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玲子26~戯れの跡~


カーテンを開け放ったままの窓からこうこうと、朝の日差しが部屋に差し込んで
眩しさの中、私はうっすらと目覚めてゆく。

記憶を辿る。
アタシ達は、お互いを貪った。飢えた獣のように性器を擦りつけあい、身体を揺さぶりあい、
幾度となく求め合っては、何度も果てた。
アタシは慎司の、慎司はアタシの内から発するあの「匂い」をお互いになすり付け合って
相手が自分の「領域」に入り込むことを「許可」する。

アタシ達は、知ってしまった。
感情とカラダの高ぶりの、方向、スピード、深さが共に似ているのだと。
ごく自然に、淫らになれる相手は貴重だ。
たとえそれがアタシにとって軽蔑すべき、大嫌いな類のオトコだったとしても、否めない。
慎司の、あの、力強くアタシを突き上げるもの・・・そして、充ちていくエクスタシーと、
共存する孤独感。それをきっちりとアタシに与えてくれる相手が、慎司なのだ。
では、慎司は?アタシとのセックスは満足のいくものだったのだろうか。
答えは、慎司の子供のような寝顔の中にあった。

慎司の、その寝顔をじっと見つめる。
愛おしい、というわけでもなく、ただ、不思議な感覚が押し寄せる。
他人ではないような親近感?・・・ばからしい。たかがディープにセックスしただけじゃないの。
フッと笑いが洩れた時、慎司が「ううん・・・」と、伸びをして目を開けた。

「おはよ」一言言うと、慎司はサイドテーブルに置いてあったタバコの箱から一本取り出して咥える。
「だめよ。ベッドでは喫煙禁止よ」そう言ってアタシは、咥えたタバコを取り上げた。
「カタいこと言うなよ」慎司が拗ねる。
「だめなものは、だめ」慎司がもう一本取り出そうとするので、アタシは慎司のタバコを箱ごと奪う。
慎司が甘えるように、じゃれて来る。
「返してよ~、玲ちゃん」
「やめて!その呼び方!」
突然のアタシの大声に驚いて、慎司は動きを止めた。

「なんだよ。いきなり」
「いやなの。その呼び方。」
「へぇ・・・」慎司がアタシの顔をニヤニヤして覗き込む。
「昔の男にそう呼ばれてた?それとも、今の男?」
「そんなんじゃないわ」
「玲子さんにも惚れた男がいたってわけか」
「そんなんじゃないったら・・・」アタシがベッドシーツに視線を落とすと、慎司は不機嫌そうに乱暴に、アタシの腕を掴んだ。
「今も惚れてんの?言えよ」
「なによ、関係ないでしょ」アタシは慎司の手を解こうと、もがく。
「で、誰よ?どこのどいつ?」慎司はなおも、アタシの腕を掴んだ手の力を強める。
アタシは慎司を睨みつけて、言った。

「死んだのよ。 アタシを置いて、死んだの」



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