俺とユーロとC.D.と・・・(何

第5話『心菜の気持ち』


私と心菜の間には、見えない『ヒビ』が入ったような気がした。
何故そのような事態になってしまったのか、どうして心菜が
泰斗の事を好きになってしまったのか・・・

確かに私は、泰斗から「好き」という感情は離したし、
既に私自身が泰斗を好きになろうとは思っていない。
でも、どうしても他の誰かにその恋を取られてしまうのはあまりにも
惜しい気がして、いくら心菜でも・・・と一度考えてしまった。

聞きたい事は仰山ある。それは私でも分かっている。
そして、自分の目の先にはそれに答えてくれる心菜がいる。
でも私は、どうしても口が開かなかった。


聞くのが怖いからだ。


外の全てを知ってしまった私が、本当に聞くべき
内に秘められた「真相」を友人である心菜から聞きださなければいけないという使命感はあった。
しかし、とてもじゃないけど聞く気にはなれないのだ。
でも、私は同じ『親友』という立場である心菜は、それと同時に
『恋人』という私と同じ立場にまでなってしまったのだから。

私はこの事実を知って後に戻るか先へ進むか等という問題を無視して、
何とか口を開けて話してみようと意欲を沸かせた。
この状態のままで、今の状況を打開出来るハズは無いという事実は私も
分かっていた。
でも、重苦しい顔をして下を向いている心菜を見ているだけで、
私の口も重くなってきてしまう。
まるで開けたくても開かないような、鉄の塊のような重さがあった。
心菜の口も全く開く気配を見せず、場には静寂の時が流れた。

・・・すると、心菜の口は重々しい雰囲気を漂わせながらも
僅かに開き、私に向かってそっと話しかけた。


『・・・飛織・・・』


心菜は、小さな声で私を呼んだ。
全てを知る覚悟は出来ていた。
自意識があるかどうかも分からないままに、私は自然に心菜の言葉に
耳を傾けた。
それがどうであれ、私にとっての本当の「答え」であるのならどんな言葉だって聞いてもいい、私はそう思った。

『・・・御免なさい・・。まさか私も、泰斗君のことが好きになるだなんて思ってなかったの・・・』

予想だにしなかったこの状況。そして、心菜が放ったこの言葉。
私は改めて認識した。心菜ならそうなってもおかしくはない、と。
あの性格でありあの容姿の心菜であるのなら、そうなったって
変な所は無いだろう、と考えていた。
そう、これもまた、冗談混じりの「現実逃避」である事を認識していながら。

やがて心菜の口は再び開き、私に向かって衝撃的な事実を耳に叩き入れた。

『泰斗君が、飛織の事をどう思っていたか知らなかったの。
だから私は、飛織と泰斗君が両想いになればいいかな・・なんて思ってた。』

親友であるから話してくれた心菜。でも、その一言一言が今は
全て「衝撃」となって私の耳に入り込んできた。
でも、それ程までに私の事を心配してくれていたんだ・・・とも思った。
ただ、今の心菜の一言には、信じられない程の重みと冷たさがあった。

『心菜・・・』

私は、口を開き再び話し始めた心菜を見続ける事しか出来なかった。
それ程までに、今の心菜が強い「何か」を持っていたからこそ。

『でも私、泰斗君の気持ちが、分かっちゃったみたい・・・』

そっと話した心菜が、怖かった。
今までに無い程の威圧感を放っている心菜の一言に、私はこれまでにない
「衝動」を覚えた。
まるで暗い部屋にいるような、そんな気がした私の心は
光が何処からやってくるか分からない程に、白く濃い霧に満ちた状態と化していた。
何を信じればいいか分からなくなってきた私の心は、突如として異常な程の平常さを取り戻し、
私の目を見て話している心菜しか見る事が出来なかった。


『私、泰斗君がどうして飛織を嫌うのか全く分からなかった。
これ程優しくて、素敵なのに、どうして泰斗君が嫌ってしまうのか・・・
だから、もう一度飛織の事を好きになってもらおうと思って、泰斗君と話をしていたの。』


今までに無い程大きな力となって私のために貢献してくれた心菜。
確かに今、それを認めて心菜と私がどうなるかは分からないけど、親友として
そこまでしてくれたんだ・・・と私は素直に思った。
私の目は俄かに潤んだ。それが悲しみか嬉しさかは分からない。
でも、先にある全てを見通したかのような私の目は、既に泣く事しか
出来ないような状態になっていた。

