INACTIVE OF SAFEHOUSE

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第3話




 魔法って何?
 ユウさんは科学の軌跡の結晶と答えると思う。
 エミリさんはたくさんの可能性なんて言うと思う。
 ミヤマは…今度訊いてみよう。


「魔法?
「それが何かって?
「それをうちに訊くのか?
「確かにうちは何でも知っている
「でも。それはうちに限ったことではないだろう?
「お前も、すべてを知っているはずだ。
「違うか?
「昭和由美子。」


 月曜日、朝9時15分。私、昭和由美子はKという場所にいた。
 K。研究所?機関?機密?
 正式名称は知らないけれど、私たちが集まって魔法の研究をしていた場所だ。
 各所に設置されていたスピーカーから声が聞こえてきた。前方のモニターには制御室にいる最高責任者が映し出される。
[すべてを知るもの諸君。朝早くからご苦労様です。予定の6時30分を大幅に過ぎていますが、もう、まもなく彼が目を覚まします。もう、まもなく奇跡の瞬間が訪れるでしょう。その前に彼の両親から一言いただきます。どうぞ。]
 彼の両親。前橋ユウさん。前橋エミリさん。見慣れた姿がモニターに映った。緊張と興奮が入り混じったような声で父親、ユウさんが挨拶をはじめる。
[私たちが、今回の鍵を握っている少年、前橋有利の父親の前橋ユウと母親のエミリです。私たちは研究者である前に1人の親。だから自分の子供をこういう形で使うことにまだ若干の抵抗があります。しかし、これは未来への偉大なる一歩の礎となるのです。皆さんの協力で良い週末を。][良い週末を。]
 ユウさんの挨拶にエミリさんも合わせて挨拶。すると、まわりから拍手が起こる。それと同時に「良い週末を。」という声が次々に上がった。
 良い週末を。私たちの、Kのなかでその標語が使われ始めたのはだいぶ前のことだ。シミュレーションによって、目覚めから約1週間経てば世界が安定してくるという数字が出た。前橋有利の目覚めは今日、月曜日。なので一番の山場となる週末を乗り越えようと、そんな願いを込めて作られた標語が、良い週末を。というわけだ。
 マイクが再び最高責任者の人に渡る。
[前橋プロジェクト。魔法プロジェクト。世界を守るプロジェクト。3つのプロジェクトを併せてMProject。MP。MPが始動したのは……年前…]
 マイクを持って喋り続けている。そんなことはKにいる私たちが知らないわけがないのに。モニター越しにみえる制御室のたくさんのモニターには前橋有利の寝ている姿が映し出されている。この子は何も知らないのだと思うと、ちょっと複雑な気持ちになった。
 私たち人間は極僅かな魔力を生まれながらに秘めている。それは今、使えないというだけでそういうものは存在する。
 前橋有利は遺伝子操作の突然変異によって生まれたユウさんとエミリさんの子供だ。ちゃんと血は繋がっている。今、現在はその力を使うことができないが、普通の人間とは桁違いの魔力をその胸に秘めている。
 これから始まるのは、その魔力を私たち人間が使えるようになる。そんな夢のような世界。
 前橋有利のその桁違いの莫大な魔力で、それを構築する。
 それによって地球は消え、新たな地球が再構築される。
 そして、奇跡の瞬間が訪れた。
 モニターが切り替わり、前橋有利の部屋が映し出される。彼の体から無数の光が、放たれていた。
 その光をみた瞬間、私たちは一瞬気を失った気がした。


 たぶんだけど間違いないと思う。私がそう伝えると瞬時に返事がきた。
(私の記憶とも一致するぞ。大丈夫だろう。)
 良かった、じゃあ念話はここで遮断、手筈通りに頼むよ、ミヤマ。
 9時25分。地球が再構築された時間。私はKにいた。
 でも、気づいたら学校の教室で授業を受けていたから少し焦ったのだけど、問題ないみたいだ。若干のずれはあるかもしれないけれど、そこは今後直していこう。
「良い週末を」
 小声でそう呟いて自習に移った。


