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玲子17~紅いランジェリー~


つないだ北山の手を私の頬にあてる。
「酔ったの?」北山が静かに聞く。
「こうしてると、安心するの。北山さんにしか相談できないわ。今日話したこと」
「うん。」北山が私を見つめる。
「大丈夫。話したりしないよ。玲子さん・・・心配しないで。」
私はそっと、北山の肩にもたれかかる。
北山が寄り添ってくる。
「また、逢ってもらえる?」北山が甘えた声で訊ねた。


金曜日がやってきた。慎司に指定された交差点の角のスターバックスに向かうまで
私はずっと考えていた。
慎司に抱かれたことで、私は慎司を忘れられなくなってしまった、ということにしたらどうだろう。
慎司を安心させて、写真などもういらないのだ、と思わせることはできないだろうか。
難しいけれど、やってみる価値はありそうだ。抵抗するよりも、その方がいいと思った。

指定された19時ちょうどに店に入った。慎司はまだ来ていないようだった。
コーヒーを注文し、店の奥のソファに座る。
これからいったいどうなるんだろう。そう思った瞬間、かすかに胸の高鳴りを覚えた。
私は少なからず、興奮している。どうしたというのだろう。
その時、慎司が店に現れた。注文もせずに、まっすぐこちらに向かってくる。
私は、慎司から目が離せなかった。
「待った?ごめんね」にっこりと微笑んで、席に着く慎司。
周りからは、仲のよいカップルに見えるだろう。

「早速だけど、ミッションね。はい、これ。」
私にピンクの紙袋を手渡す。
「袋から出さずに覗いて」
慎司に言われて、私は紙袋を覗きこむ。
中にはお揃いの真っ赤なブラとショーツが入っていた。私は思わず慎司の顔を見た。
「似合うと思うよ。今すぐ、あそこのトイレで付けてきてよ」店のトイレを指差す。
にこにこと、楽しそうに命令する慎司。そう、これは確かに命令なのだ。
ここで動揺してはいけない。私は、意を決して立ち上がる。
こんなこと、どうってことない。
トイレで、付けていた下着を注意深く脱ぐと、紙袋から慎司の買ってきた下着を取り出す。
ショーツもブラも、レース使いの真紅のサテン生地だった。よく見るとショーツはTバックだ。
そろそろと、履いてみる。生地が食い込んで、違和感が残る。
ブラはカップが少し小さくて、入っていたパットを外してゴミ箱へ捨てた。
自分の乳房をなんとか納める。
着ていた白いブラウスを、もう一度身につける。真紅のブラが外から透けて目立った。
このまま人前に出るの?恥ずかしすぎる!
少しの間躊躇したが、しかたない。私は開き直って、トイレのドアを開ける。
つかつかと、席まで歩いていく。
周りの視線が刺さる。若い女が驚いたように見る。こそこそと、こちらを噂するカップル。
どう?これで満足?
私は挑むような視線で、慎司に食い下がる。
「いいねぇ~」慎司は目を輝かせる。
「じゃ、行こうか」慎司は立ち上がり、店を出る。私も後からついていく。
通りに出て、タクシーを拾う。
慎司は、近くのシティホテルの名を運転手に告げると、私に視線を向けた。
「今夜は、ほんとうの玲子ちゃんを見せてもらわなくっちゃ」

ほんとうのアタシ?
アタシも知らないアタシを、慎司によって引き出されるのだろうか。
また、胸の奥が、びくんと跳ねた。



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