| slowのきっかけ |
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| 2002
年の終わり頃だったろうか。一冊の絵本に出会った。台北在住の絵本作家ジミーの『地下鉄』という大人向けの絵本だった。その絵に惹き付けられるように読ん
だ。主人公は盲目の少女。彼女をとりまく世界を切なく描いているものだった。 ジミーは、元々絵本作家ではなかった。病気になったのをきっかけに絵本を描くようになり、それが大ブレイクしたらしい。 それに感化され、あたしには何かできないだろうか?何ができるだろうか?と考えるようになった。 |
| あ
たしは自律神経失調症という病気を持っている。もう10年になる。今でも時々発作に襲われることがある。 あたしは本業は建築士だ。でも、発病して からまともに働くことができなくなってしまった。動悸・目眩・過呼吸・不眠症・広場恐怖症・長期の微熱・・・体の基本的なコントロールが全てうまくできな くなってしまい、会社も休みがちになり、そこにきて不景気でリストラされてしまった。 図面を描く事が大好きで、忙しいときは徹夜で仕事をしたこともあった。給料は安かったけど、すごく楽しい毎日を送っていた。なのに、病気はあたしから平和 な日常を奪ってしまった。 リストラをきっかけに、あたしは精神科のある病院へ通うようになった。安定剤を飲み、少しずつ病気と付き合う方法を覚えていった。この病気は簡単には完治 しない。もしかしたら一生付き合っていかなければいけないかもしれない。本やネットで色々調べて色んな事を知った。 そして1999年。転機がやってきた。彼と出会い、あたしはどんどん快方へ向かっていった。そして2000年・暮れ、彼と結婚した。こんな体で子供を生む 事は諦めていたけど、2001年・夏、元気な女の子を出産した。 そして今は派遣会社に登録して短期の仕事をやりつつ、知り合いの工務店でパートをしている。 |
| こ
こまで回復したあたしに出来る事。病気を知っているあたしに出来る事。建築を活かせる事。趣味を活かせる事。そんなことを沢山考えた。 精神的な病を持っている人の痛みは分かる。それを少しでも和らげてあげられたら嬉しい。それを建築でやろうと考えてみた。すると自然素材を使った家や、自 家発電できるシステムに行き着いた。その先へ行こうとすると、昔の生活スタイルを学ぶことになった。 昔 の人はその土地にあるもので生活していた。山から木を切り家を建て、山の土で壁を作り、和紙を漉いて建具を作り、カヤを集めて屋根にした。食べ物も自分達 で作り、衣類も糸から紡いだ。お日様が昇ると起きて、日が沈むと眠った。そして、日本には四季がある。それぞれの季節には色んな植物が育つ。それを庭や山 から摘んでは花瓶に生けただろう。 そんなゆったりとした時間が流れる生活が、心にも体にも一番いいんじゃないだろうか。 |
| こ
れはあくまでも理想だ。今の生活を捨てて、まったくの昔の生活に戻るのは難しいだろう。そう思い、あたしのできることをやってみようと思った。小さなこと
でもいい。今の生活の中にslowな事を取り入れてみよう。 そしてあたしのslowな生活はスタートした。 |
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