トカトントン 2.1

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02.タクシードライバー
03.泥海の中から
04.信じ難いもの
05.根雪(ねゆき)
06.片想
07.ダイヤル117
08.小石のように
09.狼になりたい

■職場では一昨日の雪がまだそこら中に残っていて、そのうえ風も強いものだから、ちょっと外へ出ただけでも、痛いくらいに身体が痺れた。北海道の人から見れば、こんな寒さでへこんでどうする、だから内地の人間は、なんて呆れられるところなんだろうな。なんせあちらは「町は　毎日　冬」だ。

■デビュー作「私の声が聞こえますか」から、この第５アルバム「親愛なる者へ」までは中島みゆきと雪は連想ゲームの質問と答のようにいつも寄り添っているように見えた。凍えるような寒さがあってこその恋歌。道に倒れて誰かの名前を呼んでみても、こんなに寒いとみんな逃げてしまうものね。しかしこれ以降の彼女のアルバムからは発散される地域性が窺い知れなくなる。それは内面から吐き出されるものがここらあたりで峠を越したからだというように思えるのだがどうだろう。

■私の選ぶ中島みゆきの３枚は「愛していると云ってくれ」「生きていてもいいですか」そして「親愛なる者へ」である。前者二作で見せる純粋モノローグのような極私的な自己愛は聴いていてこちらがへこたれそうなエキセントリックさが際立っていて、ちょっと離れたところから「大丈夫ですか」とも訊けないような孤高のうた歌いの顔をしている。

■実際彼女は歌いながら泣き出してしまうわけだが、それは感極まってそうしているのではなく、何だか訳もわからないうちに泣いてしまっている私を演じているように思えて、虚構と現実を彼女自身が行ったり来たりしている印象がある。暗い歌ばかり歌っているくせにマイクの前で喋る深夜放送の彼女はへらへら笑ってばかりいる。私にとって中島みゆきの魅力はそんな虚実皮膜の張り巡らし方であり、彼女の中身自身ではない。

■「親愛なる者へ」にはそんな「発信元・私→宛先も私」的な曲は激減して歌詞がすごく抽象的になっている。M1がそのアルバムのトーンを決定するものとするならば、ちょっと引いてしまうくらい難解な幕の開け方だ。

上着を着たまま　話をするのは　正気の沙汰ではないらしい
脱がせた上着を　拾って着るのは　賢いことらしい

３０年経った今でもこの詞の意味はよくわからないのだが、こんな風に声を張り上げて歌われると、なんでわからないのあなたは、と怒られているような気もしてくるから不思議だ。だからね、このあたりから彼女は教祖化してくるんですよ。中山みき、ならぬ中島みゆき教。

■それでもおそろしく難解なのはこの曲くらいで、残りの９編は比較的わかりやすい佳曲が並んでいる。M2は誰でも感情移入できるありそうな風景だし、M3からM4の流れもむしろ軽快と言っていいほどに心地良い。そう、M3やラストのM10で救われる人は私だけじゃないだろう。応援歌として彼女が作ったのかはわからないが、共感歌というものがあるとすればまさしくそんな曲たちだ。あ、でも信者ではないですよ、私。

■らしいのはM7。かつて「悪い私」はそこに前の彼氏がいることを知って彼女に夜、電話をかけた。今、その私はおそらく夜にまた誰かに弱々しい声で語りかけている。『ねぇ切らないで　なにか答えて』　それでも相手は何も答えてくれない。でも全く無言かといえばそうでもない。たとえば「ただいまから　午前２時１５分　ちょうどを　お知らせします」とかは喋っていると思う。

■アメリカ産の牛肉規制問題を耳にするたびに吉野家の牛丼を思い出す。学生時代はよくお世話になった。そして吉野家の牛丼といえば思い出すのが中島みゆきの「狼になりたい」。この歌詞の意味もあまりよくわからない。化粧のはげかけたシティガールをナンパしたベイビィ・フェイスの若者の性的欲求を表しているのでしょうかねぇ。でもね、これは彼女の歌の中でも一番か二番目に好きな曲。

ねぇ　あんた　乗せてやろうか
どこまでも　どこまでも　どこまでも　どこまでも

普通２回でいい繰り返しを字余り覚悟で４回歌う迫力が素敵だ。すごくダイナミックに曲が聞こえる。だからそれに続く「狼になりたい」が「おお、神になりたい」なんて聴かせてしまうこともできるんだと思う。

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