トカトントン 2.1

トカトントン 2.1

2006/12/09
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カテゴリ: 映画
kirawarematsuko

■そんな転落人生も中島哲也の手にかかると、かくもポップな作品に転化されてしまうものか。この映画の2時間は原作小説をかなり忠実になぞっているにもかかわらず、全く異質な作品を見せられているようかのような印象を受ける。

■全編に登場してくるガーベラやパンジー、トルコキキョウなどの色彩がいつか王子様が、と夢を見続ける松子の心情を表し、下妻物語でも見られたCGを駆使した画面や独特なテンポが悲惨な物語を明るい色調で描いている。

■刑務所やトルコのシーンにしたって、まるでミュージッククリップのように処理することで演歌が似合うような泣き笑いの場面をすこぶるクールに描いてみせ、こちら側の感情移入を寄せ付けない。

■全編、音楽と鮮やかな色彩を駆使してあくまでポップな無機質感が溢れているからこそ、松子の部屋で彼女がその時その時の男たちから受ける肉感的な暴力シーンの生々しさが際立つ。中谷美紀はこの監督の演出によくぞ耐えたと思う。

■彼女が惚れる男たちを演じるのは谷原章介、宮藤官九郎、劇団ひとり、荒川良々、武田真治、伊勢谷友介。なかでも太宰の生まれ変わりを称する作家を演じた宮藤君の役者ぶりと、彼女の運命の男を演じた伊勢谷友介の眼の強さに唸る。そしてこの物語のナビゲーターである甥役の瑛太君も良い。

■まるで進化したのだめの部屋のような松子の部屋の散らかりようがすごい。しかしまるでゴミためのように見えるガラクタたちも見ようによっては彼女にとっての宝の山なのである。そう、テレビ画面に映し出される昭和の風景も含めてこの物語には一回見ただけでは確認できないような様々な小道具が画面の隅々に散りばめられている。それを発見する楽しみはまた、松子の幸せ度を測り直す発見にも似ている。

■世間並みの生活から逸脱した晩年の松子のアイドルを光ゲンジに想定した脚本にニヤニヤ。ましてそのお目当てを諸星でも大沢でもなく、内海君に見立てたセンスはただものではない。来ることのないファンレターの返事を郵便受けに毎日確認に行く太った松子の異様さは小説では決して表しようがない存在感だった。

■河の映像がよい。下流から上流に遡ってカメラが高速で移動していく時、一体この女性の転落はどのあたりから始まったんだろうなんて考えた。でもね、50代から40代、、そして30代、20代と逆行していっても、この人はどこでもまっすぐにこの河を渡っていったように見える。つまり自分自身はちっとも転落とも脱落とも思っていなかったんじゃないのだろうか。人から思われるほど不幸せではなかったんじゃないか。





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Last updated  2006/12/10 06:47:13 AM
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Dehe@ Re[1]:カルトQ 2005 北の国から(10/18) adventさんへ ご指摘の通りです。例によ…
advent@ Re:カルトQ 2005 北の国から(10/18) 五郎が読んだ大江健三郎> 開口健ではなく…
しょうゆ@ Re:家庭教師 / 岡村靖幸(09/09) …最後まで岡村靖幸はわからなかったのでは…
背番号のないエース0829 @ Re:ヒトラー 映画〈ジョジョ・ラビット〉に上記の内容…
Dehe @ Re[1]:センチメンタル通り / はちみつぱい(04/17) Mr.Zokuさんへ 情報ありがとうございまし…
Mr.Zoku@ Re:センチメンタル通り / はちみつぱい(04/17) 今年出た[Deluxe Edition]は聴かれました…

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