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2008.01.01
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カテゴリ: 医療
 どんな症例でも、いつでも正しい診断が出来なければならないのだろうか。医学には限界があり、その 限界故に誤診した場合にも、責任は医療者側にあるのだろうか 高額の医療費が必要だ 。診断が結果的に誤りだったからと言って、簡単に賠償を申し出るようであれば、 その場は丸く収まるだろうが、医療の将来に暗い影を落とす ことになるだろう。

がんと誤診 乳房切除 ミス認め賠償検討 社会保険田川病院

手術後に摘出した腫瘍を病理検査して、初めて良性と判明した という。同病院は「良性なのにデータ上はがんであることを示す、極めて珍しい症例で、事前の診断は順当だった」としつつも、結果的に誤診を認め、 女性側に賠償金を支払う意向 を示している。

■術前検査で悪性と診断

 同病院は、厚生労働省が指定した地域がん診療連携拠点病院。

 病院側の説明によると、女性は6月下旬、「左胸にしこりがある」と来院。乳房エックス線撮影(マンモグラフィー)検査や乳腺の画像検査、腫瘍の表面組織の病理検査を受け、組織のでき方や細胞分裂の進行速度が、がんの特徴と一致したという。コンピューター断層撮影(CT)や血液検査のデータもがんの疑いを示した。病院は段階が進んだ乳がんと診断。執刀医らが女性に病状を説明し、7月中旬、手術で 腫瘍をすべて 取り除いた。

 ところが、手術後に摘出した腫瘍の細胞組織を病理検査した結果、がんではなく良性だったことが判明。同病院は女性と家族に謝罪した。女性は8月に退院。 健康状態に問題はないが、乳房の形が変わった という。

 田川病院を運営する同県社会保険医療協会(福岡市)によると、女性側の苦情を受け、摘出した腫瘍の再鑑定を外部の専門医に依頼している。診断ミスが起きた原因を特定して、賠償額を協議することにしている。

 同協会は「 腫瘍を摘出して内部を検査しないと(良性とは)分からない特異な例 だった」と釈明。吉村院長は「女性には大変申し訳ない。同じ過ちが繰り返されないよう、今回の症例を学会で報告する」と話している。

■セカンドオピニオンを 医事評論家森田浩一郎氏(医学博士)の話
 データ上は悪性だが実際は良性という腫瘍は、極めてまれだが過去にも報告例はある。がん診断の誤りを避けるためには、別の医師に意見を求めるセカンドオピニオン制度の導入が有効ではないか。

=2007/12/31付 西日本新聞朝刊=

 まずは良性腫瘍を摘出することは悪いことなのだろうか。乳房全摘術を行ったのであれば問題だが、記事からは腫瘍摘出のようだ。 良性であろうと、腫瘍であれば摘出して悪いことはないだろう 。もちろん悪性と判断していたのだから、必要以上に大きく取ったことは間違いないが、だからといって、極めて悪いことをしたというわけではないと思う。

 また、誤診自体が本当にやむを得ない状況なら、セカンドオピニオンも機能しないだろう。病理所見の記録は残っているだろうから、検証することは可能だ。ただし、 結果が分かっている場合、バイアスがかかって、診断が容易だったとの結論に傾きやすい 。ブラインドテストが必要だ。ブラインドテストの結果、誤診もやむを得ないとの判断であれば、 安易に賠償などしないで欲しい 。過誤のないところに賠償はない。このような事例は、賠償ではなく、社会保障による救済の対象だ。社会保障にも金はかかるが。

