紅蓮’s日記

紅蓮’s日記

第二十七話




「お前か。あの爆発を仕組んだのは?」

ホテルから五百メートルほど離れたとある一角で
連鎖は一人の女性と出くわした。
手には細く長い、サーベルのような黒刀が握られている。

「ここまでステルス化した霊力を感じるとは………
さすが元レジストグリマーズの三頭犬ね。」

女性はクスリと笑った。

「でも今あなたたちにわたしの存在を知られるわけにはいかないの。」

女性は一瞬で連鎖との間合いを詰めた。
そして手に持つ黒刀を振り下ろした。

「は、早い………」

「わたしの名は『無(む)』、存在のない女………」

薄れていく意識の中、連鎖の頭に女の声が響いた。


窓の外に投げ出された龍太の体は真っ逆さまに落下していた。
地面がどんどん近づいてくる。

「くそっ、一か八かだ。風龍!」

龍太は風龍の名を叫んだ。
すると風龍は龍太の体内から大きな翼だけを伸ばし、実体化させた。

「飛べ~!」

風龍の翼を羽ばたかせると翼は風を掴み、龍太の体を宙へ浮かせた。

「………助かった。
影山の奴に精霊を使った飛行の仕方教わっておいて良かった………」

龍太は冷や汗をぬぐいながら体制を立て直すと、
自分の体をホテルの十二階の高さまで飛び上がった。

「破水龍槍(はすいりゅうそう)!!蛇水柱(だすいちゅう)!!」

龍太は水龍を武器化させると水龍を放ち、ホテルへの突破口を作った。
そして灼熱と化したホテル内へと飛び込んでいった。

「………つっ、みんな大丈夫?」

ホテルの中に取り残された舞火は意識を取り戻した。
舞火は辺りを見回した。辺りは真紅の炎に包まれていた。
そして天井には黒い煙が充満していた。
舞火の近くで緑と林が気を失っている。
二人には外傷もなく、今のところ命に別状はなさそうだ。
舞火の体にも目立った外傷はない。
三人の近くには九割方溶け、小さな粒となった氷が四散していた。

「これは龍太の氷壁(ひょうへき)………そうだ、龍太は?」

舞火は慌てて龍太の姿を探した。

「そんな大声ださなくてもオレはここにいるぞ。」

舞火の背後で声が聞こえる。
舞火が振り向くとそこには右手に破水龍槍を持ち、
左手で胸を押さえる龍太の姿があった。

「炎の勢いが強すぎてこいつ(破水龍槍)じゃ消しきらねぇ。」

龍太は苦笑を浮かべた。

「この馬鹿!あんたまた自分気にせず他人のことだけ守ったでしょ!」

舞火は怒鳴った。
舞火や林、緑と違い傷だらけの龍太の体を見ればそれは一目瞭然だった。

「この二人はともかくわたしは丈夫なんだから、
わたしなんか守らないでたまには自分の身を守りなさいよ!
いつもいつも自分より他人優先で。自分が死んじゃったらどうするの!」

舞火は龍太の胸を思いっきり引っ叩いた。

「っ!馬鹿。爆風まともにくらって肋が何本か逝っちまってるんだから
少しは加減しろ………たく、
それよりも今はとっととここから抜けださねぇとな。」

そう言ったものの、龍太はため息をついてしまった。

「だが階段は崩壊。エレベーターはもちろん使用不可。
しかもここは十二階。飛び降りることもできない。どうするかだ。」

なんと今この場は八方塞だった。


「白羽の猛吹雪(フェザーブリザード)!!」

扇の扇子から巻き起こる吹雪が炎をかき消した。
だがすぐにまた燃え上がってしまった。

「どうしよう大地、炎の勢いが強すぎてわたしの吹雪じゃこれが精一杯だよ。」

扇はどうすればいいかもわからず大地の顔を見た。

「上には龍太と舞火ちゃんがいる。だから命は無事なはずだ。
時間が多少掛かってもこのまま進むしかないだろ。
扇、もう少し頑張ってくれ。」

大地は落ちてくる瓦礫をなぎ払いながら扇を励ました。

「わかった。」

扇は再び扇子を振った。
三人はじりじりと龍太たちに近づいていった。


「どうすれば………」

龍太は必死に脱出方法を考えていた。
ホテル内の温度はどんどんと上昇している。
大粒の汗が龍太の顔から滴り落ちる。
破水龍槍(はすいりゅうそう)以上に大量の水を扱うことができれば………
そんなとき、龍太は龍限のある言葉を思い出した。
龍太は立ち上がると水龍の頭に右手をかざした。
そしてありったけの霊力を水龍に注ぎ込み始めた。

「龍太、何してるの?」

「前にじいちゃんが言ってたんだ。
『精霊自身に大量の霊力を注ぎ込むと大きな力を得ることができる』って。
だからこいつに霊力を注ぎ込んでこの炎を消せるほどの
大量の水を扱おうと思ってな。
ただ、一つ心配なのは今のオレにこいつを………
龍を実体化させるほどの力があるかだ。」

龍太はさらに右手に力を込めた。

「く………」

だが一向に龍が実体化する気配がない。
もう龍太の霊力は底を突きかけている。
霊力を一気に消費しすぎた為、
とてつもない疲労感が龍太の体を襲い龍太の意識はすでに朦朧としている。

「ちっ、やっぱダメか。」

龍太が諦めかけた時だった。龍太の右手の上に舞火が両手を添えた。

「わたしも手伝う。
わたしの霊力の波長を龍太の霊力の波長に合わせれば………」

龍太は舞火の手から霊力が伝わるのを感じた。

「おおおおおおおおおおおおおおおお!」

龍太は最後の力を振り絞った。
そのときだった。水龍の体が光り始めた。
水龍は一声なくと外へと飛び出した。
すると水龍の体は見る見るうちに巨大化していく。
そしてそこにはいつもの可愛さ漂う水龍の姿ではなく、
巨大はドラゴンのような姿をした水龍が姿を現した。

「クオォォォォォォォォォォォ!」

水龍は巨大は咆哮を上げた。
すると海の水がうねりを上げながら宙へと昇り、
空中に巨大な水の玉を作り出した。
水龍はこの巨大な水の玉を抱えると炎が上がるホテルを
この水の玉でやさしく包み込んだ。


いたるところから水の蒸発音が聞こえ、
あれほど荒れ狂っていた炎は一瞬にして消し止められた。
そして炎がすべて消えると、水の玉は針を刺した風船のようにはじけた。

「クオォォォォォォォォォォォ!」

水龍は再び咆哮を上げると、その姿を可愛さ漂うもとの小さな姿へと戻した。

「龍峰の奴すげぇな。」

この様子を見ていた仲間たちは誰もが龍太の力の姿を実感した。



「それにしても今日は大変な目にあってしまいましたね。」

帰りの電車の中、林は疲れたような顔でため息をついた。

「まったくよ。せっかくの旅行が台無しよ。」

緑も相当疲れているようだ。
その後龍太、舞火、緑、林は無事大地と風牙、扇に救出されたのだ。

「で、連鎖はそのかすかな霊力の持ち主には会えたのか?」

風牙は連鎖に尋ねた。

「そのことなんだけどちょっと聞いてよ。
連鎖ったらあたしたちが駆けつけたら倒れてるんだよ。
びっくりしてたたき起こしたら一言、
『何があったか覚えていない』っだって。信じられない!」

暗はカンカンに起こりながらその時の状況説明をし始めた。

「外傷もありませんでしたし、今回は連鎖の気のせいだったのでは?」

成人もさすがに今回は連鎖を庇いきれないようだ。

「………」

連鎖は一人黙り込んでいる。

「誰にでも間違えはあるわよ。」

舞火はクスクスと笑いながら言った。

「………………」

連鎖は何も言えず、ただじっと怒りに耐えていた。

「まぁ、連鎖は今回は不調だったとしても、龍峰の方は凄かったな。」

忍は連鎖の怒りを察知し、慌てて話題を逸らした。

「確かに。さすが『五龍』だよな。」

剣児は笑いながら龍太を覗き込んだ。

「とはいっても、この姿を見るとホントに信じられねよな。」

龍太の顔を見た剣児はさらに笑った。
龍太は舞火の隣でこの騒ぎに動じることなく
スースーと寝息を立てながら無防備に寝ている。

「まぁ、あんだけのことすれば霊力の尽きるわな。」

斬は龍太に悪戯をしようとする大地を止めながら言った。

「でも、龍峰くん寝顔可愛いかも。」

光は龍太の顔を見つめながら言った。
そんなときだった。カーブに差し掛かった電車が大きく揺れた。
龍太の体が傾き、そして龍太は舞火にもたれ掛った。

「あ~、炎道さん!ずるい!」

緑が悲鳴じみた声を上げた。
その様子を見た舞火はまるで勝ち誇ったかのような笑みを緑に見せた。
電車の中に高らかな笑いが響きわたった。
そんな中でも龍太は起きることなく寝息を立てている。

「おつかれ様。」

舞火は心の中でそっと龍太に向かって呟いた。
今日、龍太とともに水龍を実体化させようと
龍太の手に自分の手を添えたとき、舞火は初めて自分の心に気が付いた。
自分は………自分の身を省みず、

他人の為に命を張ることのできる………

そして孤独の痛みを知り、

それゆえに優しさを忘れない………

かつての親友に似た雰囲気を持つ………

この人が好きなんだと………


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