「昭和由美子、君に任務を与える」
 ユウさんにそう言われたのは今から約1年前のことだった。
「任務は前橋有利の監視だ」
「ユーリ君の…ですか?」
 その頃の私は前橋有利のことを重要な鍵だと知ってはいたけれど、それ以上に私の友人の好きな人というイメージのほうが強かった。だからその子が呼んでいる名前で前橋有利を呼んでいた。前橋君とかだとユウさんやエミリさんと被るので。有利君と呼ぼうとしたら、友達から泣きそうな顔で反対された。「わたしが有利君って呼べなくてユーリ君って呼んでるのに、由美子ちゃんが有利君って呼んじゃったらなんか悔しい」とのこと。
「でも、なんで私が?」
「ユミ、君は生まれながらの魔法使いだ」
「はい」
 遺伝子操作。Kで行われていた研究の一つ。前橋有利はその遺伝子操作の突然変異。私はその遺伝子操作の成功例だった。生まれながらに魔法が使える力。
「通常、魔法はKの特殊な技術で作られた部屋でしか使うことができない。我々、遺伝子操作を受けていない一般人もその部屋のなかでは魔法を使えることは分かっているな」
「はい」
「しかし、ユミ お前はその部屋でなくても魔法を使える」
「そうです」
「そして遺伝子操作が成功した例はいくつあるか、知っているな」
「1件です それと例外が1件」
「そうだ 成功した例は実質、ユミ、お前しかいないのだ」
 遺伝子操作の実験はもう打ち止めになっている。多くの子供が犠牲になった。そして私が生まれてからも何度も実験は行われた。でも、無理だった。人の遺伝子に手を加えるという禁忌には触れてはいけないということなのか。結果、奇跡的に成功例の私、1人だけが生き残っているという状態だ。
「実際に日常生活に魔法を取り入れ、うまく生活をしているのはお前だけだ」
「…お花プロジェクトという例外もありますが」
「友人を忘れてもらっては困る、という目だな 心配するな 彼女にはすでに声をかけてある」
 お花プロジェクト。その例外のなかの例外。奇跡的な成功例。キリシマミヤマ。彼女は私の友人であり、同じ境遇の仲間だった。
「しかし彼女は気まぐれな性格だからな。協力してもらえるかどうか。」
「私からも言っておきます それで具体的にはどんなことをすれば…」
 そして私とミヤマの任務ははじまった。いつからだろう。
 呼び方がユーリ君じゃなくて、前橋有利になったのは。


 とりあえず異常なしなら良かった。放課後にミヤマに続いて前橋有利に接触することになっているけれど、とりあえずは一安心。
 なぜ接触するか。それには理由があった。
 地球再構築において、生まれるだろう。生まれてしまうだろう副産物が理由だ。
 副産物は2つあって、1つは紋章。前橋有利の異常なまでの魔力を分散させるためにKが取った奇策だ。紋章は8つ有り、そのすべてが前橋有利の魔力で構築されている。8つは属性によって分けられていて炎、水、雷、氷、風、地、光、闇の紋章が生まれる。それぞれは地球再構築の瞬間にどこかへ散らばって行った。その紋章を前橋有利の体に戻さない限り彼はその属性の魔法が使えなくなる。これからミヤマが接触するときに風の紋章を体に戻すという手筈になっていたはずだから、残る紋章はあと7つってことになるのだろうけれど。
 なぜそんな奇策を、と思うかもしれないけれど、前橋有利は今、1人で地球どころか世界を壊しかねない悪魔のような存在になっている。それくらいの奇策は取らないと大変なことになる。
 もう1つの副産物。それはプチ地球改変だ。地球再構築はKの特殊な技術で成功した。彼の意思はそこにない。しかし、それと同調して彼の意思で地球が改変されてしまうことがあるという数値が出ている。いや、意思というより無意識でなのだけど。実際、今日それが起こったのかどうか、確かめる術はないけれど、明日からはそれは起こらないようにしたい。例えば彼の身に何か起こって世界なんて無くなればいいのにと思うようなことがあれば、それを無意識につまり寝ている間に叶えてしまうこともあり得る。
 それをコントロール。抑制してもらうために私たちが接触するというわけだ。魔法の技術を教え込んで、事故を防ぐ。そういうこと。


