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【海】---(掌説4)
【海】
目の前の海は、岩の裂け目に荒波を押し込んで、シューッと激しい潮の息吹きを上げていた。周児は、荒れる海を見るのが好きだった。気持ちが落ち着くのである。穏やかな海を見ていると、なぜかイライラしてしまう。
座る岩が海鳴りに応えて、ビリビリと細かく震える。
若いころに、周児は漁船に乗っていた。遠洋に出かけて、2年近く日本に帰れないことは、ざらにあることだった。漁場へ着くまでに、何度か激しい嵐に出遭う。大きな海に飲み込まれそうに、まさに木の葉のように漁船が揉まれる。
いつもは船腹の下できらきらと光を跳ね返す波が、この時には船の数倍の高さから、一気にたたきつけて襲いかかってくる。船体を砕く勢いで、横からぶつかってくる奴もある。頭上を通り過ぎる波もいる。ミシミシ、ギシギシと分解しそうにきしむ船にしがみついていると、どっちが上なのかさえ判らなくなる。
数十メートルの波頭から、船体がストーンと海の底にぶち込まれる。
初めのうちは怖くてたまらなかったが、いつのまにか、気持ちのどこかで、荒れる海との出会いを、楽しみに待つようになっていたようである。何日も滑るような航海が続くと、退屈でたまらなくなる。漁の準備は忙しいのだが、くる日もくる日もただ海原を見続けていると、このまま自分の一生が終わってしまいそうな不安に包まれる。
そんなときに嵐に襲われると、総ての雑念が吹き飛ばされる。
老境に入ってからは、さすがにそれほどの嵐に立ち向かうのは、体力的に無理になった。そのために大きな外洋船に移ったのだが、それでも、いつも変化を求める心根が変わることはなかった。そのような生活を、45年以上も続けて来たのである。
周児が結婚したのは、二十代の半ばだった。日本にいるときよりも外国にいるときのほうが長いので、周児自身は、まだ嫁をもらうつもりがなかった。
兄の典平が、見合いの写真をもって来て、何となく有耶無耶のうちに決められてしまい、久しぶりに家に帰ると、妻が一人で待っている、という状況になっていたのである。
けっして気に入らない妻ではなかった。ろくに話もせず、一緒にどこかに出かけた記憶もないのに、周児の留守を、律儀に守っていてくれる。周児の無事を念じて、陰膳を怠ったことがない。
典平が様子を見に訪ねると、食事時にはいつも周児のための陰膳を前に置いて、一人で食事をとっていたという。そのような毎日が続きながら、不満を言うこともなく、いつも穏やかな笑顔を絶やしたことがないそうである。
それを兄から聞かされるたびに、不憫でたまらなくなる。
この穏やかな妻の笑顔は、周児が船を降りて陸に勤めるようになってからも、全く変わることがなかった。
家に帰ると、毎日がまるで穏やかな海の上を滑る船の中にいるようだった。周児が大荒れに荒れても、妻の態度が変わることはない。大きな風呂敷でふわりと荒れる海を包んで、波を抑えてしまうような穏やかさである。
周児が妻に対して暴力を振るうことはなかったが、その分だけ周児の心の中でやりきれない鬱憤が膨んだ。
言葉で当たり散らすことが多くなり、勤め先でのトラブルも増えた。
あるとき、意味もなく妻に当たり散らして、勢いで疑問をぶつけたことがあった。
「オレは、今もどうしようもなく、おまえを怒鳴っている。おまえには怒鳴られる理由があるのか、どうなんだ。どうしてオレを嫌いにならないんだ。どうして今までこの家を出て行かなかったんだ。」
理屈にも何もなっていないのは、周児にも解っていた。だが、気分が落ち着かないときに妻の穏やかな顔を見ていると、一層いらだち、それが抑えきれなくなるのだ。
「どうしてでしょうねぇ。私が自分で決めなければいけないことは、今までも決めてきたと思っています。こうしてあなたの奥さんになることも、自然に決められたことかも知れませんが、それも結局私が決めたことですから。私は、あなたが好きですから。」
「こんな気分屋の、どこが好きなもんか。」
「いいじゃありませんか……。また、船に乗りますか。」
周児は『だめだ』と思った。『こいつには、全部見透かされている。オレの性格の何もかもを』『こいつは、オレを好きなんじゃなくて、人間というものが好きなんじゃないのか』ということも考えたりした。
