嫁様は魔女

嫁様は魔女

硝子窓(スピーカー)



あんたねー。

風呂上りも暑いかも知れないけど、
ゆでたてほやほやの赤ん坊と密着状態の授乳ってどんだけ暑苦しいか!

しかもまだシャワーしてへんから自分が気持ち悪い。

あぁ、腕にアセモできそう。

いいよなぁ、プッハーなんて気兼ねなくやれる人は。
麦茶の一杯も入れてくれたらいいのに。

努力をしようとしてるのはわかるんやけど
たまーにドカンと目立つ事なんてせんでええから、日常のしょっとした事で気ぃ使ってよね?

「なー、奏ちゃん。」

おっと、首ががっくんし始めた。
抱き変えて立ち上がり、そのままネンネの姿勢に持ち込む。

「おりこうやなー、かしこいなー、いっぱい飲んだからいっぱい寝よなぁ。」

どこまで通じてるかはわからんけど、とにかく話しかけるんが重要らしい。

だらり、奏人の全身の筋肉が一気にゆるみきる。
この瞬間って小さな勝利感って言うか達成感があるんよねぇー。

和室のベッドにそっと寝かせて、ウチは2階へ貴信を呼びに行った。

*

「おう。」

貴信はキースにあげると約束した本をパッキングし、
そのついでに目に付いた本を読み返してる。

「寝た?」

「結構あっさりな。」

「じゃあ降りようかなぁ。陽菜ちゃんなんて?」

順番に階段を下りながら話す。

「うん、今日はありがとうって。」

「いやぁ、こう言ったら悪いけどすごいって言うか、面白いって言うか。 
 さすが陽菜ちゃんだよなぁ、衝撃の3コンボ。」

「かっこよかったよねぇー、はぁ~。」

「なんだよ、はぁーんって、それは。」

「だってあんなカッコええ人目の前で見たん初めてやもん。」

「悪かったなー、由緒正しい大和民族で。」

「うん。」

「うんじゃないだろ、そこは。ウソでもフォローしろよな。」

「えぇー、・・・そんなことないよ、あんたのほうがステキって?
 そんな見え透いたおためごかしのウソで満足?」

「いいよ、もう。期待しないから。
 それよりオレの実家のほうどうする?」

「どうするって?」

陽菜ちゃんからも『絶対オモシロいから連絡して』とは言われてるけど。

「うーん・・・・、どうせすぐアメリカ行くんやし。  
 そのまましとったらアカンかなぁ?」

ウチはオモシロイよりオソロシイ。

「でもさ、後でバレたほうがマズいんじゃない?
 多分、由香子が怒られると思う。」

「ふぅー・・・・、確かになぁ。
 でもイヤなもんはイヤやねん、できればウチの事なんて忘れてて欲しいくらいやねんけど。」

「そうはいかないだろ。
 やっぱり一応は連絡だけしといたほうがいいんじゃないかな。」

「えぇー、誰がぁ。」

「電話くらいオレがするけどさ。」

「いらん事言わへん?」

「失礼だなぁ、オレがいらないことなんか言ったことある?」

悪いけど!その件に関しては一切信用してません。
ざっと思い返すだけでどんだけ出てくるか。

しかも自分では、それが余計なおしゃべりって自覚してないのがタチ悪い。

「うん。ある!」

「じゃあさぁ、ココで電話するから横で聞いてればいいじゃん。
 ほら、こうすりゃあわかるだろ。」

貴信は電話をオンフックにして、スピーカーのボリュームを上げた。

「・・・わかった。」

連絡して文句言われるのと、しなくて文句言われるのならスジ通してる方がマシかも。

ウチは山梨への連絡を不承不承OKした。

「はい、清水でございます。」

はぁー・・・・・・。
聞きたくない声を久々に聞いた。

この『ございます』って言うんだけですごい破壊力。

胃に来るわぁ。

「あ、オレ。」

「あらまぁ、珍しい。あなたが電話してくるなんて、由香子さんは留守なの?」

「なんで?」

「だってあの人がいたらかけづらいんでしょ?」

はぁはぁ、さようでございますとも、底意地の悪い鬼嫁ですからね。

「そんな事ないよ。それよりどう?具合は。」

「まぁまぁかしら、でもこの暑さで食べられなくってねぇ。
 すぐに疲れちゃうからウォーキングもお休みしてるのよ。」

朝の5時や6時に人の家に押しかけて、レモン水を当然のように要求するおばさん連中の顔を思い出した。

ウチは前世紀の部活のマネージャーちゃうっちゅうねん。

「私の事よりあなたはどうなの?
 この間えらく酔っ払って愚痴の電話をしてきたって理恵から聞いたわよ。
 大丈夫なの?」

理恵に?酔っ払って??愚痴ぃ!?

