紅蓮’s日記

第八話

「どうりゃぁぁぁ！」

大地が攻撃するたびに荒野が震えた。

「すごい力だな………」

忍は大地の攻撃を避けながら呟いた。

「ちっ、さっきから何もしないで逃げてばかりで。
精霊も使わずオレを倒せるのか？」

大地は自分の攻撃が当たらないことに次第にいらだってきた。

「いちお精霊は使っているのだが………
仕方ない。使い方を変えよう。」

忍が言った瞬間、大地は背中に痛みを感じた。
大地は振り向いた。
だがそこには何もなかった。
あるのは血を流す背中の傷だけだった。

「よそ見は禁物だぞ。」

大地は背後に気を取られていたためガードが間に合わず
忍のハイキックをモロに受けてしまった。
大地は吹き飛ばされ地面を転がった。

「体が小さい割には重い蹴りを出すな。
影山、お前さっき何をした？」

大地は起き上がると右手で口元の血をぬぐった。

「敵に自分の能力を教えるほどオレは親切ではない。
自分で考えろ。」

「そうか、確かに不親切だな。」

「もっともお前が生きている間にオレの能力が何かわかるかどうかは
わからないがな。」

「言ってくれるじゃねぇか。」

大地は握っているフレイルを振り上げた。

「さっきのお返しだ。
食らいやがれ。
大地の釘針（アーススパイク）！！」

大地がフレイルを振り下ろすと針が忍をめがけて地面から伸びた。
忍は鮮やかなバク転で針をかわした。

「まだまだ！」

大地は続けざまに針を伸ばした。
新たに三本の針が忍を襲った。
忍は小さな体を生かし、針と針の間を縫うように大地の攻撃をかわした。
が、四本目の針が不意に忍の足元から現われたので忍は体制を崩した。

「もらった！」

五本目の針が忍の背後から伸びた。
忍は瞬時に五本目は避けられないと悟った。

「シャドウ、来い！」

忍の足元から黒い物体が現われ、
まるで体を這うかのような動きで忍の背中に移動し翼に姿を変えた。
そして忍は空へと逃げた。

「面白い技持ってるな。」

大地は苦笑した。

「ようは使い方だ。」

忍は五メートルくらいの高さを浮遊しながら言った。

「お前の攻撃はここまでとどかないだろ？」

忍は嫌味を言った。

「言ってくれるじゃねぇか。
伸びろ！
大地の連接鎚矛（アースフレイル）！」

大地がフレイルを振るとフレイルの鎖伸び、
フレイルの先端は一直線に忍に向かっていった。

「うそだろ？」

忍はあわててフレイルを避けた。
大地は長いフレイルを巧みに扱い上空の忍に猛攻を仕掛けた。

「ハァ………ハァ………さっきから………
ちょこまかと動きやがって………」

大地は次第に息が切れてきた。

「そろそろだな。」

忍は突然攻めに転じた。
忍の背中の翼から黒い槍のようなものが伸び、大地に向かっていった。

「やっと仕掛ける気になったか。」

大地はそう言うと一歩後ろに下がり槍を避けようとした。
だが体が動かなかった。
疲労のせいか。
いや、そんなはずはない。
大地は古くから営む地島石材店の長男、
小さい頃から父親の手伝いをさせられてきたので
この程度の運動量でへたばるわけがない。
しかし体が重い。
まるで何かで体を縛られているかのように………
動けない大地の体を黒い槍が貫いた。

