ＡＬＬ　ＴＯＭＯＲＲＯＷ'Ｓ　ＰＡＲＴＩＥＳ

僕らの戦争

「臨時ニュースをお伝えします。今朝未明日本はアメリカの宣戦布告を受け、
戦闘状態に入るとの政府の見解が正式に発表されました。
イギリス・ドイツもアメリカを全面的に支持する意向です・・
繰り返し臨時ニュースをお伝えします・・・・・・
尚アメリカは日本が降服を表明しないようであれば市街戦も辞さないという
考えを明らかにしています・・・・
既に都内では数件、アメリカ軍による爆撃の負傷者が出ている模様です・・」

ＴＶのアナウンサーが必死の形相で原稿を読み上げるのを
俺は寝ぼけ眼でぼんやりと眺めていた。
ＴＶのチャンネルを切り替える。どれも同じ臨時ニュースだ。
画面が切り替わり中継となった。

「えー、ここは新宿西口駅前です。
ただいま都庁付近で大きな爆発が起こりました。
今、自衛隊が救助に向かっているところです。死亡者数、怪我人は
今のところ不明・・・」

アナウンサーがヘルメットに防弾チョッキを着込んで熱っぽく
レポートする背後には、ありありと火の粉の燃え上がる新宿の様子が映し出
されていた。その時また後ろで大きな爆発が起こった。
人々が逃げ惑い大混乱が起こっていた。

俺はそこで一旦ＴＶを消して考え込んだ。頭はもう、十分に醒めていた。
戦争・・・？
確かにここ数ヶ月前から日本とアメリカの関係は緊張状態が続いていた。
原因は日本の核兵器、大量破壊兵器の所持に対するアメリカの不支持とされるが、
実際は貿易摩擦解消のための条約（日本は自国の貿易黒字分１５％を自国製品の輸入にあてること）
に日本が首を縦に振らなかったからだとされている。
それにしてもまさか戦争になるとは思わなかった。
俺は慌てて友人の西山に電話を掛けた。やつは新宿に程近い中野に住んでいたのを思い出したからだ。

「もしもし！」
数回のコールで西山は電話にでた。
「あ、おれだけど。西山？お前・・・」
「おいっ！聞いてくれよ！すげーんだよ！」
西山の声は興奮していた。
「ど、どうした！？」
「いや、今知ったんだけど、ジョンレノンって死ぬ前に一度
宇宙人と遭遇してたらしいんだよ！それでその時卵型の謎の物体を
その宇宙人から受け取って、そんで今それはユリ・ゲラーがもって
るんだって！すげーよなあ、なぁっ！？」
「・・・・・・西山」
「え？」
「・・・・お前今日新聞かＴＶ見たか？」
「え、見てないけど？」
「今すぐ、ＴＶつけろ。」

ＴＶをつけた西山はしばらくぼーっとその画面を見つめていた。
「・・・どういうこと？」
「だから！戦争が始まったんだってよ！」
「戦争が？」
「そうだよ！」
「それで・・・どうなるの？」
「さあ、わかんねーよ。そんなの。」
「じゃあ俺就職しなくていいわけ？」
「・・・それとこれとは別だろ。とにかく今から伊藤さんちいこうぜ。
お前のところも危ないらしいからな。」

俺たちは近くの駅で落ち合い、赤坂にある伊藤さんの家にとりあえず
逃げ込むことにした。
チャイムを押してドアが開くと、ヘルメット（バイクの）に金属バッドを持った伊藤さんが飛び出してきて俺に抱きついた。
「やーーん、拓ちゃん！順ちゃん！よく来てくれたわア！うれしい。
私一人で怖かったぁ！」
伊藤さんはがっしりした体つきで、髪をオールバックにした
一見イタリアの伊達男風なルックスなのだが、オカマだ。
「伊藤さん、その格好は・・・？」
「だって、いつ攻撃されるかわからないんでしょ？怖いじゃない。
さ、入って入って！」
伊藤さんの家に来たのは大人がそばにいてもらった方が安全だと判断したからだが、俺は自分の選択が間違ったかもしれない・・
と少し思った。
「拓ちゃん、順ちゃん、コーヒーとお紅茶どっちがいい？」
「あ、俺コーヒーで。」
「拓ちゃんもコーヒーでいいの？」
「うん。」
拓と言うのはさっきから登場している俺の友達、西山拓のことで
俺とは同じ大学で４年来の親友である。夢はジョンレノンに犯されることというちょっと馬鹿だが、まあいいやつ。
そして順というのが、この俺滝沢順一。
どこにでもいる２１歳の大学生である。
俺たちは数年前から、デザイン事務所をかねたここ伊藤さんの自宅マンションで周２回アルバイトをしている。

