魂の還る場所

魂の還る場所

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 大地からの手紙は、これで何通目だろう?
 風景を写した写真を葉書にして届く手紙は、いつも全く違うようでどこか似ている風景にも思える。
 最初は日本国内だけを回っていたはずが、いつのまにか遠くの土地を巡るようになった。
 遙は何処かへ旅したこともほとんどなければ、引っ越しの経験もない。
 何処かへ行きたいと思ったこともないと言うと、「俺たちって名前と正反対だな」と大地は笑った。
 いつも自分の居場所を探し続けていた大地は、高校卒業を機に色々なところへ旅をするようになった。
 初めのうちは金銭的なこともあって近場ばかりだったが、段々と遠く遠くへ行くようになって、今では葉書が届くたびに違う国にいる状態になった。
「其処に着いたら先ず酒場に行くんだ。気の良いおっちゃんが絶対いるから」
 そのおかげで自分はどれだけ酒が強くなったか、と笑って話してくれた。
 酒場に行けば必ず気のいい男と出会えるから、そこで一晩泊めて貰える。
 もし誰かと出会えなくても、そのまま一晩過ごすことが出来る。
 世界中を旅しているからと言って語学が堪能とは決して言えない。
 でもジェスチャーで何とか伝わるものだ。
 そして、大地はその先々で必ず覚える。
 その土地での挨拶と、「ありがとう」と「嬉しい」と「楽しい」と「幸せ」を伝える言葉を。
「それだけ出来たら何とかなる」らしい。
 心の底からのものは、きちんと伝わるものだから。
「でも何だかんだ言って、比較的治安の良いところしか行ってないけどね」
 旅費を稼ぎに戻ってきた大地と会った時、そう言って苦笑していたのを思い出す。
 色々な所へ旅をしているけれど、やはり安全な所を安全な所をと思ってしまう自分がいると。
 まだ自分は何もしていないから、と。
 そして、「死ぬ時は畳の上で死にたいからね(笑)」と、いつかの手紙に書いてあったのも。

 郵便受けから取り出したその葉書の写真を見つめながら色々思い出し、遙は裏に戻して大地からの手紙を読み始めた。

「そろそろ帰ります。
 うん、帰るよ。
 やっと納得出来たと言うか、見つけた。
 自分探しの本なんかでよく出てくるけど、
 俺も、遙の所に帰る。」

 大地からの手紙に、遙は目を細める。
 …自分は決して何処かへ行ったりしないけれど、それは…
 大地の帰る場所が、自分の帰る場所でもあるからだ。


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