知る必要も無いのか、知りたくないのかは分からない。
でも私の目は潤んでいながらも、素直に心菜ばかりを見続けている。


『さっきの電話も、本当は泰斗君だったの・・・。自然と話していくうちに、私も泰斗君の事を好きになっちゃって・・・』


正直に答えてくれた心菜。でも私の心には、「嬉しさ」という感情は
影を潜め、ただ暗い顔で見ている事しか出来なかった。
それが泰斗であったからなのかどうかは分からないが、私の中で何かが
変わった。最早私には心菜に対して平気で話せる時があるのだろうか・・・?
心菜が始めてしまった事でもあるのに、私が何でここまで迷わないといけないのか・・・?
私の中で、『恋』は形を変え再び私の脳内にインプットされた。

私は、恋の終わりを感じた。年齢が変わる事により人間の想いが変わり行く事も、認められない私から変わっていった。
だからこそ、私は心菜にそっと口を開いて、こう言った。

『心菜・・・ 私は、心菜の事を応援するよ。』

『飛織・・・』

『私は、泰斗に「ウザい」という理由で嫌われちゃったんだし、
私のようなウザさが無い心菜なら、大丈夫だと思うよ。それに、心菜と泰斗ならお似合いだと思うし・・・ね。』

まだ奥底に残る恋の残骸は、うなりを上げ再び私の喉まで返ってきた。
まだ泰斗の事を好きである事を、きっと心菜も知っているハズだ。
でも私は言ってしまった。後悔はしていないハズなのに、言った後になって
戸惑いが私を襲った。それが弱みなのか強さなのかは分からない。

『有難う。無理をして言ってくれたのは分かってる。
  でもね、私、どうしても飛織を裏切ったりは出来ないの・・・。』

心菜の気遣いは最後の最後まで残っていた。いくらそれが『恋』であっても
同じ親友同士として、裏切られないモノがあったのかもしれない。
でも私の心は決まっていた。むしろ、この恋を忘れたい程だった。
そこまで惑うのであれば、私自身がここにいて迷い続けていても
出口なんか見つからない・・・と、自分を犠牲にしてまで迷宮を出ようとする決意があった。
だからこそ、私は心菜に後押しするように、こう言った。

『裏切ってる訳なんかじゃないよ。
心菜は、正直に「泰斗が好き」って、私に話してくれたじゃない。』

心の奥底にある、僅かな小ささの希望は、以前として私を
再び迷宮へと入れようとしている。私はこの想いに耐える事さえも
出来なくなっていった。泰斗が本当に私の事をそこまで想って
いるのであれば、もう一度好きになってくれると考えていたからだ。
しかし泰斗は以前として私にあまり好意を持っていないようだった・・・。
私は闇へと逃げようとしているのか?
それとも自らを犠牲に友人に恋人を捧げる『良い事』をしているのか?

最早自分でも区別が付かない程になっていた。

『でも・・・本当に良いの?飛織・・・』

私は最後の選択に迫ってきている事を改めて認識した。
ここで心菜を裏切っちゃマズいと思い、否が応でも答えは一つしか
無いと私は考えた。
ここまできて譲らないだなんて言ったら、後になって恋心を抱いた心菜には
かなり気まずいし、その恋人である泰斗にまで嫌われちゃったんだから・・・と
再起出来ないと感じた私は、今出せる「最良」の答えを心菜に見せた。


『私はもう、泰斗に恋心なんて抱いてないからさ・・・』


本当にこれが私の泰斗に対する気持ちなのか、僅かに残った光と
逃げようとする闇の間で、私は自分の内に存在する「本当の答え」を
探していた。
本当は好きなのか、嫌いになっているのか、それさえも分からなくなってきた
私の心に、再び『好き』という感情が舞い戻ってきた。

そう、本当はまだ泰斗を好きでいるハズなのに・・・

でも、泰斗に嫌われてしまった私は、自らを直そうともせず
心菜と付き合わせる事で、この恋を忘れ去りたいと思っていた。
それは自分の内なる真実からの逃走であったのかもしれないが、それでも私は
自らに存在する「好きではない」という感情を拒否したくなかったのかもしれない。
だから私は、この恋を消したいと必死になっていた。


卒業式の、あの日までは・・・




サイダーとユーロだけで突き進んで書いた今回。
いつもの調子が出せなかった時にユーロに助けられましたよf(^^;
流石にいつまでも書けないかなと思い多少まとめてみた気には
なっているのですが、原作とイメージ変わってきてる気が・・・orz
というか低レベル化しすぎだよ僕orzorz

2006年4月20日製作


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