ALL TOMORROW'S PARTIES

A DAY IN THE LIFE



放課後の吹奏楽部の練習が終わる頃にはもう日はすっかり傾いていた。
私たちは家路へと続くその土手道を自転車を横に並べて
最大限に遅くペダルを踏みながらやむことのない笑い声を
あたりの田園に響かせていた。
「ねぇー今夜うちに集まって話さない?」
「さんせー!」
「あ、ごめん、私ちょっと・・。」
「えー、なんでー?」
「だって今日TVでターミネーター2がやるんだもん。」
「はぁー?」
「ごめーん、じゃーね!!」
友人たちの不満を背中に一身に浴びながら私は全速力で自転車を走らせる。
あの映画を私は、まだ幼い頃のエドワードファーロングが素晴らしく可愛らしいので・・、
TVで放送されるたびにみることにしているのだった。
家に着き、急いで夕飯を済ますと二階の自分の部屋に駆け上がる。
TVをつけるとちょうど映画が始まったところだった。
ほっと一息つくと、ドアノブの鍵を回し、まず靴下を脱ぐ。
ついでちょっと長めのやぼったいスカートを脱ぎ捨て、ブラウスのボタンに手をかける。
そして下着姿となった私は鏡台の前に座り三つあみに結わえた髪を
ほぐしていった。癖のついた髪がウェーブのようになってよい感じだ。
少しかき上げてみる。
映画ではターミネーター役のアーノルドシュワルツェネッガーが
全裸でバーをうろついている場面で、ちょうど私も全裸となり・・・
そうそう、忘れずにカーテンを開けておかないとね。
この時間はいつも向かいのアパートの変態オヤジが私の部屋をのぞいているから。
私はそのままゆっくりソファに横になってTVをぼんやり眺めた。
あーあ、本当にこの頃のエドワード・ファーロングはとっても可愛かったんだけどねぇ・・・・


丘の上のエデンの園で恋人たちは今日も語らいあう。
「それで、それについてはニーチェがうまいことを言っていてね・・
例えば「人間とは神の失敗作に過ぎないのか、それとも神こそ人間の失敗作にすぎぬのか。」これはつまり・・・」
「やめて」
「え?」
「そんな知らない人の話なんて聞きたくないわ」
「知らない人じゃない、ニーチェだよ」
「同じことよ!あなたには自分の言葉って物はないの?
いつも人の言ったことばかり持ち出して・・・」
「そりゃ、あるだろうさ。だけど僕の意見なんてくだらないし、つまらないし、
それなら昔からある誰かの言葉のほうがずっとためになるし・・」
「間違いが無いって訳ね。だけど、それじゃ私たち永遠に分かり合えっこないわよ。
そんな借り物の言葉なんていらない。お願い、本当のことを言って・・・」
「・・・・・わかったよ。本当のことを言おう。
僕はニーチェのことなんてどうでもよくて、君と手をつなぎ、キスをして、
それからどうやってベッドに誘おうか算段をあぐねているところさ・・・・」
彼女はそれを聞くと僕の手を握り力強くうなずいた。
「そう。それでいいのよ。」
そして私たちは唇を合わせ、彼女が僕に覆いかぶさるようにして・・
アダムとイブの楽園に入るのに知恵の実はいらないっていうわけ。


「おお、神よ!この傲慢で横暴で嘘つきで破廉恥な、全ての人々を許したまえ!・・・」
・・・この、世界中の罪をその小さな背中に一身に背負い込んでしまったかのような哀れなミモザは、
毎日朝のニュースを見終わった後は神に祈りを捧げずにはいられないのだった。
全ての恵まれない人々の為に。全ての罪深い人々の為に。
ああ、けれど一体誰がこの哀れな老女のために祈りを捧げてくれるというのだろう・・!


世界のどこかのある一部屋。
真ん中に小さなボタンが一つある他には何も無い殺風景な部屋に男二人だけがたたずんでいる。
「おい、ほ、本当なのか?本当にこれは世界を崩壊させるスイッチなのか?」
「はい。それを押したが最後・・・・世界は一瞬で終わります。」
「い、一瞬で・・かね。」
「はい。」
「そうか・・・一瞬で世界を終わらせるとは、とんでもないものにつながっているらしいな。
このスイッチは・・」
「何なら押してみたらいかがです?」
「いや、まだいい・・。押そうと思えばいつでも押せるのだ・・・
何も今押してしまうことはあるまい」
「そうですね」
「私がこのボタンを押せば世界は破滅する・・・ということは私が今世界の命運を握っているということだな・・
私の意志ひとつで世界が滅びるか存続するかが決まる・・・
私はもはや神に近いのではないか・・」
「そのとおり。あなたはこの地球上の全ての生命の命綱を握っているのです。」
「そうか・・・では私はやはり、神だ。最後の審判の幕を下ろすのは私なのだからな・・ふふ。ふはははは。」
「ところで、その辺はさっき猫が粗相をした後を拭いたばかりで、
滑りますから気をつけてくださいね。」
しかし、もう遅かった。

「あ」

男は頭からそのボタンめがけて転倒した。


そして今、こうしている間にも地球は太陽の周りを公転し、パリではノートルダムの鐘が鳴り響き、
ラスベガスのイルミネーションは輝き、インドのガンジス川は流れ、戦場では人が死に、
南極の氷は溶け、海の底では名も知らぬ生物が生まれては泡と消え、
彼方の空にはオーロラが輝いているのです・・・
考えてみたことはありますか?
世界はあなたの意思とは無関係に同時進行で止まることなく進み、
その上を走るサーチライトがスポットライトとなって
いつあなたを照らすのかわからないのだということを・・・












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