｢ぐぁっ！｣

大地の左脇腹に激痛がはしった。

｢ちっ、狙いが外されたか。ならば！｣

忍は左腕を前に突き出し拳を強く握った。
すると大地の体から自由が奪われた。

｢くそ………体全体が動かねぇ………
昨日と同じ技か………くそぉ！｣

大地は無理矢理体を動かそうと全身にありったけの力をこめた。

｢くそ………この馬鹿力が………これで終わりだ。｣

再び忍の翼から槍が伸びた。

｢くそぉ～、動けぇ～！｣

すると不意に大地の体に自由が戻った。
大地は間一髪で忍の黒い槍を避ける事ができた。

｢そうか。わかったぞ。｣

大地は自分の背後から伸びる黒い槍を見て言った。

｢背後からの攻撃、黒い物体の動き、そしてこの金縛り………
お前の能力は影だな。｣

黒い槍は大地の影から伸びていた。

｢ほぉ～、お前でもわかったか。｣

忍は不愉快そうな顔をした。

｢オレの精霊シャドウは影を操る悪魔だ。
この翼も自分の影を実体化させたもの。
影は常に持ち主と同じ動きをするもの。
つまり影の動きを止めてやればその影の持ち主の動きを
止める事も可能というわけだ。
そして、影はこんな事もできるぞ。｣

忍は地面に降りてきた。
そしてそのまま地面の中へ吸い込まれるように姿を消した。

｢オレのシャドウは一定範囲内の影の中を移動することができる。｣

どこからともなく忍の声が聞こえた。
そして大地の背後から姿を現わし黒い右手で大地の肩を切りつけた。

｢つまりいつでもお前の背後から攻撃することができる。
そして、これがシャドウの武器化形態、悪夢の影手(ナイトメアハンド)だ。｣

忍の話を聞き終えると大地は大声で笑った。

｢なるほどな。
確かにそれは厄介だ。
オレの体力の減りが激しいのも影でオレの体に負荷をかけていたからだろう。
いい能力だ。
しかし、お前の能力がわかったことえでオレはお前に勝てそうだ。｣

｢なに？そんなはずがあるはずがないだろう。
その言葉今から証明してみろ。｣

忍は再び翼を生成すると空へと舞い上がった。

｢お前はオレに勝てない。
勝てるはずがない。
オレに勝つと言うならこの技を破ってみろ。
不動の悪夢(アンムーヴドナイトメア)！！｣

またも大地の体から自由が奪われた。
大地にはこの技を破る体力は残っていなかった。

｢黒影の死槍(ヘルシャドウランス)！！｣

忍の左右の翼から一本ずつ、大地の背後の影から二本、
計四本の黒い槍が大地に向かって伸びた。
そして大地の左肩、右胸、両足を貫いた。

｢これからだ！｣

大地はそう言うと槍が体を貫いた状態のまま忍に向かっていった。
左手で自分の右胸を貫いた忍の左翼から伸びる槍を
しっかりとつかんだままで………

｢でやぁぁぁぁぁぁぁ！｣

大地は雄叫びを上げながら走った。

｢まだ動けるのか！？この化け物め。｣

忍はあわてて自分の影の中へ身を隠した。

｢この槍はお前の影だ。
お前の翼から伸びた影だ。
この影の実体化を解けていない。
つまり、どういうことかわかるよな？｣

｢ま、まさか………｣

忍はあわてて影の実体化を解こうとした。

｢もう遅い。
どうりゃぁぁぁぁぁ！｣

大地は自分の胸を貫いている影を力一杯引いた。
忍は影から引きずり出され宙に投げ出された。

｢影山の一本釣り～！
さっ、とどめだ。
大地の釘針(アーススパイク)！！｣

大地は自分の足元から針を出した。
大地はその針の先に乗ると針の突き出る勢いを利用して飛び上がった。

｢ここならお前が隠れる影もオレを縛れる影も遥か下だ。
オレの勝ちだ。落岩の槌(ロックドロップハンマー)！！｣

大地のフレイルの先端が巨大化した。
そして、忍目掛けて巨大なフレイルを振り下ろした。

｢ぐあっ！｣

辺りにものすごい衝撃音が響いた。
忍はその場で気を失った。
大地は忍の姿を見ると右手でフレイルをかつぎ、
親指を立てた左の拳を前に突き出すと雄叫びを上げた。

｢完･全･勝･利～！｣

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