俺たちはのんびりコーヒーをすすりながらＴＶ画面を眺めた。
そこには相変わらず炎上する街の様子が映し出されている。
「こわーい。やあねぇ、戦争なんて・・」
伊藤さんが心持俺に寄りかかりながらため息混じりに言った。
少なくとも、ここは、いつも通りの平和な日常の延長のようだった。
けれど今まではチャンネルを帰ればそれですんだ遠い出来事が今は
自分の現実の中にしっかりと存在している。
それでもいつまでたっても奇妙に現実感がわかなかった。
ＴＶ画面に映し出されるその光景はやっぱり遠いどこかの出来事のようにも思えた。
しかし、そうではないのだ。
「あ、俺、ちょっとタバコ買ってくるっす。」
西山が立ち上がっていった。
「ええっ、ちょっとぉ、外は危険よ！」
「あ、大丈夫。すぐそこの自販機だから。」
「いやー！拓ちゃんが死んじゃう！！」
伊藤さんは半狂乱になり、西山は無理やりヘルメットと金属バットを持たされてしょぼしょぼと出て行った。
その後も伊藤さんが心配そうに窓から西山の様子を見守っていた。
俺はため息をついた。一体いつまでこんな状態が続くのか？
数分後、西山は缶ビールを片手に抱えて戻ってきた。
「やーん、素敵！」
伊藤さんが手を叩いて喜んだ。

そのご俺たちは伊藤さんの手作りパスタを食べながら、ビールを飲み、
一晩を過ごした。朝起きると二日酔いで頭ががんがんした。少し飲みすぎた。
ＴＶをつける。やっぱり戦争のニュースで持ちきりだ。死亡者数は１００人を超えていた。
昨日のことは夢じゃなかったんだな・・・・と少しがっかりした。
無理やり起き上がり、台所までいって水を一杯飲んだ。
「俺、家戻るわ。」
と、西山が突然言った。
「・・・何言ってるんだ？お前のうちは危ないからここへきたんだろ。」
「だってここ、レコードもギターも漫画もないんだぜ！？」
「それと命とどっちが大事なんだ？」
西山は真剣に考え込んでいた。
「戦争はいつ終わるんだ・・・？」
がっくりしていった。
「さあ、そんなのわかるか。明日終わるかもしれないし。十年後かもな。」
自分で言って少しぞっとした。
「それに、戦争ってことはお前の大好きな洋楽ロックは聴けないんだぞ。」
「えっ、何で。」
「何でってそんな敵国の音楽なんか聴いてたら非国民扱いされちゃうじゃんか。」
「じゃ、ニルヴァーナは？」
「ダメ」
「ストーンズは」
「ダメ」
「ジョンレノンはいいだろ？」
「もちろん・・・ダメだ。」
「そ・・・それは大変だ！！」
西山はやっと事の重大さに気づいたのか顔色を変えて叫んだ。
そして布団につっぷしてしばらく動かなくなった。
そっと耳を寄せると泣きながら「イマジン」を歌っていた。
「皆ラブ＆ピースで生きたいだけなんだけどなぁ。なんか国とかいろいろ
めんどくさいよなぁ・・・。」
西山はそっとつぶやくようにそう言った。
ラブ＆ピースか・・・。
ＴＶを見るといまだあちこちで爆撃が起きており、その模様は迅速に
中継で伝えられていた。大破されたビルとそこから這い出てきてうめく人々、その周りを行きかう人々。
それはまるで「未来世紀ブラジル」の１シーンのようにシュールで不気味だった。
伊藤さんがおきてきて、
「もうビールないの？」といった。もう昼の１２時をまわっていた。

その日の夜、戦争は突然終わった。
アメリカにイスラム過激派によるテロがおたので、標的は一気にそちらへと動き、
我々と戦争をしている余裕がなくなったらしく、日本側も調停に賛同したので丸く収まったらしい。
わずか２日の戦争だった。
俺たちはまた、酒をたくさん買い込み祝杯をあげて飲み明かした。
そして俺は帰りの電車に揺られながら二日酔いの頭でぼんやりと昨日のことを考えた。
俺は実際に戦争を見ていない。だからだろうか、まるでＴＶの中だけのフィクションのように感じられる。
だけどそれは実際に起こったのだ。外を眺めるとやはり所々破壊された戦争の跡爪がが生々しく残っているのが見える。
それでも、いまいち実感がわかなかった。
しかし、何はともあれ、戦争は終わったらしい。
市谷のつり掘りでは３，４人のおじさんがのんびりと魚を待っていた。
とても平和だった。

次の日、学校に着くと俺を見つけた西山が興奮して走りよってきて言った。
「おいっ、大変だっ！！知ってるか！？
アポロって本当は月に行ってないらしいんだよ！！
その証拠にＮＡＳＡが・・・・」

俺は思った。
世界中の皆が西山のようだったら戦争なんて絶対起こらないんだろうな・・・。
（ま、そんな世の中はやだけど）

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