流産の危機

流産の危機


病院へ着いた。まだ診察が始まってないのに待合室はいっぱいだった。
少しでも気を抜くと涙がこぼれてきてしまうので、ぎゅっと力を入れていた。
時々お腹が痛む。私の赤ちゃんが悲鳴をあげてる・・・・・
少しくらい待たされても全然気にならなかった今までと違って、今日は診察までの時間がすごく長く感じた。(出血してお腹がイタイんですけど・・・・って言ってればもしかしたら先に診察してくれてたかも・・・・)と思ったけど、もう今更言えない。
30分くらい待ったかなぁー。やっと呼ばれた。いつものように尿を取って、診察してもらう。
「今日はどうしましたか?」
「昨日の夜9時頃、出血したんですが・・・・・」
また声が震えて、今にも泣けてきちゃいそう。
「量は?」
「ポタポタ・・くらいです。」
「今は?」
「今朝はなかったです。」
「じゃあ見てみますね」
また内診台にあがった。
なんとなく、今までよりもイタイ気がした。
「うーん・・・・今は出血はないようですが、流産の兆候がありますねー」
「はあ・・・・」
きっとそうだろうとは思ってはいたけど、はっきり言われるとやっぱりショックだった。頭の中でいろんな事が一瞬で浮かんできた。(ということは赤ちゃんは死にかけてるってこと?)(仕事はどうすればいいの?)(今流産したらこの次に妊娠できるのはどのくらい先のこと?)・・・・・心臓はバクバクいってた。手や足は震えてきてる。声ももちろん震える。
「仕事はしてますか?」
「はい」
「じゃあ、とりあえず一週間、お仕事は休んでください。安静にして、家事は最小限、入浴はシャワーのみにしてください。このほかは横になって休んでください。
飲み薬を出しておきますので、それを飲んで、一週間後に来て下さい。その前に何か変わったことがあったら、すぐに来てください。」
「あのー、もしも、夜中や、休みの日に急に何かあったらどうすればいいですか?」
「誰かはいますから、来る前に電話をしてください。」
「分かりました。ありがとうございました。」
診察室を出る前に、切迫流産時の生活の仕方などが書いてある紙を渡された。
ぼーっとしていた。自然と両手がお腹にいってしまう。
車に乗った。何かしゃべらないと、涙がでちゃうよ。お腹の赤ちゃんに話しかけた。
「ごめんねー。ごめんねー。」
こんなことしか言えない。今、お腹の赤ちゃんは一生懸命生きようと頑張ってるのに、謝ることしかできない。
帰りに会社へ寄った。事務所へ入って、いつも一緒にお仕事をしている人の顔を見たらずっと我慢していた涙がこぼれてきた。
「流産するかもしんない・・・・・とりあえず一週間安静にってことだから、すいませんけど休ませてもらいます。すいません。ホントにすいません」
とにかく会社の人に申し訳なくてひたすら謝った。会社の人も、私が泣くから泣きそうになってた。
謝らなきゃいけないのには理由があった。その日の午後からシステムの入れ替えが始まるからで、今までこの日のためにみんなで必死になって準備をしてきたからだ。家にも持ち帰ったり、遅くまでかかってやっていったり、休日出勤したり・・・・それでも間に合わないから、入れ替えが始まった後からもやらなきゃいけない事が山積み。10年以上も勤めてるから、責任がないわけじゃないし、それぞれの担当する部門を任されてやってきたから、私の所だけ穴があいてしまう。それを誰かが埋めなきゃいけない。そう思うと申し訳なく思った。
「大事な体だから、ゆっくり休んで、赤ちゃんを守ってあげないとダメだよ」
みんなはそう言ってくれた。
「仕事の事は心配しなくてもなんとかやっていくし、分からないことがあったら電話するからゆっくり休みな」
そうも言ってくれた。うれしかったー。ほんの何日か前は一緒に喜んでくれて、今度は励まされて・・・・その人たちはもうとっくにお母さんになってるし、切迫流産の経験はないけど、同じ子を持つ母だから分からないようで分かる痛みなのかなぁと思った。
会社を出て、家に着いたとたん、また涙が・・・・
もう泣くのはよそうと思った。ママがこんなに不安になっていたら、赤ちゃんはもっと不安になっちゃうんだもんね。でも、涙が流れてきた。


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