それは覚めない夢の後










彼女は割れた爪の破片を丁寧に捨てる。

それに何の意味が在るのか問うと、驚くべき事を聞いたような真顔で言った。

その質問に何の意味が在るのかしら。

あぁ、僕は、彼女が好きで堪らなくて。

こんな陳腐で軽過ぎる表現の仕方で良いものだろうか。

もっと生々しくて美しく、尊いこの想いは。

形に表せば、それは彼女に沈み受け入れられていく。

今度はどのような形で、彼女を汚せば良いのだろう。

僕が好きな彼女の香りが、僕だけの物になれば良いのに。

いっそ、彼女が僕の香りを纏えば良いのに。


目が、覚める。

独特の倦怠感と寝起きの匂いが僕を包んだ。

隣で彼女が寝息を立てていた。

違う、こいつじゃない。

傍のカッターをそっと突き立てて、柔らかなケーキを切るように刺す。

さよなら。


夢が、覚める。

飛び散らない血が流れ続けていたはずの彼女の胸元は、綺麗な白色。

隣で彼女が寝息を立てていた。

あぁ、僕はこの子を一生愛せるだろう。

例え夢から覚めたとしても。


目が、覚めた。




それは覚めない夢の後/20071219



















© Rakuten Group, Inc.
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: