紅蓮’s日記

紅蓮’s日記

第三十四話




外部の音が激しさを増していく。
音が次第に大きくはっきりと聞こえてくるようになることから、
戦闘がどんどん広がり戦場が近くなってくることがわかる。
外部からの聞こえる聞きなれない爆発音、
衝撃音は有然中学内の避難民の不安を煽らせ、動揺を招く。
そしてその不安はまるで池に広がる波紋のように有然中学内全土に広がり
人々のざわめきが一層高まった。
そんな中、警備の警官の追撃を振り切り、
四人の子供たちが校舎の窓から外部へと飛び出した。
連鎖、暗、成人、忍だ。四人が外部へ出ると、
そこにはいつもの有然町とは違う全く別の世界が広がっていた。
各所から立ち上る黒煙、ぶつかり合う警官隊とロボット。
飛び交う雄叫びと悲鳴、そして咆哮。今連鎖たちの目の前に広がるこの世界は
まさに戦場だった。

「危ない!」

連鎖たちを追ってやってきた警官が連鎖たちの上空を指差す。
そこには警官隊を突破し、連鎖たち襲い掛かろうとする
四体のロボットの姿があった。
警官は手に持つ盾を構え連鎖たちを庇うように
ロボットに立ち向かいその攻撃を受け止めた。

「は、早く逃げなさい………」

警官は必死に連鎖たち説得しようとした。
だが常人である警官は四体のロボットの攻撃を受け止めきれず、
今にも押し倒されそうになっている。
警官という職についたこの人であってもこんな状況は初めてなのだろう。
恐怖で声は震え、足腰にも力が入っていない。
校門前で戦っている警官隊の者たちもこの警官と同じような状況だ。
それに引き換え敵は感情の持たないいわば人形である。
恐怖と戦う警官隊とは違い、恐れることなくこの学校目指して進行してくる。
ロボットたちは次々と警官隊を突破してくる。

「ケルベロス!三頭犬の鎖(ケルベロスチェーン)!!」

「リッチ!暗黒の鎌(ダークネスデスサイズ)!!」

「ゴート!山羊の角守り(ゴートホーンガード)!!」

「シャドウ!悪夢の影手(ナイトメアハンド!!」

四人は一斉にそれぞれの精霊を武器化させた。
そして連鎖の鎖が、暗の鎌が、成人の盾から放たれる黒い稲妻が、
忍の影から伸びる黒い槍が警官隊を襲う四体のロボットをなぎ倒した。

「お巡りさん、ぼくたちのことは心配しないで下さい。
お巡りさんこそ安全なところへ避難していてください。
ここはぼくたちが何とかします。」

成人は四人の姿を見て唖然とする警官に優しく声をかけた。

「ぼやぼやしている時間はない!いくぞ!」

連鎖の号令で四人はそれぞれ散開した。
その場に残された警官はしばらく動けず一人硬直していた。

「オレたちも出るぞ!」

風牙の合図で舞火、大地、扇、そして剣児たち二刃組は立ち上がった。
だが、舞火を除いて他の七人はそれぞれ思いもかけない相手からの妨害を受けた。
それはそれぞれの親たちだった。
それぞれの親たちは自分の息子、娘の腕をしっかりと掴み放そうとしない。

「大地、こんな時にどこへ行く!」

と大地の父親。

「風牙、危ないから離れないで。」

と風牙の母親。皆我が子を守りたいという一心で取った行動だった。
親の瞳が子供たちを真っ直ぐ見つめる。
みんなは出るに出れない状況になってしまった。
その時だった。体育館の壁突き破り太い樹が姿を現した。
体育館内に悲鳴が響く。

「ヒヤッハッハッハッハッハッハッハ!
おいおい、今日はこんなに殺して良いのかい?」

樹と同時に体育館内に狂った笑いを響かせ入って来たのは殺人狂の木だった。
それを見た舞火はいても立ってもいられず木の前に立ちはだかった。

「おや、いつしかの赤髪のじょうちゃんじゃないか。」

木は舞火の姿を見ると不気味な笑いを見せた。

「言っておくが、オレたちレジストグリマーズに歯向かうなら容赦はしないぞ。
例え、それが女、子供であってもな!」

木の足元から細い二本の樹が体育館の床を突き破って現れた。
樹はまるで鞭のようにしなりながら舞火に襲いかかった。
舞火は樹々の攻撃をかわすと一旦木との距離をとった。

「ば、化け物だ!」

周りの人たちは木の姿を見ると慌てて狭い体育館内で逃げ惑い始めた。

「お前たちも本当に馬鹿だよな。
こんな奴らを命がけで庇って………このオレを見て『化け物』だとよ。
お前たちもいずれ能力のことを知られればオレのように化け物扱いだぜ。
あの時の五龍のガキと同じで怖いだろ………
『化け物』、『化け物』って社会から迫害されるのは………恐ろしいだろ!
そんなんでオレを倒せるか?オレを倒したければ全力でかかってきな。
できるものならな。この状況で!」

