しあわせカフェ&ショップ

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2003/11/03
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カテゴリ: カテゴリ未分類
いす


最後には校長まで勤めた人で、近所を歩くと、
よく、自分は教え子だったという人に遭遇したものだ。
だから悪いことも出来ない。(別にしようとも思わなかったけどね)

私が小学校の頃は、すでに退職していて、
近所の子供を集めて、勉強を教えたり、
日曜日には、遊びに連れて行ったりしていた。
でも、当時引っ込み思案で人見知りの強かった私は、
大勢の子供が集まって来るのは苦手で、
一緒になって出かけたり、勉強を教わったりすることはなかった。
でも祖父と2人きりで遊んだ思い出は多い。
きっと、そんな私のために特別に時間を取ってくれていたのに違いない。

学校から帰ると、真っ直ぐ祖父母の部屋へ行く。
すると「遠山の金さん」や「銭形平次」を見ていた祖父が、
古い電話帳を取り出し、クイズを出してくる。
地面に棒が一本立っている絵を私に見せ、コレは何か、と私に尋ねる。
答えに詰まると、
「泥に棒が立っている。コレは、どろにぼう、泥棒じゃ」
と得意気だ。
まるで、ちびまるこちゃんの友蔵じいさんのようだが、
こんなクイズをひとしきり出したあとは、
庭で日時計を作ったり、花の種を一緒に植えたり、日が暮れるまで遊んだものだった。

映画にもよく連れて行ってくれた。
当時、映画はまだ娯楽の中心で、私の生まれた小さな町にも2件の映画館があった。
祖父はどこかから、入場券を手に入れてきては、私やいとこ達を映画に連れて行ってくれた。

母と行く時は、ディズニー専門の映画館で、
「101匹わんちゃん」や「森は生きている」など害のなさそうな映画を見たものだが、
祖父と行くのはパチンコ屋の隣の、
上映中にチンジャラ、チンジャラ出玉の音が響いて来る、ロードショー専門の映画館だった。
内容も「ゴジラ対モスラ」とか人気のTVアニメの劇場版など、アタマの固い母親に嫌われる内容で、
祖父と映画に行く、と言うと、母は顔をしかめた。

もちろん、母と行くディズニーも好きで、それぞれの作品の内容は、今も心に残っている。
でも、映画の内容はきれいさっぱり忘れているものの、楽しかった思い出が残っているのは、
祖父と出かけた方だ。

それでも1つだけ、キョーレツに思い出に残っている映画がある。
「日本沈没」という映画だ。

祖父と映画に行くと言うと、いつものように母は嫌な顔をしたのだが、構わず出かけた。
大規模な地殻の変動によって日本が沈没してしまう、という話で、
子供にとってあまり興味のある内容ではなかったが、
映画の前に買ってもらえるポップコーンやジュースに釣られて、祖父について行った。
ところが、地震の話はともかく、主演の藤岡弘といしだあゆみのラブシーンがあり、
子供心にどうしたものか、見ていいのか悪いのか困ってしまった。
祖父はといえば、全く動じる様子はない。
元教職者が子供にこんなもの見せていいのかね、
と大人になっって初めて気付く赤面の内容だったのだが、
きっと祖父は、とても自由な考えの持ち主だったのだなあ、と今思う。

帰ってから、映画は面白かったかと尋ねる母に、難しすぎて
わからなかった、と答えて、祖父と目で合図し合ったのも懐かしい思い出だ。

祖母は大正生まれのしゃれたヒトで、三味線を弾いたり、日舞を舞ったりと、
夫が退職した後も、家に閉じこもることなくわが道を行く、というカンジの人だった。
祖母と私も仲良しで、一緒に喫茶店に行ったり、デパートに行ったりしたものだ。

ところが、祖父と祖母は仲が悪く、いつも喧嘩ばかりしていた。
1日に1度は「おとーさん!何言ってるんですっ!」
と祖母が祖父を怒鳴る声が、私達のいる部屋まで聞こえてきた。(祖母の方が強かった)
毎日毎日、喧嘩していて、子供だった私は、2人は本当に仲が悪いのだと信じていた。

それから月日は流れ、2人ともかなり高齢になり、祖父は1日の大半を眠って過ごし、祖母も持病で入退院を繰り返していた。
人生の最後に近い日々を、昔ほど喧嘩をしなくなった2人は、
狭い部屋で顔を突き合わせながら、静かに暮らしていた。

そんな中、祖母がまた入院することになった。
何度目かの入院なので、祖父も私達も、いってらっしゃい、という感じで、気軽に見送った。
ところが、その晩、祖母は帰らぬ人となってしまったのだ。
急なことだったので、高齢の祖父を起こしてショックを与えてもいけないと、
叔母が次の朝知らせることになった。

翌朝、叔母が「おかあさん、亡くなったのよ」と
伝えると、
祖父は「えっ」と言ったきり黙り込んでしまった。
だって昨日普通に出て行った祖母だったから、それが急変して亡くなるなんて、
信じろという方が無理かもしれない。
それも、自分は何も知らずに眠り込んでいたのだから。

祖母の亡骸が部屋に帰って来ると、祖父は白い布をそっとめくり、
「おかあさん、おまえはこんなにきれいな顔をしていたんだなあ」
とぽつりと言い、涙を流した。

喧嘩ばかりしていた2人だったのに。
ああ、長年連れ添うというのは、こういうことを言うんだ。生まれて初めて、夫婦の固い絆を見た瞬間だった。

その後、つれあいを亡くした祖父は急に呆けてしまい、その2年後、祖母の後を追うようにして逝ってしまった。

出あって、恋をして、結婚する。
子供ができ、子育てを終えると孫ができ、それからは2人きりで、口には出さなくても、
お互いを思いやり、いつも頼りあい、支え合って、生き続ける。
同じ人とずっと添い遂げるというのは、きっと大変なんだろうな。
自分にできるだろうか。
ダメダメ、すでに1回失敗してるし。

なぜか、急に祖父母のことを思い出してしまった、秋の夕暮れでした。
今も私の心の中に生き続ける、大好きなおじいちゃんとおばあちゃんです。







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Last updated  2003/11/07 03:32:32 AM
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茶キチ@ Re:かまくら香茶庵(後編)(02/19) 初めまして。お茶好きです。 2004年頃…
ふぅじん。 @ Re:過去生リーディング体験(02/10) 私はある方の娘と言われましたよ(笑)
Coo-Coo @ Re[1]:今日から復活しますね(02/05) ふぅじん。さん >ご無沙汰しました(^^♪ …

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