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アクシデント3


速度は20キロ以下だったと思う。
幸いにも外傷は、顔に擦り傷を負った程度のようだ。
でも、自分の家が思い出せないなんて。
頭を強く打ったのか?
記憶喪失?ああ、どうしよう!!

畑が続く途中の民家と民家の間から、突然この女は飛び出してきた。
「警察は、いや!」あの只ならぬ雰囲気と、緊迫した表情。
いったいこの女は何者なんだ?
普通なら「警察を呼べ!」と、わめくはずじゃないのか?

俺の頭の中は満員電車のように様々な憶測でごった返していた。
運転しているんだ、冷静になれ。とにかく・・・

とにかく、うちに帰ったら落ち着いて考えられるかもしれない。
彼女も一時的なもので、すぐに思い出すかもしれない。

女を、ちらちらと観察する。
車内は暗くて年齢ははっきりとは判別できないが、20代ぐらいか。
もう秋なのにサンダル履き。
GパンにTシャツ。
おいおい、もしかしてノーブラ?
微かに、ツンとした形が見える。

男って、なんて浅はかな生き物なんだ。
こんな時でも、そんなことに気づいて動揺する。

やっと、見慣れたいつもの道に出た。

女は外の景色に顔を向け、じっとしている。

「この辺に見覚えある?」
俺の問いかけにも、女は黙っている。
「さっきまでどこで何していたかは、覚えてる?」
女は黙ったままだ。

俺は、意を決して聞く。
「・・・名前は?」

女は、窓の外を見たまま答えなかった。





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