あゝ平凡なる我が人生に幸あれ

芙蓉の花は血の色

花の寺殺人事件 ~芙蓉の花は血の色~    【花の寺殺人事件】所収


スーパーで買い物を追えた冬子は、不意に男に声を掛けられた
「手提げの中を見せてください」
警備員の男は、冬子を万引き犯と見ているようだった
疑いを掛けられて憤りを感じながらも、冬子は手提げの中から、たった今買ってきたものを広げ始めた
すると、なんと時計型のペンダントが出てきたのである
それは全く身に覚えのない品だった
騒ぎを鎮めようと、ペンダントを買い取るつもりだったが、あいにく給料日前で財布のなかは空っぽ
警備員は激しく罵るし、追い込まれた冬子だったが、その場にいた一人の女性が、
「そのペンダントを買いますから」
と言って、場を収めてくれた
冬子の窮地を救ってくれたその女性は津山加奈子といい、冬子の家の近くに住んでいることがわかった
二人が話しながら歩いていると、火事騒ぎに出くわした
燃えていたのは加奈子の家だった…

冬子は、ニュースで、津山家の火事で一人息子の和夫が焼死したことを知った
自分の万引き騒動に巻き込まれないで早く帰宅していれば、加奈子は息子を失うことはなかったかもしれない
そう思うと、冬子は居た堪れない気持ちでいっぱいになっていた
しかし、その後の調べで、和夫は先妻の子で、加奈子は継母であるということ
おもちゃのラジコンに仕組まれた発火装置が火事の原因だということが判明し、警察では加奈子を疑っているような報道をしていた

その事実を知ったとき、冬子のなかである疑念が生まれた
ひょっとして、血の繋がっていない和夫を焼死させるために、加奈子はスーパーで時間稼ぎをし、アリバイ作りのために私を助けてくれたのではないだろうか?
万引き騒動も、加奈子と警備員の男がグルになってでっち上げたのかもしれない
そう思うと、居ても立ってもいられなくなった冬子は自分で調べ始めたが、加奈子を疑うような材料は出てこなかった
しかし、警察や巷の人々は、加奈子のことを放火で息子を殺した継母として疑っているようで、加奈子は警察に度々呼ばれ、やっと判った津山家の転居先にも加奈子の姿は無かった

どうしても加奈子が放火殺人犯と思えない冬子
肩代わりしてもらったペンダントの代金を返そうと、和夫の葬儀に列席した
出棺の際、お金の入った封筒を渡そうと加奈子に近寄ると、「二人が始めて会ったときに歩いた河原で会いましょう」と云われる
約束の時間に冬子が河原に行くと、草むらのなかから出てくる赤い服を着たひとりの女性を目撃した
その女性に、冬子は見覚えがあったが、誰かは思い出せないでいた
暫く待ってみたが、結局加奈子は現れなかった
葬儀で忙しくて抜け出せなかったのかもしれない
帰宅してニュース番組を見ていると、宇治川下流で加奈子の水死体が発見されたことを報じていた

加奈子が死んだ!?
世間の風潮は、子供を殺して、罪の意識から自殺したのでは?というようなものだった
自分を窮地から救ってくれ、世間から疑いの目を向けられても葬儀では気丈に振舞っていたあの加奈子が自殺するとは考えられない
今度は、私が汚名を晴らす番だ
しかしどうしたらいいのだろう?
津山家の焼け跡の地に咲いていた1輪の赤い芙蓉の花を前にしたとき、冬子はあることを思い出した
それは、加奈子と待ち合わせしていた河原で、草むらのなかから出てきた赤い服を着た女である
ひょっとしたら、あの女が、加奈子を川に突き落としたのではないだろうか?
でもなぜ?
考えていると、冬子は、見覚えがあったが誰なのか思い出せずにいた赤い服の女のことを思い出したのである
その女は…



~感想~
主人公の推理というか妄想で物語は進んでいく
話の筋的にはちょっと強引なところがあって真実味が欠けるのだが、女の性というか、怖い面が描かれていて面白かった

という事で、私的評価は星【★★★☆☆】3つです



◆この原作のドラマ化作品・1◆
昭和62年11月23日放送
京都サスペンス
『芙蓉の花は血の色』
出演/大場久美子/芦田伸介/津山真也…岸部一徳/津山加奈子…朝加真由美 ほか

…ドラマの内容
だいぶ昔に1度見ただけなのでハッキリとは覚えていないが、原作とは違って、犯人が主人公に据えられた作品になっている

…ドラマの感想
短編の作品、しかも主人公の妄想というか推理で展開していく原作とは違い、犯人を主人公に据えるという大胆なアレンジの割には、トリックなどは原作に忠実だったので、しっかりまとまった作品になっている
ラストシーン、完全犯罪が暴かれて絶叫する大場氏の熱演が、今でもつよく印象に残っている


◆この原作のドラマ化作品・2◆
平成20年4月18日放送
金曜プレステージ
山村美紗サスペンス
『京都門司港殺人事件・壇ノ浦竜神伝説の祟りか!?岬に現れる幽霊の謎!・酔芙蓉の花に隠された衝撃の真実とは』
出演/夏川美帆…川原亜矢子/長田吾郎…東幹久/長田静子…池内淳子/狩矢警部…本田博太郎/沢田京子…山村紅葉/中梅弥生…生稲晃子/中梅恭平…甲本雅裕/津久井亮子…今村恵子/松島智則…松澤一之 ほか


…ドラマの内容
作家を夢見る美帆と、同じ京都のタウン誌編集部でカメラマンとして働く幼なじみの吾郎
ある日、美帆が吾郎の母・静子が営む和菓子屋に立ち寄ると、店が妙に閑散としていることに違和感を覚える
というのも、ここ最近は静子の創作菓子“青汁饅頭”がヒットして、連日お客さんで賑わっていたからだ
静子によると、客離れの原因には心当たりがないという
そんなとき、常連客である京都府警の狩矢警部が来店し、隣町の和菓子屋が、まったく同じ商品を扱っていて繁盛しているという情報を得る
美帆と静子は早速その店に行き、店主である亮子に抗議するが、亮子は聞く耳を持たない

翌日、寺の境内で亮子が死体で発見され、死亡推定時刻に静子が現場付近で目撃されていること、和菓子盗作騒動で揉めていたことなどから、狩矢警部は静子を参考人として取り調べる
その事実を知った美帆と吾郎は、静子の疑いを晴らすべく、事件の真相を探ることに
色々と調べていくなかで、亮子が不倫をしていた事実が判明し、その不倫相手として噂されている北九州門司に住む資産家・松島を訪ねるべく、2人は門司へと飛ぶ…


…ドラマの感想
原作が『芙蓉の花は血の色』ってテロップで出ていたのだが、ドラマの中では原作の欠片すら見つけることができなかった
物語のキーパーソン的存在である、酔芙蓉の花のトリックは、「山茶花寺殺人事件」という作品で使われているものだし…
ただ、あえて探すとしたら、朝白い花が、夕方になるにつれて紅色に変化する酔芙蓉の花を女心に例えるというシーンが、小説にもドラマの中にも出てくる
ひょっとして、その摘みの部分だけで、原作ってしたのかな?

ドラマは、旅あり、グルメありで二時間サスペンスの王道路線って感じ
山村美紗サスペンスとか、推理&トリックといったものにこだわらなければ、肩の凝らない作品に仕上がっていた




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