To the last drop of her blood

NONSENSE 『B』 4



 俺たちはなるべく話を耳に入れないようにしていた。特に俺は人の争う声が嫌いだった。だから、奥の部屋の押し入れに周を抱き締めながら身を潜めていたのだ。

 誰かが家を訪ねてきたらしく、一度騒音は収まった。

 再び騒めき始めたとき、襖から仏壇が置いてある部屋を覗くと親戚の人々は帰り始めていた。

 〈やっと話がまとまったのか…〉と思うのも束の間、襖の前には一人の老人と少女が立っていた。老人は義母さんの祖父であることに気が付いた。

 特に話したことはない。だが、26人もの大家族を支える大黒柱で他の親戚の人達よりもやさしく接してくれていた。

 一緒に来ていた少女………少女と言っても俺たちよりも4歳年上だ。彼女は《筧 風花》と名乗った。

 義祖父の話によると風花さんは親戚として存在してはいけない人らしい。いわゆる隠し子と言ったところだろうか。

 俺は彼女に一目惚れした。容姿がよいからではないが彼女の謎めいたところに引かれたのだ。

 その時、俺は14歳だった。大人のような甘ったるい恋………とはいかなかった。

 だが、今では同居という形で暮らしている。周は近くのマンションで一人暮らしをしている。


「新島 周!」

 机に踞っていた俺は耳元での馬鹿でかい声にパッと起き上がるほか行動ができなかった。 

「何をやっているんだ?お前は…」

 周の上司、黒川晴次はくせ毛混じりの俺の髪をくしゃくしゃにして隣の席に座った。

 今日から一課に配属された黒川は、周囲の話によるとこの事件…つまり《紀元 鈴》の件のためだけに青少年課から移動してきたらしい。

 移動というよりも戻ってきたと言うほうが適切だろう。

 以前は黒川め一課に配属されていたが何らかの理由で、族にいう〈飛ばされた〉のだ。

 この話は今から18年も前のことで以来黒川は上司や同僚から『B』と呼ばれるようになったらしい。「やくざと手を組んでいるのでは?」という噂もあったがガラの悪い容姿の上のことだろう。彼の謎はこれだけではない。

 黒川はたまにこうして一課に戻るらしい。だが、そのベテラン刑事でも俺たちが入れ替わったのには気付かなかったらしい。

 それは仕方がない…数時間の間で一卵性双生児が入れ替わる。しかも、妙な事件の最中にだ。

 人を見る目がないというか…気付かれてもかえって困るが。

「黒川さん、どうかされましたか?」

 俺は目を擦りながらイカツイ黒川の顔を見た。

 黒川は課内の女の子が入れた熱いお茶を息で冷ましながら口に含んでこちらを睨んだ。




NONSENSE 『B』 5


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