売り場に学ぼう by 太田伸之

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Nobuyuki Ota

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2022.07.27
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かつてマンハッタン西57丁目にあったファッション専門店HENRI BENDEL(ヘンリベンデル)は、毎週金曜日午後に新人や無名のデザイナーたちに門戸を開放、アポなしでサンプルを持ち込んでバイヤーに見せる機会を提供していました。バイヤーが気に入ってくれたらその場でオーダーをもらえます。新しい才能を発掘して売り場で育てるインキュベーション(孵化)ストア、だから全米の百貨店やセレクトショップはベンデルを視察してベンダーになりそうな新ブランドを探しました。

私がニューヨークに住んでいた頃、ファッション雑誌記者出身ジェラルディン・スタッツ社長とジジ・ローゼンバーグ副社長兼ファッションディレクター、二人の女性経営者がこのユニークな小売店を指揮していました。

当時、ファッション雑誌エディトリアル頁や広告の撮影があるとスタイリストはここでストッキングやタイツを買っていたので「モデル御用達」、あるいは「スタイリスト御用達」とも言われました。ニューヨークタイムズの広告はイラスト主体、アンディ・ウォーホルはかつて専属イラストレーターだったと言われています。WWD本紙イラストレーターだった小川吉三郎さん(のちにParsons教授)もF.I.T.卒業前からベンデルの広告イラストを描いていました。

1980年親会社のGenesco(ティファニー隣にあった高級百貨店Bonwit Tellerも所有していた)が経営不振でベンデルの売却を決め、スタッツ社長が外部資本の支援も得て買収しました。その後1985年には大手製造小売業リミテッド(現在のL Brands。ヴィクトリアシークレットなどを展開)がベンデルを買収、スタッツ社長は退任、場所を五番街西56丁目角に移転、オリジナルのバッグ、アクセサリー、婦人服などを販売するSPA店に変わり、インキュベーションストアの面影は完全に消えました。

それでも、チョコレートブラウンとホワイトのストライプ柄スモールグッズはとても魅力的。このストライプ柄グッズを日本に本格導入したくてニューヨーク出張、日本事情に詳しい社長と交渉しました。「いまは国内販路の整備を優先したい、しばらく待ってくれ」と言われてその時は断念しました。

このとき社長室のデスクには合羽橋で買ったであろう醤油ラーメンの模型サンプルが置いてあったので、この話で随分盛り上がり、帰国してから合羽橋の道具屋で寿司サンプルをいっぱい購入して送りました。あの社長、いまどこにいるんだろうなあ。結局、リミテッドは2019年1月ベンデルを解散、123年の歴史に幕を閉じました。残念です。
ニューヨーク本部エントランスのイラスト
郊外ショッピングセンターでもテナント出店



参照:https://en.wikipedia.org/wiki/Henri_Bendel





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Last updated  2022.11.04 17:20:01
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