出産

出産


分娩室のとなりに、手術室がある。
となりといっても、床から30センチくらいと天井から30センチくらいは開いてるから、分娩中の声が聞こえてくる。
ちょうど、私が手術室に入った時は、二つある分娩台が埋まっていた。
時々、“いきみ”や「痛ーいっ」といった声が聞こえる。その声を聞くと、(私は帝王切開でよかった)なんて思えてくる。

手術台に横になった。すかさず、手術着を脱がされた。全裸です。
看護婦さんが6、7人いました。
「るんばママさーん、手術前に、オシッコの管をいれますね・・・・」
と言われ、股をパックリと広げられた。看護婦さんが管を尿道に突っ込む・・・・げとなかなか入らない。
「あれっ。おかしいなー・・・・」
と言いながら、何度も何度も入れようとする。それでも入らなかった。すると、違う看護婦さんが
「どうした?入らん?」
と言って、もう一度トライ。なんとか入った・・・・みたいで、なんだかムズムズして気持ち悪い。
手術室のドアは、あっぱっぱーになっていて、看護婦さんが出たり入ったりする。
私は、手術台の上で丸裸。ものすごく寒い。緊張してるからかなー・・・
胸のあたりと、手に、心電図を撮る時にペッタリと貼るような、吸盤みたいなのを付けた。頭に手術キャップ(正式名は知らない)をはめて、髪をその中に入れられた。脈拍と血圧を測るのも付けられた。
すこしすると、ようやく先生が来た。
「るんばママさーん、気分はどうですか?大丈夫です?」
「はい・・・」
「ヒザを少し立ててください」
私はヒザを少し立ててみた。そしたら、足がガクガクと震えてるのが分かった。止めようと思って力を入れても、震えは止まらなかった。こんなの初めて・・・・
ものすごい勢いで震えてる。急に怖くなってきた。大きく深呼吸をして、気を落ち着かせようとした。
「じゃあ、まず麻酔をしますけど、下半身だけ麻酔がかかりますね・・・。背中に注射をしますけど、はじめちょっと痛いかもしれませんけど、我慢してください」
そう言って、背中に針を刺した。ホント、ちょっと痛かった
1分もしないうちに、足がビリビリとしびれてきて、あっと言う間に腰から下が麻痺してきた。
先生が、私の足をつねったり、たたいたりして、麻酔のかかりを確かめた。
「るんばママさーん、今、足をさすってますけど、何か感じますか?」
「いいえ・・・」
「じゃあ、これからお腹を切りますね」
「はい・・・」
酸素マスクがかけられて、手術の様子が私から見えないように、首から下を隠された。
お腹の上を何か、筆のような物で、すーっと触られたような感覚がした。
何が行われているのか見えないけど、なんとなく、(あっ、今はお腹を切ってる)とか、(今は子宮)と分かった。
グチャグチャと音だけが聞こえる。呼吸が少し荒くなってきて、耳が少し聞こえにくいというか、人の声が遠くで聞こえるように思えた。(私、このまま死んじゃうのかなー)と思った。
耳元で、看護婦さんが
「大丈夫?苦しくない?」
と、時々声を掛けてくれる。痛くはないんだけど、体を引っ張られるような感触があって、手術台が大きく揺れる。
隣では、もうすぐ赤ちゃんが生まれるって人がおもいっきりいきんでる。看護婦さんも
「もうすぐだよーッ。ハイ、吸ってー、吐いてー、ハイ、止めてっ・・・・」
とか言ってる。
私の方は、そろそろ赤ちゃん誕生かなと思った時、看護婦さんが
「もうすぐだよー」
と言った・・・その直後
「生まれたよー」
だって・・・・なんとあっけない。感動も何もなかった。脱力感も達成感もない。
先生が
「るんばママさーん、3時18分、元気な男の子ですよ。」
と言った。当然すぐにご対面かと思ったら、そうじゃなかった。赤ちゃんを少し洗ってからだった。
赤ちゃんが私の元へ来るまでの間、胎盤をはがしたり、傷を縫い合わせたりと、休む間もない。
何をやってるんだろう・・・・お腹の皮を引っ張りながら縫ってるみたいで、先生が時々ものすごい力を入れてうなる。最後に、ホチキスみたいなので、ガチャンガチャン。ちょっと麻酔が切れてきたのか、少しだけ痛かった。
傷にガーゼ、セロファンを貼って終了。
そして、待ちに待った我が子とのご対面。なんと言えばいいんだろう。今までに感じたことのない感動というか、とってもフシギな感覚というか・・・・さっきまで、ほんの数時間前までお腹の中で生きていた子が、私の顔のとなりにきて泣いてる。
顔は赤いというよりも、白い・・・手首は私の指の太さくらい、指も細くてちっこい。目も鼻も口も何もかもが全部ちっこくてかわいい。
「はじめまして・・・こんにちわ」
と声を掛けた。もうそれ以上何も言えなかった。
麻酔が切れていく・・・・しびれがどんどん大きくなってきた。
看護婦さん数人で、私の体を拭いたり、パジャマを着せてくれたりして、手術台からベットに移され、そのまま病室に運ばれた。
病室には旦那様、お母さん、義母がいた。
「時間かかったね・・・」
と言われた。時計を見たら、4時半を過ぎてた。
2時間も手術室に入っていたことになるけど、私には1時間もかかってなかったように思えていたので、ビックリした。
3時18分に出産して、1時間以上も処置をしていた事になる。
すぐに戻ってきたつもりだったのに、こんなに時間がかかっていた。ホントびっくり・・・こんな感覚を体験したのも初めてだった。
みんなは、パパに似てるだとか、ママに似てるだとか、好き放題言ってるけど、私は身動きができず、次第に腹部に痛みが出てきて、それどころじゃなかった。
帝王切開って後が大変だと聞いていた。
これからがホントの痛みや苦しみがやってくると思うと怖かった。
だけど、それほどじゃないんだろうなーと安易に考えてただけに、恐ろしく大変で、恐ろしく苦しかった。


back next bbs




© Rakuten Group, Inc.

Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: