君を捜す旅

君を捜す旅

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2009.01.28
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いつものように目覚ましの音にたたき起こされたものの、さすがに深夜のお迎えの後では、そう簡単に体が起きてくれない。
とにかく根性だけで起き上がり、リビングの暖房を付け、いつものようにタバコを持ってベランダに出る。
今でも釈然としないが、いつまでもぐだぐだ言っていると逆切れされて、子供にまであたり始める。
妻はそういう女だ。

とりあえずほかの事を考えて、頭を切り替えたほうがいい。

「あ……」
昨日のルリさんからのメッセージに返答していなかった。
そう、返事を考えているときに、呼び出しを食らったのだ。

彼女の小説の主人公は、どうやって彼と別れればよいのか……。

僕の考えを、そのまま答えればいいわけだ。
もし、僕なら……。

気が付いたら、タバコが燃え尽きていた。
僕はタバコを吸殻入れに放り込み、朝の準備を始めた。


昼食の後、屋外にある喫煙所へ行くと、今井さんが手を振っていた。
うちの会社には、社内に喫煙ルームは無い。
雪が降ろうが、台風が来ようが、ここで吸うしかない。
いつものように、会社のロゴ入りのウィンドブレーカーを奪われ、寒い寒いとつぶやきながらタバコに火をつけた。

「今井さんはさ、自分から男を振ったことってある?」
「なんですかそれ?」
「いや、まぁ、どうなのかな……と」

僕は自然と後ろにのけぞってしまう。
「愛人と別れたいんですか?」
彼女がボソッと小声で言った。
「いや、そういうんじゃなくて……、てか、愛人いないし……」
「わかってますよ、冗談です」

「そのくらいありますよ」
「そういう時は、なんて言って別れるの?」
「私の場合、別れるときは、その相手が嫌いになったときだけです。素直に『嫌いになった』って言います」
「そっか……」
僕もタバコを消し、今井さんと一緒に喫煙所を離れた。

「もしもさ……」
エレベーターの中で僕が口を開いた。
「本当は別れたくないんだけど、事情があって別れなきゃならない。でも、相手に事情は話したくない。そういう時って、なんて言って別れる?」
「……事情の種類によりますね」
「たとえば……、自分が病気で、もうすぐ死んじゃうとか……」
「それを相手に知られたくない……って事ですね?」
「そういうこと」

エレベータを降りた後、今井さんはいつものように、脱いだウィンドブレーカーを僕に着せた。
社内の人に見られたら誤解を招きそうだが、彼女は一向に気にしない。
社内の人が見ていても、彼女は気にしない。
あるいは、故意にやっているのかもしれない。
社内で言い寄ってくる男に対するけん制みたいなものかもしれない。

「質問が難しすぎるのでゆっくり考えます。後でメールしますね」
彼女はそう言って手を振り、自分のデスクへ戻って行った。









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Last updated  2009.01.28 22:34:28
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