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松本清張の本書『Dの複合』は、事件の起こる場所が、地理的な一つの法則にもとづいている。
作家の伊瀬忠隆は、『月刊 草枕』という旅行雑誌を出版している天地社から、新たにできる「僻地に伝説を探る旅」というコーナーへの寄稿を依頼された。伊瀬は民俗学の知識があり、その方面での随筆をいろいろと書いているからだ。
浜中三夫という編集次長が彼の担当になり、まずは浦島太郎の伝説をもとめて、近畿方面に旅に出た。初日、丹後木津温泉に泊ったとき、街で殺人事件が起きた。
そのため紀行文に殺人事件も挿入し、読者からの評判は上々だった。
二回目は、羽衣伝説を求めて三保ノ松原を始め、各地を旅した。
その後、第二、第三の殺人事件が起こる。
本書『Dの複合』は、民俗学に造詣の深い松本清張ならではの謎解きになっている。浦島伝説と羽衣伝説に共通するものは何か?
それは「浦島・羽衣伝説の淹留(えんりゅう)説」というものだ。浦島伝説は、浦島太郎が竜宮城に抑留され、羽衣伝説は、天女が地上のどこかに抑留されるというものだ。
これをヒントに、伊瀬は調査を始める。
基本的に伊瀬が、探偵の役を演じるが、寄稿の依頼を直接した浜中三夫が、重要な役割を演じている。一連の殺人事件は、昭和16年に起こったある海難事故がもとになっていた。浜中はその関係者の子孫だった。
また、ストーリーに色を付けているのが、数字狂の坂口まみ子の登場だ。いち早く、伊瀬の旅の行程が、ある法則に基づいていることを発見する。
ちなみに、数字狂の女性の登場は、松本清張の他の作品にもある。
ストーリーがかなり入り組んでいて、いったいどこでどう結びつくのか、落ちが楽しみになる作品だ。
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