「なんだそりゃ?」

なんだそりゃはウチの台詞や!

「あなたがかけてきたんでしょ、あんな遅くに酔って電話してくるなんて。
 気になるじゃないの、大丈夫?
 今ストレスでうつ病とかってはやってるんでしょ?」

ちょっと待って、今すぐこの場でストレス性のうつ病になるんはウチや。

「さぁなんだろ?全然覚えてねーわ。
 ちょっと酔っ払ってなんか言ったくらいでうつ病なんて大げさだよ、かあさん。」

「大げさなもんですか。
 あなたは呑気だから自覚してないのかも知れないけど、
 職場と嫁にはさまれて、思ってる以上のストレスが鬱積してるのよ。」

とりあえず苦笑いの貴信。

そっか。
初めて聞いたけど、ウチのおらんとこではこう言う会話なんやね。

酒飲んで愚痴ってる板ばさみの人を心配したいんやったら
先に自分のダンナさんを心配したらええのに。

「もうね、あなたが何でも背負い込んで我慢してるんじゃないかって思うと
 ・・・。」

「あのさー。ほんっと、オレは元気だし。奏人、ハイハイうまくなったんだよ。ははは。」

なーにがハハハや!

「何がハハハよ。聞いたわよ?あの嫁、今度はバイトに行ってるんですって?
 それも夜まで出歩いてるそうじゃないの。」

ぶはっ!!むせて噴きだしそうになる。

ちょっとぉ、なんでそんな話バレてんのよ!
やっぱりいらん事言いまくってるやんか、バカノブ!!

「わがままで自分勝手で本当にどうしようもないわね。
 嫁の自覚がないだけならまだしも、母親としての自覚まで欠けてるなんて。
 最近こっちから何も言わないのを幸いにって、好き放題してるんじゃない?」

「あ、ああ。かぁさん、それ誤解だって。
 一回昔のバイト先に頼まれて手伝いに行ったけど、その日だけの話だよ。
 なんかねじ曲がって伝わってるなぁ、はは、ははは。」

「そうなの?」

「当たり前じゃないか。」

「あなたがそう言うならいいけどね。」

全然『いい』と思ってないのも、まったく信じてないのも丸わかりですが?

「甘やかすと際限なくつけあがるわよ、かわいそうぶるのなんかお手の物なんだから。」

だぁーれーが?いつ!?可哀想ぶったってぇ?

貴信がそーっとスピーカーの音量を下げようとしているのが目に入った。
両手で大きくバッテンをして、調整するんをやめさせる。

「それよりさぁ、用があって電話したんだけど?」

「なぁに?離婚届の証人欄なら代筆しててくれて構わないわよ。」

「・・・。」

・・・。

はい?

「何言ってんだよ、相変わらず冗談キツイんだからー。」

エアコンが効いているのに貴信は額に汗をかき始めた。
冷や汗か脂汗・・・・あれってどっちなんやろう?

ウチの冷たい視線を感じてるんかどうか、
あっはっは、と白々しく笑いながら性懲りもなく貴信の指は
スピーカーフォンの音量を調整しようとする。

睨みながら真横に立ってやった。

・・・何笑ってんねんな。

ちゃうやろ!そこは笑うトコと!!

なんでお義母さんが好き放題言うんか、よぉわかったわ。
こう言う時にあんたがビシっと言わんから調子乗るねん。

「あら、違うの?残念ね。それ以外で用事ってなんなの?」

「報告程度の話なんだけどさ。
 高城の陽菜子さんの結婚が決まったんだ。」

「へぇ、それで電話をくれたの、助かったわ。」

「ん?」

「あなたが電話をくれなきゃ、ウチは結婚祝いひとつ渡さない不義理をして大恥かいちゃうところよ。
 そしたら由香子さんの思う壺かも知れないけどね。
 どうせあの人は電話寄越す気なんてないでしょうから。」

うがー!!なんで本心から祝う気のない人に電話せなあかんねんー!

「それで?お式はいつ?」

「まだ決まってないって言うか・・・。」

「あぁ!それで電話してきたのね?」

なぜか急にわが意を得たりって感じで生き生きと話し出すお義母さん。
その『わかった』は多分、明後日方向にカンチガイしてると思う・・・。

「え?」

「先生に聞きたいんでしょう?日取り。いいわよ、一生の大事ですもの。
 ちゃんと日を見ていただかないとね。」

ええ!?ちょっと待て!
誰があんたの大好きな占いのお世話になりたくて電話するって言うんよ?
明後日方向どころか、全然まったく違うんですけどぉ!

