蘇芳色(SUOUIRO)~耽美な時間~

「チャーミング・ガール」




彼女の名前はチョンヘ。独り暮らし。郵便局に勤めている。
自宅と勤務先を往復する毎日。帰宅後は、ぼんやりとTVを見て、ソファで寝る。その繰り返しで、日々がただ淡々と過ぎてゆく。
そんなある日、チョンヘは自宅マンションの敷地内で傷ついた野良猫を拾った。甲斐甲斐しく世話を焼く彼女の気も知らず、最初はソファの下に隠れていた子猫だが、しだいに彼女に慣れていった。それとほぼ同時期に、チョンヘの勤務する郵便局にある青年が通ってくるようになった。誠実そうな青年は、チョンヘの頬についていた睫毛を「何かついていますよ」と教えてくれる。ときめきながらそっと睫毛を取るチョンヘ。その後も、コンビニで彼に出会い、惹かれていく。思い切って青年に声をかけるチョンヘ。「うちに食事に来ませんか」と。とまどう青年に、「飼っている猫を見て欲しいから」と説明する。彼の返答は・・・。

瑞々しい映像の中で、孤独に生きる女性チョンヘ。何事も起こらない日常は、見ているうちに、彼女自身が「何事も起こさないように」しているのだとわかってくる。
日々の暮らしの映像の中に、ぽつんぽつんとはめ込まれる過去の記憶。最初は意味がわからなかったが、まるでジグソーパズルのように、ピースが数多くはめ込まれていくうち、どんどんチョンヘの過去が形を成していく。それがわかったときの・・・衝撃。

全てを知っていたであろう彼女の母は、数年前に亡くなっていた。ベタベタとした同情も憐れみもなく、ただ娘の傍でじっと佇んでいた母。ほんとうの慈しみとは、そういうものだと、きっとチョンヘの母は知っていたのだろう。最後まで登場しないチョンヘの父親。ここで私は動揺する。もしや・・・?まさか・・・?チョンヘの母も?

失恋の心の痛みに泥酔し、仲間に置いていかれた男子学生を介抱するチョンヘ。彼の話を、ただ黙って聞いてやる。そうすることが心の傷を癒す一番の方法だと知っているから。
彼が眠ってしまった後、りんごをむいていたナイフを見つめていたチョンヘは、刃の部分にハンカチを巻いて、自分のカバンにそっと入れた。ある決心のために。

飼っていた猫を、再び捨ててしまい、彼女はある場所に向かった。そして・・・・彼女がとった行動とは。

元夫の言葉。靴屋の店員の態度。本人達はまったく気にも留めていない言葉と態度の数々が、チョンヘや多くの女性たちの心の傷に塩を塗りつけているということを、この映画は知らしめてくれる。優しさって一体何?無神経さは罪ではないの?
心に傷を持った人たちを、優しい視線で見守り癒す作風は、まるで韓国の「是枝裕和」だと感じた。女性だけでなく、多くの男性たちにも見て欲しい映画である。

今年最高の、いや私の人生の中で5本の指に入るほど心を揺さぶられた作品だ。


チャーミング・ガール



「チャーミング・ガール」プレサイトは こちら

「チャーミング・ガール」公式ブログは こちら






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