信者の坂田がいた。
一晩一緒に過ごすことになった遺族と元信者。
夜は更けていく。

まず、光が少ない映像なので、俳優の顔が見えにくい。
現実のシーンと回想シーンが入り乱れていたため、誰のエピソードなのか、すぐには理解できず、それが後々までわかりにくい原因になった。
そしてセリフの聞き取りにくさ。
ボソボソと呟くセリフが聞こえず、何回か巻き戻しをして再生したが、やはり聞きとれない。
重要な伏線を聞き逃したような気がする。

一番引っかかったのは、敦(ARATA)の存在。
彼は他の遺族に、夕子(りょう)の弟だと言っていたが、実は違うようだ。
それがラスト近くになってわかるのだが、それでも彼が本当は何者なのか、はっきりとはわからなかった。(私の理解力が足りないのだろうか?)
回想シーンで夕子と敦の仲睦まじい様子が出てきたので、てっきり近親相姦的な姉弟だと思っていた。
そういう状況に悩んだ姉が、宗教に救いを求める。
弟はそんな姉を今でも愛していて・・・なんて勝手に解釈していたんだけど、姉弟ではなかったのなら、やっぱり恋人か?
では、敦がいつも見舞いに行っていた老人、あれは誰?
敦が見舞いに持っていっていたのは、夕子の好きな雛菊。
とすると、老人は夕子の父親?
老人が亡くなったとき、息子が病院にやってきたそうだから、その息子が夕子の本当の弟なのだろうか?
しかし夕子は、同じ教団の坂田に、「弟は自殺した」と語っている。
敦の存在を訝る坂田は、敦に「彼女の弟は自殺したらしい」と言うが、敦は否定する。
坂田はなおも言う。
「嘘を言っているような、そんな言い方ではなかったけど」
それでは、敦は一体誰?
あの老人は、事件の被害者?

敦は老人の死を知ったあと、再び湖を訪れる。
家族で写った古い写真を焼き、湖に教団のシンボルだった百合の花を投げ入れる。
「とうさん・・・」という呟き。

敦は教祖の息子なのか?ではあの老人が?
事件の実行犯は5人なのだが、遺族は4人分しか出てこない。
5人目の実行犯は誰?
実は敦?
でもそれだったら、坂田が敦のことを知ってるだろうな・・・。

う~ん、やっぱり敦が何者かわからなかったので、そこが消化不良。誰か教えて下さい。

ただ、この映画を見ることによって、「事件の加害者にも遺族がいる」という、当たり前のことに気付いた。
何か大きな事件が起きると、必ず被害者の遺族に目が行く。
もちろん、事件の悲惨さを忘れてはならないために、被害者の痛みを知るべきなのだが、加害者の遺族の痛みを、私は忘れていた。
加害者の遺族は、彼らを止められなかった自分達を責めているのに。

是枝監督の表現したいことは、いつも真っ直ぐだなと思う。
奇をてらうわけでもなく、私が気付かず忘れていることでも、きちんと真っ当に考えている。それはわかる。

今回見た「ディスタンス」は、表現方法に戸惑うことはあったが、監督の感性に対しては、やはり共感をおぼえた。




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