 2限目が始まる直前に彼女は泣き顔で教室に入ってきた。
 1限目の終わりと同時に廊下へ駆けていったので今日はまだ彼女と話していない(地球再構築が1限目の途中に行われたため1限目前は私がKにいた)。
 今日は1限目からずっと自習だ。先生もいないし多少、出歩いてもいいかなと思う。私は彼女の席に向かった。
 片品るり。幼い頃からの私の友達だ。魔法の存在は知らなかったけれど、魔法の存在に触れて、クラスで孤立していた私に声をかけ続けてくれたのが彼女だった。どこまでも素直で優しくて、とても可愛い。
「るり」
 俯く彼女に声をかける。
「…由美子ちゃん」
「どうしたの?るり?」
 理由は知っていたけど理由を訊いた。私は前橋有利の監視役で、るりの友達なのだ。昨日のことも勿論知っていた。
「ユーリ君…と……し……んが……」
 言葉になっていない、るりの声。でもユーリ君のフレーズだけ分かってドキッとしてしまう私がいた。
 私はたぶん、前橋有利のことを学校一知っていると思う。流石にユウさんやエミリさんよりは知らないと思うけれど、ミヤマと同じくらいには。だから学校一。好きなお弁当のおかずも知っているし、好きな自販機の飲み物も知っている。テレビが好きなことも知っているし、好んで買う本も知っている。彼の今おかれている立場も私が学校一知っていると思うし、昨日のことももちろん知っている。好きな女の子のタイプも知っているし、朝昼晩なにをやっているかも知っている。
 それをユーリ君と呼ばれると何か嫌だ。何か恥ずかしい。
 違う違う。そんなこと考えてる場合じゃない。私はるりの泣き顔をみたくないのだ。
「大丈夫。るりの好きなユーリ君と渋川君は喧嘩したってすぐ仲直りするよ」
「そうかな…でも由美子ちゃんが言うなら…」
「そうそう……大丈夫だよ るり」
 そのあと、るりを泣き止ませてから、るりと色んな話をした。その時、ちょっとズルをしてるりの魔法の才能をちょっと引き出してあげたりもしたけれど、それは今後そんなに影響が出るものではないだろう。