怒りや苛立ちも通り越して・・・なんか気が遠くなってきた。

やっぱりこの人たちの日本語、意味わかれへんわ。

いきなり占いの話になってしまって、貴信でさえ話についていけてない。

「陽菜子さんと相手の方の誕生日を教えてね。
 新婚旅行の方角も見ておいて貰ったらいいかしら?
 こう言うことを迷信だとか言ってないがしろにする人も多いけど
 だからなのよね。
 家庭がうまく行かなかったり、つまらないもめごとが起きるのは。」

はっはーん!!
あぁ、そうですか?
ウチらが結婚するとき、何もかも占いの先生のおっしゃる通りにって強行突破されましたよねぇ、お義母さま。

新婚旅行の行き先も変更させていただきましたわ。

おかげで今この状態が平和って、そうおっしゃる訳ですね?

先生がいいとおっしゃって結婚したウチに離婚を迫るのって
なんか矛盾してませんかぁ?

「いや。そうじゃなくて・・・・。」

もっとはっきり喋れー、バカノブ!!

「さすがに陽菜子さん位の年になるとしっかりされるのねぇ。」

年ってね!まだ30前半なんですけど?
遠まわしに行き遅れとでも言いたいんかいな。

「え?いや、あの。多分挙式はしないと思うんだ。」

「まぁ!どうして?」

「相手の人がアメリカの人でさ、仕事の関係で再来月には本国に帰るんだって。
 そんで急に結婚する話になったからあんまり時間ないらしい。」

「はぁ、アメリカ・・・それはまたなんて言うか、すごいわねぇ。
 普通の結婚はしないタイプだと思ったけど。」

「陽菜子さんも仕事引き継いで、書類関係の手続きしたらすぐに向こうに行くらしいよ。」

「でも・・・だからって、披露宴はともかく挙式もしないの?」

「相手の人も忙しいみたいだしね。」

「じゃあせめて入籍日くらいは見てもらわなくちゃ。」

「いいよ、ほら、相手の人はアメリカ人だし。」

「アメリカだろうが中国だろうが関係ありません。」

「んー、でもムダになると思うよ、多分理解してもらえないと思うし。」

「そんな事は陽菜子さんが上手に調整すればいいんじゃないの。 
 相手の人に了承してもらう必要なんてないでしょ。」

あのねー、その基本姿勢がそもそも問題やと思うねんけど?

「いいわね、誕生日よ。」

「そこまでしなくていいって。」

「何言ってるのよ、私だって心配してるのよ。
 まったくの他人でもない人が、アメリカなんて遠い所に嫁ぐなんて。
 どんな些細な事でも、万難を排してあげたいって思うじゃないの。」

「へぇ、意外。かあさんがそんなに親切とは思わなかったよ。」

「失礼ね。私、あの陽菜子さんは嫌いじゃないのよ。
 ちょっと変わってるところはあるけど、明るくて陽気で裏表なさそうだもの。」

裏表ありそうで悪かったわねっ!

「そうだね。確かにおもしろい人だよ、陽菜子さんは。」

「そうでしょ、私の見る目は確かなのよ。」

くらくらがひどくなってきた。
なんやねん、その満々の自信はどっから来るねん!

その見る目とやら、ウチらが結婚するときに発揮できんかったんか?

発揮して、将来由香子さんのことは大嫌いになりそうって
最初っから結婚に猛反対しといてよ。

まぁ、見る目ないんはこっちもご同様やけどな。

『厳しそうなお義母さんやけどそのうち仲良くなれる』なーんてなまヌルく考えててんから。

あー。片腹痛いっ!!

「だけど再来月にアメリカだなんて、またずいぶん急な話ねぇ。」

「あぁ、でかい証券会社に勤めてるって言ってたから相当忙しいんだろうね。」

「でもまぁ、安心したわ。そんな事情じゃなかったらてっきりパンパンかと思っちゃうところよ。」

ぱ?

ぱんぱん?

パンパンってなにーっ!!??

「何?それ?」

「赤線よ。結婚もしてないのに子供でもできたのかって思うところだったわ。」

パンパンとか赤線って・・・意味はわからんけど
多分なんかものすごい差別用語のような気がする。

ってより、子供でもって。

何?その勘の良さ、怖すぎ!!

「できちゃったから慌てて入籍しました、なんて身持ちの悪い人が身内にいたら、
 みっともなくって世間に顔向けできないもの。」

あんたねー。
自分の娘は同棲してたのにそんな事言う?
どの口が言う!?

まさか同棲してて異性不純交遊がなかったと思ってるわけじゃないわよね?










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