美しくも、










追いかければ、すぐに届くと知っていた。

しかしそうしなかったのは、僅かなプライド、そんなわけじゃない。

格好悪さなんて気にしなかった。

気にした事もなかった。

嘘。

格好悪くなる事を気にする事が格好悪いと知っていたから。

だから私はそれを隠しただけだ。


値段なんて気にしませんよ。

これっぽっちも。

私に必要なものが手に入ればそれで良いのです。

そう表す為に、コンビニ。

どうでも良かった。何もかも。

夜に歩きたかった。

何も欲しくなかった。

あぁ、吐きそう。


買ったばかりの苺のポッキーを開けたら、

苺香料の人口くさい香りがして、落ち着いた。

あぁ、あの人とは、こうして終わるのだな、と思った。

指先を噛んだら、何だか塩っぽくて、あの人の指先も、こんな味だったかな、と。

思い出せば思い出す程、この人工くささみたいな安っぽさが愛おしい。

幸せだと感じた事があった。

それだけで、もう良かった。


大好きだった靴を捨てた。

あの人に、散々言ったからだ。

可愛いでしょう。

あの人が覚えている私なんて、きっとそんなものだろうと思った。

この靴が無くなっただけで、あの人の中の私は、6割くらい消えてしまうだろう。

所詮そんなものだ。

ねぇ、それでももしあなたが私を忘れないで居てくれたら。


美しいものが好きだった。

彼は美しかったのだ。

彼の恥ずかしさを見つけた私は、いつも見ないふりをした。

彼の美しさしか認めたくなかった。

私は、彼の美しさしか彼と認めなかった。

私の美しい、可愛そうな人。

さようなら。


人口苺の香りに包まれて、

私は彼に別れを。




美しくも、/20090215



















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