 学校が終わり私はすぐに高崎公園に向かった。ミヤマが待っている。直接会って情報交換をするためだ。
「やぁ、ユミ。早かったな。
「もう少し遅く来てもよかったんだぜ。」
 公園に着くとミヤマが待っていた。相変わらずピンクの長い髪が綺麗だ。
「前橋有利の指導はうまくいった?」
「うちがミスをするとでも?ユミと同じ力を持つうちが。
「それは自分を貶しているのと同じことだぞ。
「うちらは常に同じ道を歩んできた。
「常に同じ魔法を使ってきた。
「違うか?」
 機関銃のような喋りにはいい加減なれていた。結構な付き合いだ。るりよりも付き合いに関しては長い。
 でも、私が言ったのはそういうことではなかった。
「この公園に魔力の残り香が3つある」
 一つはミヤマ。一つは前橋有利。もう一つがわからない。
「気のせいじゃないか?
「うちは前橋有利に修行をつけていた。
「それだけだが。」
「私がミスするとでも?ミヤマと同じ力を持つ私が。
「それは自分を貶しているのと同じことじゃない?
「私たちは常に同じ道を歩んできた。
「常に同じ魔法をを使ってきた。
「違う?」
 必殺、機関銃返し。
「な?うちの真似するなよ。
「てゆーか、うちを追い詰めたところで何も出ないぞ。
「うちは何も知らないからな。」
 キリシマミヤマは私の友人で仲間だが、秘密主義の女だ。これはどんなに攻めても教えてはくれないだろう。
「とにかく。情報交換だ。
「うちは手筈通り、地球再構築後、レーダーを使って紋章を集めたぞ。
「手に入れたのは風の紋章。一つ。
「そのあと、前橋有利に会った。
「状況を説明して、気づかれないように風の紋章を体に戻した。
「で、魔力をコントロールさせるための修行をやらせて学校に向かわせた。
「風の属性だから、もう空を飛ぶことくらいはできるようになっているはずだ。
「まぁ、更に手筈通りに魔法を使えなくする呪いをかけたから。
「今は使えないはずだがな。」
「順調ってこと?」
「そういうことだ。
「うちに感謝するがいいさ。」
 ミヤマは続けて言葉の弾丸を撃ちつづけていたけれど、そこは無視することにする。ミヤマは無視と反復に弱い。長年の付き合いの私は知っていた。
 しかし、多少の違和感がある。やはり前橋有利とミヤマ以外の魔力の残り香がこの公園には残っている。それに行く途中に私も紋章レーダーを使ったのだけれど、近くに反応があった。それをミヤマが逃すなんて思えないのだけれど。
 因みにレーダーというのは前橋有利が今どこにいるかを魔力単位で探索するKの機械だ。紋章が各地に飛び散ったことによって、そのレーダーで紋章も探知できるようになった。紋章は前橋有利の魔力の塊みたいなものだから。
「ねぇ、ミヤマ 前橋有利に修行をさせた後はなにしていたの?」
「………。」
 ミヤマが黙るなんて珍しい。
「流石、うちの親だな。
「すべてお見通しというわけか。
「いや、まぁ、そんなことはないのだろうが。
「やはり面白い。
「ユミ、お前もまたいい目をしていたもんな。
「まぁ、でも子供の遊びだと思って見逃してくれよ。
「うちは呪術が終わるまで消えるぞ。
「魔力を使えないあいつを監視する意味なんて半分くらいしかないのだからな。
「それじゃあまた会おう。ユミ。」
 と思ったら凄い喋った。割と凄いことも言っちゃった。あと、どこかに行っちゃった。
 …私は全てを知るものだから、知っているけれど。
 ミヤマのことも気になるけれど、Kの任務が、ユウさんの任務がある。
前橋有利に、会いにいこう。


