SENPAI 7
あれから先輩に会うこともない。もともと違う大学のサークルなのだ。
自分のキモチをクールダウンさせるのにいい機会だと、私は集中していた。
だいぶ片付いてきた頃、夕飯が済んだ時間に家の電話が鳴った。
先輩からだった。
胸が高鳴った。忘れようとしていた、あの日の出来事がよみがえる。
「明日の総会で、文化祭の出し物の清算をするから、部費と一緒に５千円持ってきて。」
「はい。連絡網でまわさないの？」
「うん。急だったから、会計のオレとＹとで手分けして回してるから、いいよ。」
「先輩みたいにテキトーそうな人が会計って、どうなの？」私が笑いながら言うと
「オレのイメージって、そういう感じなんだ。」と、意外なほどマジな声で返ってきた。
私は話を変えた。
「この前の打ち上げでは、泊めてもらっちゃってすみませんでした。」
「いいよ」
「・・・したくならなかったら、先輩のうちに遊びに行っちゃだめなの？（笑）」
私はわざと、ふざけたように聞いた。
「うん。次はオレ、ガマンできないから」
へえ、ガマンしてたんだ。
「・・・先輩、オトコだもんね」
「そういうんじゃないよ。」
「じゃあ、どういうの？」私は、その先をどうしても聞きたかった。
「そんなの、決まってんじゃん。」
「それじゃ、わかんないよ。なんなの？」
ちょっとの間、距離を置いていたことが私の中で功を奏したのか。
私は強気に攻めることができた。
少し間があって、先輩はついに言った。
「うさぎと、したいからだよ」
「そう。」
「うん。」
沈黙が続いた。私はとうとう言わせた。胸の奥が熱かった。
「じゃあ、今から行ってもいい？」何も考えずに、そう口に出していた。
「うん。おいでよ」
親には、カナコの家に泊まると嘘をついて、電車を乗り継いで私は先輩の家に向かった。
この日のために買っておいた勝負下着も身に着けた。
電車の車窓から河を越えるのが見えたとき、突然後悔の念が頭をもたげた。
（こんなに早急に、コトを運んでしまっていいのだろうか）
（うだうだ考えていたら、いつまで経っても捨てられない。あの人に委ねよう）
（あの人の口車にのせられたことになるんじゃないの？）
（それを確かめるためにも、行った方がいい）
私の頭の中で、２人の自分が意見を戦わせる。
それでも私は、途中で引き返すことはしなかった。
下車駅からすぐの先輩のアパートが見えたとき、急に足がすくんだ。
どうしよう、本当に来てしまった。
それでも、やっぱり、逢いたい。
私はドアを叩いた。
やや間があってドアが開き、先輩の部屋に入る。
先輩はなんだか神妙な顔つきだった。
ドアが締まらないうちに、先輩は私を抱き寄せて言った。
「おかえり」
私の顔を見ようとせずに、私の髪に頬をつけたままで・・・
「オレ、あれからずっと待ってた」
ストン。
先輩、今の音、聞こえた？
私が、先輩の手のひらに堕ちた音だよ。
ちゃんと受けとめてくれなかったら、
私、許さないんだから。
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