『ＤＡＲＫ ＣＡＮＥ』 2
そんな場所で３人の男が荒々しい音を立て、泥だらけのトラックに何か荷物の入った麻袋を積んでいた。３人の男はとにかく汗をかいていた。今は心地よい春の季節。少しの運動で汗をかくことはあるだろうが、T－シャツの色が変わるほど汗をかくものだろうか。それに３人は顔が分からなくするために覆面をつけていた。一人は黒、後の二人は白色で目と口には穴が開いていた。
「おお、こいつは大物を捕まえたな」
黒覆面をした男は銃を構え一人の子供の髪の毛を引っ張る。男は顔をよく覗き込みニマリと笑った。そして、防弾チョッキの内側から一枚の色あせた新聞の切れ端を取り出し子供の顔と比べる。２人が同一人物であることを確かめ部下に引き渡した。子供は手足を縛られている上に口を布で押さえられ話すことは出来ない。だが、必死にもがいて抵抗しようとしている。
「こいつは『アイネフレール』の王子、シャムル・コリンズ様であられるぞ。丁寧に扱ってやれ。競売にかければ高値で売れるぞ」
白覆面をした男たちは『アイネフレール』の王子を麻の袋に入れた。そう、彼らはれっきとした誘拐犯である。トラックに積まれている麻袋は全部に幼い子供や若い女が身動きの出来ない状態で入れられている。彼らは各国々に旅人として出没し目星のつけた弱者を捕らえ、別の国の闇市で売り払うのだ。彼らは捕まることがない。それは旅人として進入するからではなく各国で闇市を行っている現状があるため指名手配などは出来ないのである。
「リーダー、全部積み込みました」
白覆面をした男が敬礼の真似をする。リーダーの黒覆面の男は麻袋の数を確認して頷いた。
「では、行こうか」
男たちはトラックの運転席部分に回った。白覆面の男が運転席に乗り込もうとしたとき、黒覆面の男が“止まれ”と叫んだ。白覆面の男は訳も分からず開けたドアを持ち呆然としていると、トラックの進行方向に誰か見慣れぬ者が２人。一人は杖を支えにしゃがんでいる男とも女とも取れる人物で、その人物と手をつないでいるもう一人は幼い少女だった。“保護者”の方はどうやら盲目らしく、赤い布で両目を塞いでいた。
これは絶好のチャンスだと黒覆面の男は思った。拉致現場はおそらく見られてなかった。見ていてもあの小さい少女だけだ。捕まえてしまえばこっちのもの。あの“保護者”が男であろうと女であろうと構わない。見えていないのならあの少女だけ捕まえればいい。
「ニーニ、あの人たち何か変だよ」
少女は“保護者”の腕にしがみついた。少女の顔は強張っている。黒覆面の男は足を忍ばせ彼らに近づく。一歩一歩・・・あと一歩と迫ったところで“保護者”が動いた。
「あなた方は『犯罪者』ですね。この子はあなた方に奪わせませんよ」
“保護者”は立ち上がり少女を自分の後ろに隠れさせ、手に持っていた漆黒に光る杖を両手で構えた。『目』は男たちを睨みつけるようにその瞳を細めた。
（盲目の癖に俺たちの正体を見破った。しかも奇妙なモノが付いた杖を盾にこの俺に歯向かうのか。面白い奴だな）
男は銃を構える。成熟した大人は売っても趣味の悪い奴に叩き倒されて金にならない。“保護者”が話した声で奴が少女の“父親”であることは分かった。ならば・・・殺すのみ。
「ははは、だったら精一杯守ってやれよ。“お・と・う・さ・ん”」
低い銃声が響いた。鬱蒼とした森からさまざまな鳥がその音で飛び立った。男は絞っていた焦点から目をはずし“父親”に目を向けた。“父親”は杖を縦に構えたまま静止している。少女は彼の後ろに隠れたまま様子をうかがっているようだ。男と“父親”の距離は約１メートル。もちろん、銃に使い慣れている男が“的”を外すわけがない。だが・・・。
「ギャー」
男の後ろで鳥を潰したような叫び声が聞こえた。男が振り返ると左足を抱えて一人の白覆面の男が唸っていた。足の傷を見る限り銃弾が貫通したようだ。男はゆっくり“父親”の方に目をむき返した。“父親”は杖を下ろして平然と立っている。
『ＤＡＲＫ ＣＡＮＥ』 3
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