木はそういうと辺りをわざとらしく見回し始めた。
皆が怯えた表情で木や舞火を見つめている。

「………」

突然舞火の体から強い霊力が吹き上がった。
舞火の髪を留めていたゴムが霊力に耐え切れず音を立ててちぎれた。
舞火のポニーテールが解け、美しく長い真紅の髪が優雅に広がった。

「それ位の覚悟くらいある!
わたしは今ここの人たちを守る為にリーフ、いや木!全力であなたを倒す。」

舞火の後ろに現れた朱雀が鋭く響く一声を上げると舞火の周りを飛び始めた。
舞火の体が炎に包まれる。そして炎が弾け舞火が姿を現すと、
右手に鋭く尖った細身の剣、左手には朱雀の翼を象った盾、
そして背中には羽ばたくごとに火の粉が舞い上がる
真紅で美しい翼が装着されていた。

「猛火の嘴細剣(ブレイズビルレイピア)!!
わたしだって遊んでいたわけじゃないのよ。」

舞火は木に突進し、木を外へと突き飛ばした。

体育館内は静寂に包まれていた。
先ほどの一件を目にした人々はありえない非科学的な現状に声を失っていた。
そんな中、体育館内に不気味な異音が響いた。
そして突然天井の一部が落下してきた。

「母さん、オレ行かなければならねぇんだ。ゴメン。」

風牙は母親の手を振りほどいた。
どこからともなく流れてきた風が風牙の体に纏わりつくように吹き付ける。

「白虎!疾風の甲虎爪(ゲイルタイガークロー)!!」

風牙の両腕を覆うように白色に黒い縞模様の手甲が装着され、
手甲からはそれぞれ三本もの長くそして鋭い爪が伸びた。

「吹き荒れる疾風刃(ゲイルエッジブロー)!!」

風牙は真空の刃を放った。真空の刃は落下してくる天井の瓦礫を粉々に粉砕した。

「風牙………」

風牙の両親は信じられないという顔で風牙を見つめている。
天井に空いた穴から三体のロボットが侵入してきた。

「オレにはこの能力でやらなきゃならないことがあるんだ。」

風牙は両親にそう告げると宙へと舞い上がった。

「オレの新たな力、受けろ!疾風爪の鋭斬撃(ゲイルクローシーザス)!!」

風牙は加速し、疾風のごとき速さで二体のロボットの間をすり抜けた。
二体のロボットはそれと同時にバラバラに切り刻まれてしまった。
風牙の爪がすれ違いざまにロボットを数回に渡って切り刻んだのだ。

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

突然悲鳴が体育館内に響いた。
見ると有然中学の一人の女子生徒が残った一体のロボットに捕らえられ、
連れさらわれかけている。
ロボットは天井の穴を目指し飛び上がった。

「切り裂け紅桜(べにざくら)!霞桜(かすみざくら)!」

剣児はロボットの後を追うように飛び上がった。
剣児はロボットの両腕を両断した。

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

再び女子生徒が悲鳴をあげる。
宙に放り出された女子生徒は真っ逆さまに落下している。

「大丈夫か?」

剣児は壁に紅桜(べにざくら)の鞘を突き刺すと、
体を固定し、女子生徒の手を掴んだ。

「ちょっとここに捕まっていろ。すぐ終わる。」

剣児はそういうと女子生徒の手に鞘を掴ませると再びロボット目掛けて飛んだ。

「咲き乱れろ!舞桜乱(ぶおうらん)!!」

桜吹雪のごとき刀の閃きが体育館内の天井に咲き誇った。
ロボットはボロボロと崩れ落ちた。
そしてロボットを倒した剣児は女子生徒を抱きかかえ、床に着地した。

「すみません。人を助ける為とは言え、一般人の前で能力を使ってしまいました。」

剣児は父親の剣蔵に向かって頭を下げた。

「剣児………状況が状況だ。かまわん。」

剣蔵は剣児の背中を思いっきり叩いた。

「この有然町の危機に立ち向かわずして二刃の名を守れるか。
剣児、行って来い。今こそ二刃の力を見せるときだ!」

「はい!いくぞ、お前ら!」

剣児は光、斬、切菜を連れて外へと飛び出した。
剣蔵は戦場へ向かう我が子の姿をしっかりと見送った。


舞火たちは自分たちの意志で戦いに臨んでいった。
このことを望まない人も多数いただろう。
だが、舞火たちはそれでもこの戦いに終止符を打つために向かって行った。
他人にどう思われたっていい。
自分の身がどうなってもいい。
ただ、グリマーとの戦いによる被害をこれ以上出したくはない。
この思いが舞火たちに新たな力を持たせ、舞火たちを一致団結させた。
有然町の決戦の火種はじょじょに大きくなっていった。


© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: