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"菜翁が旨"さんのほほ~ぇむ健康ペ~ジ
おにいちゃぁ~んお母ちゃんがいないよ~1.(終戦前のある寒い冬の夜のこと…)
おにいちゃぁ~ん お母ちゃんがいないよぉ~
まだ終戦を迎えていないある寒い冬の夜のこと。
昼間の遊びつかれで、ぐっすりと眠っている筈が
夜中に飛び起きて急に泣き出した2歳下の弟、
母親のぬくもりが少しずつさめたのを気配で感じ取ったのだろうか。
その声に目をさまして辺りを見回した2歳年上の兄も、
傍らで寝ているはずのかけぶとんがはねかえされて
もぬけのからになっている両親の布団が目に入ったとたんに、
急に泣き出したくなった。
涙声で弟をなだめたりすかしたりしてみたが、全く泣き止む気配をみせなかった。
乳離れしたとはいえ、5歳の姉ならまだしも兄では、母親のぬくもりは感じとることが出来なかったのだろう。
いつも枕元において夜中にべんじょへ行く時に着る
「かんき」
注1.
を着せて、二人で探しに出かけることにした。
※ ※ ※
おとうとに、「いっしょにさがしにいこう」、
とはいったものの、
もぬけのからの両親のふとんをみながら、
はてさて、一体、どこへいけばいいんだろう・・・
あにきである私だって、泣き出したいのを
ぐっとこらえているんだよ、と、心の中でつぶやいている。
いまのいままで、夜中に、両親ともどもいなくなるなんてことは
いちどもなかったのに…
「おにいちゃん。べんじょ、探してみる?」
おとうととの声に、ふと、われに返った。
『うん、いっしょに行ってみよう。
おおきいでんきはつけるなよ。
びーにじゅうく
B29
にばくだん、おとされるからな。』
「うん、わかった~。」
B29
注2.
と聞いたとたんに、おとうとの声がちいさくなった。
ようやく泣き止んだおとうとの手を引いて、
おもて(玄関)の戸をあけた。
鍵はかかっていなかった。
やはり、父も母も家のなかには、居なかったのだ、と思った。
※ ※ ※
我が家の
「べんじょ」
注3.
は、このあたりの田舎のどこの家でもそうであるように、家の外にあった。
玄関の戸を開けたとたんに、外の寒気が飛び込んできた。
「おぉ~っ。さむっ。」と思わず叫んで、直ぐに口をつぐんだ。
寒い冬の夜に小便に起きて家の玄関の戸を開けて「べんじょ」に行くのはなかなか勇気のいることであった。
しかし、泣き止まない弟の手前、兄貴の威厳(というより、やせ我慢)を保たなければ・・・という気持ちが、寒さよりさきになった。
「あっ、そうだ。おにいちゃん、防空頭巾をとってくるわ。
もっぺん
もういちど
、戸をしめて、家のなかでまっとってくれる?」
「うん」
避難訓練で「防空壕」へ2,3回はいったことがある。
その時には、「防空頭巾」をかぶっていないと、家までとりに帰らされた。
この「防空頭巾」は、綿入れになっており、それが頭を保護するクッションの役割にもなっており、また後ろは首はもとより両肩をもすっぽり覆うので、寒い冬の夜のかぶりものとしては、最適であった。
終戦後も冬のあいだは学校へもかぶっていったし、雪だるまを作ったりして遊ぶときも、いつもかぶっていたほどである。
弟が「
足袋
たび
」を履いているのを確かめて、「べんじょ」へいった。
電気が
灯
とも
っていなかったので、スイッチをいれて、声をかけてみた。
思っていたとおり、返事がなかった。
「おかしいなぁ~」と泣きださないように気を使いながら、弟に声をかけた。
弟も、つられて泣きたくなるのを忘れたように「うん」と返事した。
「こんどは、どこをさがしたらいいかなぁ~。鳥小屋へ行ってみる?」
と、すかさず、弟に聞いてみた。
我が家では、縁側の下と、家の外の小さな鳥小屋で「にわとり」を飼っていた。
おやじが、家の畳の上にむしろを敷いて杉板で小さな小屋を作って、有精卵を古いふとんにくるんで親鳥の代わりに電球で卵を暖めて、「さんひち」21日かけて、卵を孵化させてひよこから育て上げた大切な「にわとり」である。
その大切な「にわとり」が、夜の間に「いたち」にやられたり、昼間でも「あおだいしょう」に「にわとり」や「たまご」を呑まれたりしていた。
コケコッコーと、卵を産み落とした鳴き声が聞こえたら、直ぐにかけつけて「あおだいしょう」より先に卵を回収していた。
時折、卵の空洞のあるほうの先端をすこし割って、醤油をたらしこんで呑むまだ生暖かい生みたて卵の美味さをしっかり(いや、ちゃっかり?)そして、たっぷり味わっていた。
「にわとり」の騒ぐ物音で起きた両親が、母が提灯で照らして、父が
「ちょんなが」
注4.
を振りかざして「いたち」を追っ払いに「鳥小屋」にいるのかも・・・と考えてみた。
>「にわとり小屋」はわが家の西側にある一坪ほどの、おやじが、ありあわせの材料で作った、お世辞にも「建てた」といえるようなしろものではない、ちいさな小屋で、しかし、廃材の丸太の柱で屋根は雨漏りのしないように杉皮葺きで、西と北の二方を廃材の野路板を貼り付けて囲み、朝日の当たる東面と日中も日照のある南面は針金で編んだ六角形の網の目の網を貼り付け、東面には餌を与えたり小屋の掃除をしたり卵をとりに入るための、小さな戸がちょうつがいで止められている、簡単な小屋である。
この頃の人家の屋根と言えば、麦藁で葺いた「わらぶき屋根」か「とたん屋根」か、杉の皮で葺いた「杉皮屋根」が殆どで、「瓦葺き屋根」はまだ珍しかった。
しかし、氏神様の神社の屋根は、「檜皮葺き」であった。
米の裏作に麦を作っていたので、農家の屋根は殆ど「藁葺き屋根」であった。
わが家は、農家ではなかったので、「杉皮屋根」であった。
その端材でにわとり小屋の屋根を葺いたのであった。
「葺いた」といっても、杉皮を並べて、これも端材の野路板を古釘で打ちつけただけのものであった。
人が住む家の屋根の杉皮は腐らないように、冬に切り取ってよく乾かして割った竹で留めていた。
その、「にわ鳥小屋」のほうへ弟を連れて行った見たが、人のけはいはなかった。
「兄ちゃん、いないね。」とさきに人の気配がないのを感じた弟が言った。
「うん」と返事して、『弟が、また泣き出さないだろうか。次は、どこへ行こう』などと、しばらく考えた。
「おっちゃん
とこ
注5.
へいってみようか?」
と弟が先に切り出した。
お盆、お正月・お祭り
注6.
などで、ご馳走をよばれるので、こんな時に泣く事より先に頭に浮かんだのであろう。
『食べ物の怨みは怖い』というが、『ご馳走のご利益』はまた、たいしたものである。
「うん、そうだね。じゃ、提灯ともしていこか」
そう、『おっちゃん』の家は、こどもの足では十分以上もかかるし、灯火管制下の夜道は特に暗いし、途中には坂道もあるし、石にけっぱについて(けつまづいて)小川や田圃に落ちて怪我をしてももっと困ってしまう。
『ちょうちん』を取り出して、仏壇のローソクを立てて、マッチで火をつけて、蛇腹を伸ばして、「まっすぐ持てよ」と弟に言って、用心のため、マッチと呼びのローソクを新聞にくるんでポケットに入れて、玄関の戸締りをした。
しっかり戸締りは出来た。
足元を照らす明かりの提灯にも、ローソクの火を
灯
とも
した。
しかし、行くあては、思いつかなかった。
弟に聞いてみた。
「どこへ、行きたい?」
「お宮のそばの、おじいちゃん
家
ち
へ行ってみようよ。」
氏神様の隣の、おやじの実家である。
このお宮の秋祭りには、馬力をひく馬が鳥居から境内を口輪を引かれて歩き、子供相撲が奉納され、舞台からは賑やかに唄や踊りが奉納され、舞台からの餅巻きが楽しめる。
これは、半世紀前から、今も続いている行事であり、氏子のだれもが、一度は舞台の上から、餅をまく楽しさを味わうことが出来、また、最近まで全く気もつかなかった、明治11年や13年の絵馬が奉納されているお宮である。
冷たい冬の夜の冷気でかじかむ手をこすりながら、提灯の明かりを頼りに「おじいちゃん
家
ち
」にたどりつた。
雨戸の隙間からは、期待したあかりが漏れてはいなかった。
寒い夜更けに、人が起きている気配は全く感じることは出来なかった。
静かな気配に、雨戸を叩いて起して、父や母の行方を尋ねる気にもならないほどの静けさであった。
いわずもがに、弟も、同じ気配を感じているように思えた。
気がつけば、同じ思いの二人の足は、帰り道をトボトボと歩んでいた。
※ ※ ※ ※ ※
おにいちゃんっ。
しょんべんがしたいよ~。
みちの端には、ちいさな溝があって、年中枯れることのない滝川(滝の水が流れる川)から引いた田圃に
あてて
引き込んで
残った水が流れる用水路があった。
昼間は野菜を洗ったり、洗濯をしたりする日常の生活用水として使われている。
洗濯といっても、当時は、洗濯板で洗濯石鹸を使っていた時代である。
勿論、赤ちゃんのウンチで汚れたオムツも洗う。
自浄作用がよく働いているきれいな水であり、その上、赤ちゃんのウンチの付いたオムツは、だれも「汚い」などと思う人はなかった。
自分の手のほうが「汚い」と思っている人ばかりであった。
夜になると、洗いものをする人はもう、いない。
提灯を下に置いて、ズボンをおろしてやって、「お尻を前へ突き出して、川の水の中へジャーするといいよ。」
「うん・・・。
・
・
・
おにいちゃん。
川にはまりそうだから、うしろから、ズボン、引っ張っといてぇ。」
「おっと、ゴメン。忘れとったよ。」
足元でジャーっとやると、自分の足元でションベンが飛び跳ねて、履いている
藁草履
わらぞうり
や足袋やズボンの裾に跳ね返ったションベンがかかるので、「天然水洗トイレ」の流れの中にじゃぁ~っとやるのだ。
このとき、足元にかからないように、オチンチンをなるべく前のほうに突き出す必要がある。
とくに、勢いの弱い最初と最後が危ない。
ここのところを、しっかりと、小川のなかに流し込むことが
大切
・・
である。
兄の私の年頃になると、友達と道を歩きながらションベンをしたり、土手から飛ばしあいをしたりして、充分に訓練している。
しかし、弟は、初心者だ。
オチンチンを突き出して、腰を前に出しすぎると川にはまりそうになって、気にすればするほど、余計に、ドボンと小川にはまりそうになって、怖くなる。
で、うしろから、ズボンの尻元をしっかりつかまえてやるのだ。
じゃぁ~~~~~・・・~。
随分と、辛抱していたようだ。
いや、ションベンをしたくなったことすら忘れていたのかな?
※ ※ ※ ※ ※
『ミミズにションベンをかけると、オチンチンが腫れる』と言われている。
今でも、この言い伝えの理由が分からない。
『みみず腫れ』というじんましんのような皮膚の症状がある。
これとて、ミミズの影響でもなんでもない。
これは、腫れる症状がミミズに似ているところからつけられた症状の名称のようである。
ミミズにションベンがかかると、身をよじらせてもがき、息絶えていく。
ただ、言えることは、ミミズは昔も今も土の中の細菌と共に最高の土壌改良の立て役者である、ということである。
そしてまた、身近な良質のたんぱく源であるうなぎなどの川漁の良質の餌でもある。
畑でションベンをするときは、ミミズにかからないように注意して、ミミズを大切にせよ、ということだろうか?
