たぬきぶたの日記2

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バスガイド 4




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バスガイド 4



上高地と乗鞍岳への分岐点にくると左は安房峠を越えて乗鞍スカイラインの有料道路に出ます。

分岐点を少し過ぎると、有名なトンネルがあります。

「釜トンネル」といいます。

ここは車が1台通れるくらいの広さしかありません。

したがって、トンネルの両端には信号機があります。

青信号が1分、赤信号が14分の日本一長い赤信号です。

この長い赤信号で待つ間に釜トンネルの話です。

「このトンネル工事は大変な難工事でした。死者が沢山出ました。

夕方の4時を過ぎると気をつけてください。窓を開けていると、

死者の亡霊が手を出してくると言われております。」

トンネルの中は天井に裸電球が所々に点灯しているだけです。

両サイドは岩盤がそのままむき出しです。

それまでのコンクリートで整備されたトンネルとは違います。

ほら穴と呼んだ方がぴったりです。おまけにくねくねと曲がっています。

窓のそとはすぐ岩盤がせまっています。こんな所を通過するとちょっと怖い感じです。

気の合う運転手さんと打ち合わせをしていまして、

十分に怖い話をしたあとで、やるんです。そうなんです。

びっくりさせるのです。ウッシシッ。(普通では信じられんことですね)

入ってしばらくすると真っ暗闇の場所があります。

突然、車内の電気が消えます。すかさず僕が叫ぶ。

「出たあ~。」

若いねえちゃんたちの悲鳴。

「きゃ~、きゃ~。」

車内はパニックです。

あまりひどいと怒られるので、すぐに電気を復活です。

「あっ、すみません、時々室内灯が切れることがあるもんで、すみませんねぇ~。」

なおも、車は左右にゆれます。結構ほんとに怖いのです。

よくもまあ、こんな運転ができるなあと感心です。

こんなところを、自家用車が通ったら事故だらけです。

分岐点の中ノ湯温泉から上高地までは規制して正解でしょう。

トンネルを過ぎたら視界が開けて別世界です。でもまだしばらくは森の中を進みます。

この年は7月前半に降った集中豪雨のために、トンネルから上流部分の道が土砂で

埋め尽くされていた。石ころというより岩ぐらいの石がごろごろ。

そこを通過するバスが右に左にゆられます。

時々、運転手が命令します。

「おい、あの石をどけてこいや。」

なんとか、難所を通過すると、大正池の美しい景色です。

ここで降りて、池沿いの遊歩道を歩くベテランもいますね。

「まもなく終点の上高地でございます。バス停からしばらく歩きますと、カッパ橋がございます。

昔、ここを渡った人たちが、衣類を頭にのせて渡っている姿がカッパに見えたところから、

このような名前になったといわれております。流れております梓川は水温4度、

飛び込んで自殺するにはもってこいの水温です。」

「到着です、みなさまゆっくりと上高地の雰囲気をお楽しみください。

ご乗車ありがとうございます。」

「なお、お泊まりの方のお知らせします。バスガイドのアルバイト連中によります、

花火大会を夜8時から、カッパ橋の上でおこないます。みなさん御参加ください。

線香花火を用意しております。」



自分で言うのもなんですが、よくもまあ、長い時間を話し続けたものだと感心しますね。

一度、こんなお客さんがいました。

降り口で挨拶していると、二人連れの若いねえちゃんが寄ってきて、言うのです。

「わたし、この車掌さんの帰りのバスに乗る~。」

上高地に着いて、皆さんはカッパ橋に向かっているというのに、

このお嬢さんは気が狂ったのか、観光よりも僕のガイドぶりに惚れちゃったみたい。

「まあまあ、そんなこと言わずに、いい景色がたくさんありますから、楽しんで来てください。」

とまあ、なだめてバイバイしたのですが、あとで思ったんです。

名前と住所を聞いておくべきだった。残念。





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