桜 色

桜 色

そら



多分それは手の届かない高さ

そんなことわかっていたつもりだった

と今は思うがあの頃はといわれると正直自信は無い


あの頃の自分

手元でビー玉を転がしながら内容のないTV番組を一人で見ていた

いつがいつかはわからない

自分の中の時は止まっていた


そんな自分

ただおびえていたのはそのドアの音だった

無機質な冷たい塊は自分にめがけて襲ってくるかのようだった

その後の廊下を踏む音もまた自分をおびえさせた

その時がきたら自分はもう死んだ振りのような狸寝入りで誤魔化した

おびえた体まで誤魔化せたらよかったのに


声がする

冷たい塊の

だけど血が通う不可思議な塊の


ああ

あの優しい温もりの手はどこへ行ったのだろう

自分に差し伸べられるのは冷たい塊の持った鋭さだけ

いつがいつかはもうわからなかった

それが毎日でそれが全てだった


ああ

また今日も無機質な時間が訪れる

まだ孤独な中の青空の方がましだ

こんな無機質な暗闇の中よりも

自分の暗闇の中の希望はひとつ

昇ってくる陽の光だけだった

陽の光の数だけ自分の力は強くそして弱くなった


ああ

優しさが消えてからどれくらいたっただろう

自分はどれくらい強くそして弱くなっただろう

受け入れられるはずがなかった

だが受け入れた

何かを受け入れた

どこで受け入れたのかもわからない

だが受け入れた

長い間受け入れられないものを受け入れ続けた

きっとそれは今日のため

ただ今日の紅と青のため


ああ

陽の光ともう一つの希望

数多の情報と時間

奪われなかった毎日の活字と映像

一番の価値はそれを希望に変えた自分

きっとそれは優しさがくれたもの

そうだと信じたい

この紅を目の前にしたら


ああ

きっともう自分は言葉を使えない

それはきっと恐怖でしかないから

脅威からの脱却

日常からの脱却

自分に残ったのは永遠の恐怖だった

手に残る現実だった

手に残る奇跡だった

飲み込めない言葉の塊

恐怖と永遠が渦を巻いた


ああ

優しい手が僕の方へ向く

窓の方へ向いた僕の体を青空の中から救ってくれた

それは紅の中の体を包む青の中

音も無く僕の体を空へと導いた

優しい温もりのあふれる手

どうすれば僕は強くなれるのだろう

わからない


ただ青い空を見下ろした


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