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ヒトヅマ☆娼婦19


テーブルで伝票にサインをすると「部屋を取ってあるから」と
ぶっきらぼうに言って、水島さんは席を立つ。
あたしも慌てて立ち上がり、ついてゆく。
エレベーター前で思い切って、あたしから腕を組む。
それでも水島さんは、まったく表情を変えなかった。

さっきは少しだけ和らいだ表情をしてくれたのに。
ちょっと酔った優しげな眼差しで、あたしを見てくれた気がしたのに。

『男のためにこんなことをして、愚かな女だ』
そう思ってるのだろうか。
「やっちゃんじゃなきゃ、いや」だなんて、水島さんの前でムキになって言っちゃった。
だってやっちゃんのこと、あんなふうに言うんだもん。
やっちゃんのこと、なんにも知らないくせに。やっちゃんは、あたしにとって特別な存在なんだから。
でも、失礼だったかな。
失礼というよりシラケた、という感じかな。
これからセックスをするっていうのに。
いくらお金の関係だとしても、できるだけお互いにやさしい感情で抱き合いたい。
少しでも、ニセモノでも、恋愛に似た感情を伴っていたい。でないと、悲しい。
水島さんはどう思っているかわからないけど、あたしはそう思っていた。
なのに、あんな話をしちゃった。
これから、どうやって修復しよう。修復できるのかな。

そんなことを考えながら、水島さんと部屋に入る。
水島さんがスーツの上着を脱ごうとしたので、すぐさま手を添えてハンガーに掛ける。
この前注意されたんだっけ。今日はうまくできた。
水島さんがソファに腰を下ろして、タイを緩める。
「先にシャワー浴びていいよ。メールをチェックしたいから。」
ワーキングデスクの上のPCを指差す。
「はい」あたしは浴室に向かった。

髪をまとめて、首から下にシャワーをあてる。
これから水島さんと、セックスをする。
そう思うと、カラダが緊張してきた。
それと同時に熱くなる。
シャワーのせいだけじゃない。たしかにあたしは、高揚している。
鏡の中のあたしを覗き込む。
ハダカのあたしは、水島さんを興奮させることができるんだろうか。

バスタオルを巻いて、部屋に戻ったら
水島さんはPCの前にいた。
水島さんのご機嫌を直さなきゃ。
あたしはそう思って、水島さんの背中を遠慮がちにそっと抱く。
これがやっちゃんなら、思いっきり抱きつける。
やっちゃんなら、にこにこして振り返ってぎゅってしてくれる。
でも水島さんは振り返りもせず、キーを打つ手を止めもせず
「ちょっと待ってて」と冷たく言うだけだった。











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