※ ※ ※ ※ ※
「寒くないか?」
生温
なまあ
ったかいションベンを出し切ってしまうと、寒い夜などはとくに、急にさむくなるものだ。
「ウン。ちょっと…」
「
走りあい
かけっこ
、しょうか・・・」
「ウン」
白い息を吐きながら、家の近くまで帰ると、ハアハア、ゼイゼイと息が弾んでいたが、身体はずいぶん
暖
あった
かくなった。
そして、家の戸口に立つと、
「コタツで、
少
ちょ
っとだけ
温
ぬく
もろか?」
「ウン。
あれっ!
お兄ちゃん、見て!見てっ! あそこっ!」
※ ※ ※ ※ ※
野菜・果実・花・観葉植物用 みみずふん土混合品みみずが作った有機特殊肥料 みみず花子 14L
価格:998円(税込、送料別)
注1. 「かんき」:綿が入っている、そでなしの、ちゃんちゃこのようなもので、寒い夜にトイレに行く時や、昼間でも寒いときに、着ている着物の上に羽織るもの。
これを、「かんき」と呼んでいた。
注2. まだ戦時中で、灯火管制で夜は家のそとに電球のあかりがもれないように、松下幸之助の発明したふたまたのソケットに1,2燭光の、今で言う豆球よりもまだ暗い電球しかともさないようにしていた。
40ワットくらいの大きい電球もあるのだが、とくに用事のあるとき以外は、使わないように親からも言われていた。
もちろん、電気の傘は黒い布で覆われていた。
1燭光とは当時の電球の明るさの単位で、ローソク1本の明るさ程度である。
注3. 当時の田舎の便所は、玄関をでて、家のそとに設置してあった。
大きな穴を掘って、其の穴を、赤土に石灰を混ぜて、ペッタン、ペッタンと、土叩き用の木槌で叩き固めて、水分が地中に漏れ沁み込まないようにして造っていた。
ビオトープなどの池をつくるときにも、コンクリートを使わずにこの方法で穴をかためれば、水を張ってすぐに魚や植物を入れることが出来る、環境に優しい池が出来上がる。
(セメントを使うと、水を張って数日間かけてそのアクを抜かないと、動・植物がセメントのアクで死んでしまう。
その上、アクを抜いた水をきれいな川などに流せば、川の動・植物が死んでしまう。)
その上、取り壊す時は、突き固めた赤土を壊してそのまま埋め込むことが出来、瓦礫もでないので、取り壊してもまた、環境にやさしい。
注4.「ちょんなが」とは、田畑を耕作するための土を耕運するための先端が7,8センチ幅、柄の側が4,5センチくらいの鋳物で、それを樫などの堅い柄のはめ込んで、抜けないように「めくぎ」を差しこんで止めた道具である。
使う前には、鋳物をはめ込んである木の柄の部分を水で濡らしておけば、使っている間に堅い柄の「めくぎ」で留めた部分が水を吸って膨らんで鋳物の鍬が抜けにくくなる。
水をかけて濡らすときは、木の柄の部分だけを濡らすことが重要で、金属の「鍬」まで濡らすと使っているときに土が「鍬」にまとわりついて重くなって、無駄な労力を使うことになる。
また、「びっちゅう」という、鍬の部分が三本の小刀のようになって、三本それぞれの先端が尖っている「鍬」もある。
これは、真夏の照りこんでその上雨の少なくかなり硬くなってしまっている畝にも刺さりこむので、重宝する「鍬」である。
注5.『だれそれとこ』とは『だれそれの家』と言う意味である。
『だれそれンち』というように、『山田とこは…』といえば『山田君の家は…』というように…
注6.【正月れ・祭りれ・盆れ】と呼んでいたが【正月礼・祭り礼・盆礼】のことで実家にお参りする儀式の一つであった。
子供心には、『ご馳走をよばれる日』のことであった。
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