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玲子50~狼狽~


土曜日の午後、洗濯と掃除を済ませ、部屋でコーヒーを淹れて寛いでいた。
昨晩、慎司はこの部屋に泊まっていった。
あれから、慎司とは以前よりも深い部分で繋がったような気がする。
慎司も私を大切に扱ってくれていた。
突然、携帯が鳴った。
見ると、見覚えのない番号だ。
「はい。」不審に思いながら、警戒して出る。
「久賀さんでしょうか」聞きなれない男の声。
「そうですけど」
「こちらは武蔵野警察です」
警察・・・嫌な予感がした。
「吉祥寺の『D』という飲み屋を知っていますよね?」唐突に聞かれた。
ユースケの顔が頭に浮かぶ。胸騒ぎがした。
「はい」
「瀬川尚子さん、ご存知でしょ?彼女を、その店が行った売春目的のパーティーで
売春行為をしたとして検挙したんです」
ユースケのパーティーに、ガサ入れが入ったのだ。
私は黙って聞いていた。
「瀬川さんが、その店をあなたに紹介してもらったと言ってるんですよ。
詳しい事情をお聞かせ願えませんかねぇ。あくまでも任意ですけど、
お越しいただけますよね?」
「・・・はい」私は、そう返事するしかなかった。
電話を切ってからも、すぐには頭が働かなかった。
冷静に考えよう。私はパーティのことはユースケに聞かされていたが、
行ったことは一度もない。それは事実だ。
尚子のことも、確かに店には連れて行ったが、ユースケに尚子のことを
パーティーに出してくれと依頼したわけじゃない。
あくまでも尚子の意思で、やったことだ。
大丈夫、大丈夫よ・・・そう思った瞬間、また携帯が鳴る。
私はびくっとして一瞬躊躇したが、電話を手に取った。
慎司からだった。深呼吸して、電話に出る。
「もしもし、オレ」
「うん。」
「尚子が、警察に捕まった」
「今、私のところにも警察から電話があったわ」
「じゃあ、本当なのかよ?玲子が尚子をあの店に連れて行ったって!」
慎司が声を荒げる。
「・・・ええ」
「おまえ!どういうつもりだ!!」怒鳴り声になる。
「知らなかったのよ。そんなことしてるなんて」
「尚子に会ったのを、なんでオレに黙ってた!」
「心配かけたくなかったの」
「オレに対する当てつけじゃないのか?!」
「そんなことしないわ」
「・・・どうしたらいいんだよ、オレ・・・。尚子が、まさか、あんなことするなんて・・・」
慎司は明らかに狼狽していた。力なく、呟く。
そうね。まさか、あの大人しくて従順な妻が、あんなことをするなんてね。
あなたは、立ち直れないぐらいのショックを受けたでしょうね。
かわいそうな慎司。
でも、判ったはずよ。あなたには、あの女が必要だってこと。
あの女じゃなきゃ、だめなんだってこと。
「玲子・・・」慎司が、弱々しい声で私を呼ぶ。
「なに?」
「あいつは、オレと別れると言っている。
こんなことが知れて、もうやっていけないと言うんだ。」
「そう・・・」
「玲子、オレと、一緒になってくれ」
(オレと一緒になってくれ)
それはまるで、オレを助けてくれと言っているように聞こえた。
慎司が私に、助けを求めている。救ってほしいと叫んでいる。



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