病理診断をどこまで信じるべきか から一部を引用してみよう。

3.誤診や誤解を防ぐために


 前立腺の TUR 標本。ある病理医が腺癌という診断を下した。それに応じた泌尿器科医は、前立腺全摘術ならびに除睾術を施行した。しかし、手術切除材料には、ごく一部にいわゆるラテント癌を認めたのみだった。最初の病理標本にも確かに腺癌が確認されたのだが、それは TUR で採取された多数のフラグメントのうちのほんの少数に限られていたのだ。悲劇は、病理医がラテント癌である可能性が高い旨を書き落としていた点と臨床医が真に手術適応のある癌であるのか否かの確認を怠った点に集約されよう。厳密な意味で誤診とはいえないだろうが、大いなる誤解の代表例である。
 病理診断を信じないがゆえのすれ違いも経験される。これもまた泌尿器科の事例でたいへん申し訳ないのだが、尿の細胞診断が年余にわたって class V(移行上皮癌)と診断され続けた症例があった。当然、尿路系の画像診断および内視鏡診断が繰り返されたのだが、腫瘍性病変が見当たらないため、フォローアップされたのだ。病理側からも、精査が繰り返し要望されていた。尿中への剥離細胞には低浸透圧による二次変性が生じやすく、非腫瘍例でもしばしば核の異型化を認めることがあるので、担当医の判断はおそらくこうした経験的事実に寄りかかったものであったのだろう。ところが、再来院した患者の前立腺に、進行した移行上皮癌(尿道周囲の導管由来)が発見されたのだ。たいへんまれな事例ではあるが、とても印象深い経験であった。
 乳腺外来から迅速診断に提出された新婚6ヶ月、妊娠3ヶ月の若い女性の「乳腺腫瘤」に対して、浸潤癌の診断が下された。妊娠合併乳癌として、即入院の手続きがとられた。著者がパラフィン切片の標本を見たのは、連休をはさんだ数日後だった。実は、この腫瘍は皮膚付属器(汗腺)由来の良性腫瘍だったのだ。著者が主治医に電話連絡した時点では、すでに人工流産術が施行され、乳房切除術の準備が万端整っていた。この若き女性の乳腺が保存されたのは当然である。半年後には、この夫婦に新たな生命がもたらされたと聞いて、とてもうれしく感じたことは、昨日のことのように思い出せる。この場合、病理診断を信じ過ぎたがゆえの「事故」だったのである。あとで外科医に尋ねたところ、”乳腺腫瘍にしてはずいぶんと浅い位置の病変だった”との言。その一言があれば、迅速診断の時点での正しい判断が可能であったかもしれないのだが--。
 病理診断名は、どんな経験深い病理医であっても、臨床診断に大きく左右されるものである。画像や検査の情報がないと最終診断に至りえないのはよくある状況である。あらかじめ臨床医から情報を得られれば、凍結切片による免疫組織化学染色や電子顕微鏡検索、さらには遺伝子解析など、小回りのきいた検討も可能である。十分な臨床情報なしに診断を下す怖さを知らない病理医はいないであろう。病理検査の申込用紙にほとんど何も書かずに提出する臨床医にときに遭遇する。彼らは、病理診断を他の臨床検査と同等にしか考えていないのではないかと思わざるをえない。とても悲しく、ひどく危険な誤解である。いっぽう、独善的な病理診断にお目にかかる機会もあろう。膵臓や気管支に多少の単核球浸潤があっても、「慢性膵炎」や「慢性気管支炎」といった診断基準の定着した診断名をそう軽々しく用いるべきではないのは当然である。”慢性炎症があるのは事実だ”と言い張る病理医にめぐり合った臨床医は、互いに十分な議論を戦わせてほしいものだ。
 決定的な誤診や誤解は、病理診断医と臨床医の話し合いによって、その多くが防げるのである。病理側からみれば、病理所見が臨床的判断とまったく合わないときが、分岐点となる。検体の取り違えを見抜く極意(本誌 165 巻 11 号、p. 828)もこの一点にある。確かに、臨床医がまったく考えていない診断を「ビシッ」と下せたときの爽快感は、病理診断の醍醐味といえるのではあるが--。いっぽう、臨床医も、思ってもみない診断名が返ってきた場合、何か変だと感じて、病理医への問い合わせや再評価依頼を申し出てほしい。状況が許せば、再検査をする慎重さもほしいものである。 


 診断の困難な症例もあるし、臨床医、病理医双方の技量も一定ではない。一定の確率で誤診は必ず起こる。 医療を受ける場合、医療とはそのようなものだと思って欲しい。





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Last updated  2008.01.01 18:00:58
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