Napping of Woog

詩論(2)言葉を獲得した人類

言葉を獲得した人類


 赤ん坊にとって、言葉を発する快感の次に来るものは、
単純なものにせよ、コミュニケーションの喜びではないだろうか。
(因みに、天才は6ヵ月で言葉をしゃべり、
 一般人は、11ヵ月頃から自分の名前を呼ばれて反応し始め、
 喃語を話し始める。早い子は1才で発語が始まる。)
コミュニケーションの「快感」ではなく「喜び」と言うのは、
コミュニケーションはもはや、どんな小さなものであれ、
社会の存在を前提とするからである。
既に自分が理解している言葉をしゃべり、
親兄弟が予想通りに答えてくれる喜びのおかげで,
赤ん坊は、快感とは異なる場合もあるが、
しばしば重なり合う第2の生きがいを持つようになる。

 言葉を初めて言え、それが他人に伝わった時の喜びも、
詩は忘れてはならない。
また、生の原点とも言える言葉の快感とこの喜びは、生の肯定に通じる。


 言葉を考える際に赤ん坊だけでは不十分であろう。
次に人間と言葉との歴史を振り返ってみたい。
200万年とも1000万年とも言われる歴史の中で初めて言葉を発したのは、
50-150万年前にアフリカ、ヨーロッパ、極東に生存した
ホモ・エレクトゥスだったと言われている。
彼らは未発達ながら簡単なフレーズを組み合わせて
ゆっくりと言葉をしゃべっていた。
現代人の7-8才の知能を持ち、道具を作り、火を使い、
狩猟と採集によって生きていた彼らの複雑な文化を考慮すると、
動物とは明らかに異なる感情を彼らが持っていたと推測される。
生と死を目の前にして、宗教的感情の萌芽があったかもしれない。
また、言葉を介してのコミュニケーションの喜びを
知っていたかもしれないが、
彼らが現代人ほど言葉を発する快感を感じたかどうかは、
その肉体的特徴から見て疑問である。

 言葉の快感や喜びを辿っていくと、
ホモ・サピエンス・ネアンデルターレンシス
(30万年程前に生まれ、約3万5千年に絶滅したとも、
 ホモ・サピエンス・サピエンスと混血が起こり、
 徐々に後者に転化したとも言われる。)
を飛び越え、ホモ・サピエンス・サピエンス(HSS)が
最初に芸術に目覚めた、約35000年前に始まる後期旧石器時代へと行き着く。
この時代から、文化的進化が生物学的進化を凌ぐようになるのである。

 その前に、非常に興味深い学説を紹介したい。
多くの民族から抽出された多数の人々のDNAを分析すると、
地上のすべての人々が約20万年前にアフリカに住んでいた、
たった一人の女性に由来するという結論が出たのである。
残念ながらこの分析方法では、
彼女の夫、厳密に言えば彼女の卵子に精子を提供した
単数もしくは複数の男性についてはわからない。
いずれにせよ、想像力をかきたてられる話ではある。
我々の起源についての研究には大いに期待したい。


(脚注)

 言葉の創設者をホモ・エレクトゥスではなく、
約250万年前から160万年前まで東と南のアフリカのみに生存した
ホモ・ハビルスとする学者もいる。

(後書き)

 ホモ・サピエンス・ネアンデルターレンシス、
いわゆるネアンデルタール人には死者を埋葬する習慣があり、
彼らが物質世界のみに生きていたのではないことが実証されていますが、
彼らの言葉はまだまだ不完全であったので触れませんでした。

次回 はHSSが主人公です。
確固とした言葉の快感と喜びはHSSから始まり、
同時に言葉は死と恐怖を発見するのです。


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