蘇芳色(SUOUIRO)~耽美な時間~

「ロマンチックウイルス」


書籍名:ロマンチックウイルス~ときめき感染症の女たち
著者名:島村麻理
出版社:集英社新書

韓流スターや氷川きよし、ハンカチ王子らに熱狂する日本の中高年女性たち。
彼女らはまるでウイルスに感染したように、日々どんどん広がっていく。
著者はこれを「ロマンチックウイルス」を名づけ、どうして彼女らがこれほど熱狂するのか、検証している。


このように韓流スター(ペ・ヨンジュンssi)に夢中になる日本の中高年女性のことを書いた本は、マツヤマジュンコさんの「The ペ・ヨンジュン論」が有名ですよね。
ヨンジュンssiのファンでなくても、韓流ファンなら『そうそう、そうなのよね~』と共感できる部分が多い内容なんです。ヨンジュンssiに熱狂するファンと同じ目線で彼を絶賛する部分と、著者としての冷静な部分が共存していて、読みながら共感しつつ納得できるんです。

でもこの「ロマンチックウイルス」はそれがないんですよね。なぜか。
それは著者が自分のことを、大人ミーハーのはしりであり、ミーハー歴40年と言っている割に、今現在、韓流に熱狂している女性たちを冷ややかに見ているという部分が、気になりました。気になったというより、「ロマンチックウイルス」感染者の1人として、はっきり言って不愉快でした。

「ヤクソク」について著者が書いている部分を、少し長いのですが、以下に抜粋しますね。


「いよいよ明日は 待望のキスシーンですね♪」
2005年春に放映された『ヤ・ク・ソ・ク』という昼ドラマ(毎日放送)の公式ウェブサイトには、このような投稿があふれました。
結婚15年目の主婦、葉子(南野陽子)が、ふとした偶然から知り合った10歳年下ソンジェ(ヤン・ジヌ)と不倫の恋に落ちるという物語は、ストーリー、映像、音楽、いずれも、ロマンチックウイルス・韓流型を十二分に意識した作り方でした。番組プロデューサーは、自分の妻が韓国ドラマにはまる姿を見て企画を思いついたとか。「『冬ソナ』ファンはヨン様に擬似恋愛している。相手役を韓国青年にして主婦の夢をかなえてあげたい」と、南野陽子の相手役にペ・ヨンジュンふうの韓国若手俳優を起用、番組のキャッチフレーズは「不純な純愛」でした。
放送開始後、番組の公式ウェブサイトには、感想や注文が殺到しました。主人公のふたりがキスをする場面に満足した人がいれば、「今日はちょっと物足りなかった」とか「ラブラブ度激しく不足!」などと不満を述べる人がいます。
テレビ局が管理するサイトゆえ、あらかじめ選り分けられた投稿が掲載されたにすぎません。が、こうしたコメントには、視聴者の多くを占めていたはずの韓流型感染者が抱く願望がよく表れていたと思います。このドラマは、わたしも全45話をほぼオンタイムで見ていましたから、投稿者の気持ちがよく想像できました。
うっとり感を「分泌」させてくれる材料は、豊富なほうが良いに決まっています。ミーハーならだれもがそうですが、要は、ロマンチックな場面をネタに、それぞれの妄想をかき立てたいわけです。
「この際行くところまで行っていただきたい!」。ドラマが終盤を迎えるにつれ、サイトにはベッドシーンを含めたラブシーンのリクエストが相次ぎました。
「ピンクな妄想で恐縮だけど」ふたりが美しく結ばれる姿が見たい、ふたりがふとんに入り、「パチッと電気を消す」ところだけでもいいからお願いします、などというものでした。

(「ロマンチックウイルス」島村麻理 著  集英社新書より抜粋)


