桜 色

桜 色

一本の線で結ばれた

出会ってからあなたがくれた

優しさは笑顔は温かさはどれも本物だった

あなたは最後の言葉を覚えてるの

私に言った最後の言葉

ヒトになる前の最後の言葉

私は嬉しくて泣いてしまった

今まで聞いたどの言葉よりも私の中で響いた

ねぇ 覚えてる




それからあの人とその場所で会った。

もちろん会おうなんて言ったわけじゃなくてそこが二人ともの居場所だったから。

学校では目も合わせない二人だけどそこではどんなことだって話した。

その居場所では私はもう独りじゃなかった。

それが何よりも嬉しかった。

あの人には他にも友達はいた。

だけど私がときどき教室であの人のほうを見るとなんだか寂しそうにも見えた。

勝手に思っただけかもしれない。

気のせいかもしれない。

何よりも私はあの人にこの居場所にいて欲しかったから。

そう思ったのかもしれない。

あの人と会うのはとても楽しくて、

会うたびに胸のどきどきが増していった。


あの人と度々会うようになってから私も少しずつ変わっていった。

クラスの係りなんて面倒でやったことも無かったのにいつの間にか手を上げていた。

多分、もう普通の生徒と呼ばれるくらいになっていた。

少し話したりするヒトもできた。

でもやっぱり同情の目を気にしないっていうのは無理だった。

あんまりそんな風に思わないヒトといて、

その人には他に友達がいて私よりも当然仲良しな友達がいて。

少し言葉を交わす程度だった。

でも私にしては十分なほどの会話だった。


ある日いつものように二人は二人の居場所にいた。

ねぇ

また一緒になって星を眺めている時に、

突然訊かれた。

信じてもいいかな

あの人は頬を紅く染めて言った。

好きにすれば

私もあの時のあの人のように言った。

じゃあ信じさせて、

君のことが好きです

え、 好き

私は人を好きになるというのが良く分からなかった。

だから会うたびの胸の高鳴りの意味もあの時は分からなかった。

私、は ただあなたにそばにいて欲しい

あなたと一緒にいたい

だからこう言うしかなかった。

あの人は笑顔で私に向かって言う。

一緒にいるよ

君がどこにいても一緒にいる

そばにいるから

独りにはさせないから

私は自然とあの人の体を抱き寄せていた。

しっかりと抱きしめた。

離れて欲しくなかったから。


学校にも少し居場所が出来た。

二人の居場所も出来た。

十分すぎるほど十分だった。

ずっと独りだった私はきっとこの時の私を羨んだろう。

でも今の私は独りの私を羨む。

誰とも関わりが無かった時の私を。


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