 私は前橋有利のことを何でも知っているけれど、彼は私のことを何も知らない。
 これまではそれでよかった。でもこれからのことを考えると、前橋有利とコンタクトを取っておいたほうが後々やりやすいだろう。とのKの判断だった。そしてミヤマと同じく、魔法の師匠という位置づけになっておけとのことだ。
 前橋有利をレーダーで検索する。近くのスーパーにいるようだ。たまにるりの家にお泊りに行くときに買い出しに行く大きなスーパーだな、なんて思いつつ地面を脚で一踏みした。しばらく上昇し誰も飛んでいない高さまで跳ね上がった。魔法を使えるようになって1日目ではどんな才能があってもできない技術だった。
 ちょっと早い空中遊泳を楽しんでいるとすぐにスーパーがみえてきた。光の魔法で自分の姿を消し、着地した(あまり目立ちたくない)。
 店に入り、前橋有利の魔力を追う。封じられているだけで魔力そのものは変わっていなかったので見つけるのは簡単だった。
 前橋有利はお弁当コーナーの前にいた。カゴにインスタント食品やカップ麺がたくさん入っていた。その上、お弁当だ。ちょっと悲しい気持ちになる。エミリさんが1週間帰って来られないからご飯を作ってくれる人がいないのだろうけれど。
 明日、るりにこのことを伝えてあげよう。喜んでお昼くらいは作ってきてくれるはずだ。
 さて、どうやって話かけよう。1年、前橋有利を監視してきた私だけれど、そのおかげで同年代の男の子と話す機会なんてほとんどない。ごめん、嘘。たぶんそれ関係ない。同年代の子なら私は普段るりとしか話さない。それにそれ以外はミヤマとユウさん、エミリさんくらいだ。私、コミュニケーション能力とかなかった。皆無だった。どうしよう。どうしよう。
「なにやってるんだ?昭和さん…だっけか?」 
私が勝手にあわあわしていると、その前橋有利が自分から声をかけてきた。
「え?え?」
 あれ、どうして私の名前知っているの?正体がバレた?そんな…私の監視は完璧のはず…。まさかミヤマが?…でもそんなことして何の意味がある?
 あぁ…どうしよう。Kにもユウさんにも申し訳が立たない。私にはあそこしか居場所がないのに…。
「おーい?何か困っていることでもあったのかと思って声かけたんだけど?あれ?俺のこと知らない?」
「し、知っています!!」
「何で敬語?まぁ俺の名前知っているとは思ってないけど、るりといたりすることあるから顔くらいはわかるだろ?」
「ユーリ君、ですよね」
「名前知ってるのかよ…しかもなんで名前に君付け?普通、苗字を呼ぶものじゃないのか?別にいいけど あとなんで顔真っ赤?」
 ああああああああああ。ユーリ君、じゃなくて前橋有利、私のこと知ってる!?変な喋り方しちゃった。名前で呼んじゃった…。これから魔法の使い方、教えていかなくちゃいけないのに。どうしよう…変な子って思われた?……じゃなくて怪しまれたかな?じゃなくて…じゃなくて…。
Kのため。ユウさんのため。エミリさんのため。
「前橋有利」
「なんでフルネーム?さっきのでいいよ どうせるりから訊いてるんだろ?俺のこと」
「ユーリ君」
「なんだよ?お前は大丈夫なのかよ?」
「大丈夫です。ユーリ君は大丈夫ですか?」
「いや…俺は大丈夫だよ あぁ…大丈夫じゃないか 家のこともあるし…ってそれはお前には関係ないか 昭和」
「昭和由美子」
「あぁ、名前な 知ってるよ るりがお前のこと由美子ちゃんって話すからな」
「ゆ…由美子ちゃん…!?」
 名前で呼ばれた。名前で呼ばれた。名前で呼ばれた。名前にちゃん付けで呼ばれた。名前にちゃん付けで呼ばれた。
「せめてユミでお願いします」
「え…ああ?まぁ初対面ってわけでもないが、いきなり呼び捨ても馴れ馴れしいし…」
 ドクン。
「ユミさんって呼ぶよ」
 ドクン。ドクン。ドクン。
「よろしくなユミさん」
 ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。
 なにこれ…。ただ会話しているだけなのに。私は1年間ずっと前橋有利をみてきたのに。
 なんでこんなに…どきどきするの…。

10
 私は甘い。
 変に気を取られていて、気づかなかった。
 近くにいる、紋章の存在に。
 爆音が鳴り響いた。
 スーパーのフロア全体に爆音が。
「これは…危ない 下がれ ユミさん」
 こんなときでも出会ってすぐの私を守ろうとしてくれる…。
 いや、違う。そうじゃない。
 Kのため。ユウさんのため。エミリさんのため。
「下がるのはユーリ君のほう」
 私を庇おうとして前にでたユーリ君を無理矢理、私の後ろに引き戻す。
 この魔力。…くる。大きいのが。
 ありったけの魔力を振り絞って障壁を張る。ここで死んだら意味がない。ここで死なせたらもっと意味がない。
 守るんだ。私が。

11
 スーパーは瓦礫の山に変わった。紋章の攻撃を受けた人たちは見るも無残なことになっている。
 私は…正直ある程度見慣れていた。でもユーリ君は違った。
 それをみたユーリ君の表情を今でも私は忘れられない。絶望の表情。
 私は魔法を使って、ユーリ君の記憶をちょっと強引に、消した。
 早くしないと間に合わなくなると思ったから。呪術で封じられているとはいえ彼の魔力は強大なものだと知ったから。

12
 紋章の力は凄い。たぶんあの力を使った人はその力に耐え切れなくなって消滅したのだろう。
 私はスーパー一帯に人払いの魔法をかけて、ユーリ君を家に送り届けた後、居場所に帰ろうとしていた。
 私の手には光の紋章が。今日は色々ありすぎて疲れた。居場所に帰ろう。
 Kに。忙しく働いているユウさんとエミリさんのもとへ。

13
「こんなのって…」
 そしてスーパーと同様に、Kも。
「こんなことって……」
 瓦礫の山になっていた。その中心には紋章が。
「私の…私の居場所が……」
 私には帰る場所がここしかなかったのに。


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