う~ん、リアルタイムで熱狂していた私からすれば、こういう記述には違和感を抱いてしまいます。「ヤクソク」紹介のこの部分は、ウイルス感染者の性的妄想についての分析箇所だったので、仕方がないといえば仕方がないのですが・・・。
それでもやはり、あの番組プロデューサーが「主婦の夢をかなえてあげたい」と思って作ったと書かれているのには、ちょっとげんなり。リアルタイムで見ていたんでしょ?それならば、あの結末について、どれほど主婦の夢が砕かれたか知らないわけないのに・・・。
私たち視聴者は、ソンジェと葉子のラブシーンだけを望んでいたわけではないのに・・・。(もちろん、彼らのラブラブシーンがあると、とってもうれしかったけれど)
その思いは、自分自身の妄想を満足させるためだけのものであったのでしょうか?
著者は、「ヤクソク」の記述より少し前のページに、「こんなにも燃えられる自分が、恥ずかしながらもいとおしい・・・。つまり、ペ・ヨンジュンのファンであれば、『ヨン様好きな自分が好き』なわけです。感染者の自己愛は、この部分において炸裂します。」と書いています。
そうなんでしょうか・・・?
ジヌくんを好きな自分が好き?ジュンギくんが好きな自分が好き?
う~ん、気が多い自分のことを恥ずかしいと思うことはあるけれど、 ○○くんを好きな自分が好き とは思わないんですけど・・・。(汗)
だから「ヤクソク」についての記述で、自分の妄想のネタ(笑)のためだけにソンジェと葉子のラブシーンを望んでいたわけではなく、すっかり物語りに入り込んで、彼らの幸せを望んでいたということもあるんだと思うんですよね。

他にも気になる部分が多数あります。
著者は大人ミーハーを自認していながら、このロマンチックウイルスには感染していないと明言します。
「けれどもどういうわけか、わたしはドキドキしません。せっかく訪れたブームです。ハマれるものならハマりたいのに、どうも照れてしまうのはなぜなのでしょう?」
それについて著者は「わたしたちのようなミーハーの古手は、免疫がありすぎて、ロマンチックウイルスに感染しにくい、ということなのでしょうか」
それは果たして免疫だけの問題なのでしょうか?
私は、著者がロマンチックウイルス感染者を見下してみているからと思えてならないのですが。

最後にヨン様についての記述があります。
その部分を読んで、ヨンジュンssiファンが読んだらどう思うだろうか?と考えました。
ヨン様と書かれている部分をジヌくんやジュンギくんに置き換えて読んでみたら・・・。怒りがこみ上げてきます。

ヨン様にはときめかない、とこの本の最初に書いたわたし自身、その後どうなったかをお伝えして終わりにしたいと思います。(中略)ほんの数日前の明け方のことです。ペ・ヨンジュンが、わたしの布団にごそごそともぐり込んできて(!)あまりの驚きで目が覚めたのでした。
夢から覚め、さんざんひとり笑いした後で考えました。熱狂の対象としてもっとも遠くにいたはずのヨン様がついに登場するとは、どういうことか。理由はふたつほど浮かびます。ひとつは、この本を書いているという職業病のようなもの。そしてもうひとつは、「妄想の燃料切れ!」という実感でした。
考えてみれば、ずいぶん長い間、仮想でも現実でもロマンスから遠ざかっています。ヨン様には申し訳ないけれど、このところの燃料切れや栄養不足(だれでもいいから燃える相手が欲しい!)を、「ヨン様明け方事件」がはからずも思い知らせてくれたのでした!
夢に現れたからといって、ヨン様に陥落したわけではありません。けれども、好むと好まざるとにかかわらず、自分のありようを瞬時に知らしめてしまう「ウイルス力」にはやはり侮れないものが・・・。その点にかんするかぎり、ペ氏には感服するほか、ないのでありました。
(「ロマンチックウイルス」島村麻理 著 集英社新書 より抜粋)


私たちロマンチックウイルス感染者は、その対象の韓流スターのことを大切に思っています。たとえ批判をしたとしても、そこには があります。たとえヨンジュンssiのファンでなくても、ファンが彼のことをどれほど大切に思っているか知っています。だからこそ、ヨンジュンssiのファンでもない人が、手っ取り早い燃える相手としてヨンジュンssiの夢を見たと言ってのけることに、憤りを感じるのです。
ファンが自分勝手に妄想するのはいいんです。お互い様ですから。(爆)
でも他の人が好きだといっている人を、貶めるような記述をしていることが不愉快でした。


韓流がビジネスになるとわかると、それまで批判的だったマスコミが掌を返したように、韓流におもねって来たとか、韓流ファンも日韓の社会的な背景まで興味を持つべきだとか、感染をこじらせるとまずい・・・とか、説得力の有る部分もありましたが、全体的に見れば、先に述べたようなウイルス感染者を見下げたような記述がそこかしこにあり、不快感を拭えませんでした。


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