いずれにしても、荒くれた海に出遭わなくなってから気持ちがほぼ周期的に荒れることは、周児自身でも気づき始めた。若いときに内包されていた性格が、[船乗り]という長い期間を経て定着してしまった。それの性格を、定年を過ぎてから、急に変えることはできない。
荒れる気持ちを自分でも抑えきれなくなると、周児は海を見に出かけた。そこで穏やかな海面を見ると、一層不機嫌な表情で家に帰った。わざわざ海まで出かけて、妻の顔を見てきたような気分にさせられたのだ。
家で帰りを待つ妻は、その穏やかな海よりもさらに穏やかな表情で周児を待っていてくれたが。
普通なら嫌みに聞こえる言葉にも、全く刺が含まれていない。
「あら、釣りに行ったんじゃないんですか。獲物を楽しみにしてたんですよ。」
「そんな、のんびりしたことができるか。」
一日中海を眺めていて、『のんびりしたことができるか』もあったものではないが、
「ええ、それもそうですよね。」
で終いになる。
海の底まで引っ掻き回すような、鉛色に逆巻く海を見て帰ったときは、周児の表情が非常に満足感に満ちていた。それからしばらくは、周囲と意見の衝突を起こすこともなく、平穏に過ごせるのである。
「お父さん、今日、学校でね。黒田の奴、意味もなくオレにからんできやがんだよ。アッタマにきたから、投げ飛ばしてやった。そしたら、仲間を3人も連れてきてさぁ。オレ、腹が立ってしょうがねえよ。」
横に腰を下ろして一緒に海を眺めていた息子の言葉に、周児は『おや?』と、不思議なものを見る思いがした。妻に似て、いつも穏やかで、笑顔を絶やさない子だと思っていたのである。
友達と喧嘩をしたという話を聞いたこともない。
『友達にも、オレのような気性の子がいるのかもしれないな』と思いながら、息子を慰めた。
「腹を立てても、しょうがねえだろう。どうして絡まれたんだ。心当たりはねえのか。」
「オレが誰とでも仲よくできるのが、気に入らねえんだとさ。難癖だよねえ。」
「母さんなら、そんなとき、どうするだろうな。」
「お父さんがお母さんに当たり散らすのとは、わけが違うよ。」
周児は、言葉に詰まった。『親子でいつもニコニコしやがって』と腹立たしく思っていたのだが、息子は違った感情で両親を見ていたのだ。
「それで、それでおまえはどうするつもりだ。」
「黒田の野郎が謝って来なかったら、徹底的にぶちのめしてやる。」
「おまえ、いつからそんな……。」
温和だと思っていた息子にも、自分と同じ血が渦を巻いていることを知り、周児は狼狽した。
「黒田君は、いつもはそんなことをする子じゃないんだろう。」
「今までは、仲のいい友達だったさ。小学校もずっと一緒だったしね。」
「あいつ、急にキレたんだよ。言いたいことがあればはっきり言えばいいのにさ。何も、急に喧嘩をふっかけなくてもいいじゃないか。」
「おいおい、父さんに文句を言ってもしようがないじゃないか。きっと黒田君も、気持ちが爆発して抑えきれなくなることがあるんだろう。」
「オレだって、そんなときがあるさ。」
「爆発しても、友達に当っちゃだめだぞ。怪我でもしたら、その家族は誰でも心配をするんだ。父さんと母さんがおまえを大切に思うように、黒田君の家族も、彼が大切なんだ。」
「お父さんは、幾つぐらいの時にそういう気持ちになったの?」
「解っていても、そういう気持ちになりきれないから、会社の人とも喧嘩ばかりしてる。父さんに喧嘩を売られた人は、帰ってから家族に愚痴ってるかもな。」
「なぁんだ、だめなのか。」
「そういうときには、海を見にくるんだ。」
「オレ、今日はそのついでに連れて来られたのかぁ。そういえば、お父さんまた荒れそうだったものね。」
「生意気、言ってんじゃねぇ。今度、黒田君を連れてこい。荒れた海はいいぞ。本当はそんな日に船に乗ったら、喧嘩したい気持ちなんか吹っ飛んじまうんだがな。」
「オレは泳ぎに自身がないから、別に荒れた海じゃなくてもいいや。」
「今のように、遠くから見るだけだから大丈夫だ。波にさらわれたら、喧嘩で怪我をするよりも大事になっちまうじゃねえか。」
息子は、友達の黒田君を誘うだろうか。黒田君は、荒れた海を見るために付き合ってくれるだろうか。わざわざ子供たちを連れて出かけて、海がトロンと凪いでいたら、自分のほうが荒れてしまいそうだ。
それが、ちょいと心配だが。
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