”もっと!”台風がきた!/俺と仕事と育児

”もっと!”台風がきた!/俺と仕事と育児

こども未来賞2

『育児と育自』のつづき。

■育児に参加する父親について話題になっている。国や会社が休暇を認めることもあるそうだ。だが、育児休暇を取る父親は増えるのだろうか。

経済的な問題じゃないと思う。よーいドン!で走り出して自分だけ途中で立ち止まることが出来るだろうか?人の背中をのんびりと眺めていられるだろうか?僕は子供が多かった受験世代の人間である。常に競争し、他人より良い成績を求めることが自然なのだ。それが今では明るい日差しの下でなんの目的もなくぶらぶらと散歩している。たまにはいいことだ。毎日は苦痛になってくる。

■息子が風邪を引いて2週間たったある日。僕は息子を殴った。最初はねだったアイスクリームを、食べずに放り投げた息子の手をはたいた。息子は泣いた。僕も反省した。一歳の子供に何の効果があるというのだ?だが、その次は怒鳴った。息子は生まれて初めて“恐怖”を感じただろう。

もうそのあたりで僕の限界はとうに過ぎていたのかもしれない。最後は仕事から帰った妻の目の前で息子の顔をはたいてしまった。妻は驚き、怒り、泣いた。僕も怒鳴り散らし家具を壁に投げつけた。僕は育児ノイローゼだった。

■僕は風呂の中で一人で泣いた。なさけない。自分の弱さに押しつぶされて泣いた。

■その後妻はしばらく休みをもらってくれた。息子は翌日の朝、妻の実家へ預けられた。肩の荷が下りたと同時に気も抜けてしまった。もはや仕事など手につくはずもなくタバコばかり吸ってしまう。僕は人気のない川原を何日も何時間も歩いた。

息子の顔が頭の中をぐるぐると回っている。怒鳴られた瞬間の怯えた顔、僕の変化にどうしてよいのかわからずにただ泣きながら抱きついてくる息子。それでも抱きしめてあげられない自分。殴った手のひらと泣いた妻の顔。頭の中はその映像だけでいっぱいだった。「どうしてこうなっちゃんだろう・・・。」

■妻が言った。「子供もかわいそうだけどアナタもかわいそうだ。」

■その言葉は以外だった。どこにも逃げ道がなくなって、全部抱え込んでしまったのが原因だった。妻も親もいるのに一人でがんばろうとした。「手伝ってほしい」と何故言わなかったのだろう。がんばってがんばってその挙句に壊れてしまったのでは何にもならないのに。育児は仕事ではないのだ。義務でも任務でもないのだ。何故それがわからないのだ。父親だから一家をまとめて・・・。

自分はそんなに大した人間なのか?家族は三人で一家なのだ。もっと甘えたり甘えられたりしていいのではないのか。

■自立しよう!自分でなんとかしよう!とばかり考えていた。行動力はあったのだ。足りなかったのは協力し合うこと。無理せず自分のままでいること。いまある自分を認めること。焦らずゆっくり歩くこと。そうだ!自分に足りなかったものが見えてきたじゃないか。育児は立ち止まることじゃない。これは修行なのだ。こなした時今までにない自分がそこにいるに違いない。子供と一緒に成長すればいいのだ。育児は育自だったのだ!

あれから一週間たってやっと出口が見えてきた。長いトンネルを抜けたような気分になった。
「さあーてと。うちに帰ろう!」
僕は人気のない夕方の川原でつぶやいた。

<<おわり>>


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