紅蓮’s日記

紅蓮’s日記

プロローグ


春も半ばの五月、午後六時。
一人の青年が歩いている。
彼は高校一年。部活をしていなければ、帰宅していても別におかしくはない。
後ろから一人の女性がやってきた。彼女はこの青年の恋人であり、
彼女もまた帰宅の途中であった。
まわりから見れば一見普通のどこにでもいる高校生だ。
しかし彼らは普通ではなかった。
青年の後ろには何かが飛び回っている。
角があり、牙があり、翼があり、尻尾もある。
学会に発表すれば学者がとびつきそうなほど奇妙な生物である。
彼女の肩には鳥がとまっている。
しかし、ただの鳥ではなかった。
赤く美しい長い尻尾を持ち、はばたくとその翼からは
時折火の粉が飛び散ったこの生物(はたして生物といえるのだろうか?)たちは
空想上ではよく見かけるものだった。
しかし、現実では存在し得ないものだった。
つまり、この二人は存在し得ないものたちを連れているのだ。
見るからに普通ではない。
突然、二人をとりまく空気が変わった。

「またか・・・・」

と青年がつぶやく。

「しかたないよ。こういう世の中だもん。」

と彼女が励ます。
そして次の瞬間、その場に二人の姿はもうなかった。
彼らのこの不思議な能力は実は人間ならだれでも持っている能力である。
しかしこの能力の使い方を覚える機会があったり、
この能力が突然開花するのは極一部の者だけである。
彼らの能力も突然開花したものであり、
彼女の言う「こういう世の中」というのもこの能力が原因だった。
そして、この能力の開花がもとで青年や彼女、
その他この二人に関わる多くの人の人生や価値観が変わってしまった。
この青年の能力が開花したのは一年前のことである。


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