偐万葉田舎家持歌集

偐万葉田舎家持歌集

2009.02.28
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カテゴリ: 銀輪万葉

 先日、久しぶりに 箸墓古墳 や山辺の道付近など桜井市を巡って来た。
 雨上がりということでもあったか、「水脈
(みを) し絶えずは」の泊瀬 (はつせ) 川や「川音 (かはと) 高しも」の穴師川は水量タップリ。「雲立ち渡る」弓月が嶽、「雲だにも情 (こころ) あらなも隠さふべしや」の三輪山。ほのかに流れ来る梅の香に、見やれば白梅、紅梅が今を盛りと咲き匂っている。遠くを望めば、香具山、畝傍山、耳成山の大和三山のたたずまい。

026箸墓古墳.JPG
(箸墓古墳)
027箸墓古墳.JPG
(箸墓古墳は第七代孝霊天皇の皇女、倭迹迹日百襲姫の墓とされているが、卑弥呼の墓とも云われ、邪馬台国畿内説の象徴的な存在となっている、初期巨大前方後円墳である。)
ーーーーーー
日本書紀巻5崇神天皇十年九月の条
     (岩波文庫「日本書紀(一)」より)

是の後に、倭迹迹日百襲姫命、大物主神の妻と為る。然れども其の神常に昼は見えずして、夜のみ来す。倭迹迹姫命、夫に語りて曰く、「君常に昼は見えたまはねば、分明に其の尊顔を視ることを得ず。願はくは暫留りたまへ。明旦に、仰ぎて美麗しき威儀を覲たてまつらむと欲ふ」といふ。大神対へて曰はく、「言理灼然なり。吾明旦に汝が櫛笥に入りて居らむ。願はくは吾が形にな驚きましそ」とのたまふ。爰に倭迹跡姫命、心の裏に密に異ぶ。明くるを待ちて櫛笥を見れば、遂に美麗しき小蛇有り。其の長さ太さ衣紐の如し。則ち驚きて叫啼ぶ。時に大神恥ぢて、忽に人の形と化りたまふ。其の妻に謂りて曰はく、「汝、忍びずして吾に羞せつ。吾還りて汝に羞せむ」とのたまふ。仍りて大虚を践みて、御諸山に登ります。爰に倭迹迹姫命仰ぎ見て、悔いて急居。則ち箸に陰を撞きて薨りましぬ。乃ち大市に葬りまつる。故、時人、其の墓を号けて、箸墓と謂ふ。是の墓は、日は人作り、夜は神作る。
ーーーーーー

  山辺の道は、高校生の頃、犬養孝先生の著書「万葉の旅」上巻を手に、最初に訪れた万葉故地でもある。その後も何度となく、一人で、或いは友人や家族や色んな人と歩いたり、自転車で走ったりしていて、色んな思い出がそこかしこにある地であるが、この処しばらく何故かご無沙汰していた。山辺の道は歩くのには適しているが、自転車だと、石畳や狭い野道や段差などがあって 走りにくい、というのが、この処の銀輪散歩中心の偐家持が寄り付かなかった理由かも知れない。まあ、万葉の道は本来歩くべきものにて、自転車で走ろうというのはやはり邪道なのであろうか。
 読書会の友人たちと山辺の道をレンタル自転車で走ったのはもう10余年前のことになるだろうか。その頃は智麻呂氏もお元気で自力で自転車に乗ることもお出来になっていたので、全員で楽しいサイクリングをしたものだった。登りの坂道では自転車の智麻呂氏を後から押して走り上がり、はあーはあー息を切らし、汗だくになったことなんかも懐かしく思い出される。
 この地、巻向(纏向)は大和朝廷の発祥の地でもあるが、偐家持の万葉歌との出会いの原点の地でもある。そう言えば、この地を流れる泊瀬(初瀬)川は、大和川の上流、源流であるのだ。もっとも、今は泊瀬川とは呼ばないのか、川にかかる橋には大和川と表示されている。そして、初瀬と言えば、「こもよ みこもち このをかに なつますこ いへきかな なのらさね・・」のあの万葉集巻頭の雄略天皇の歌の舞台でもあるのだ。
 山辺の道は桜井市朝倉の泊瀬川畔、三輪山麓から、山裾を縫うようにして天理市経由、奈良市に到る古代の道である。前述の箸墓古墳を始め、第10代崇神天皇陵古墳、第12代景行天皇陵古墳などの巨大古墳がある。今回は時間の関係もあり、南コースの一部を回っただけであるが、何とかぼけずに写っている写真で、その風景の一部を紹介してみましょう。

024白梅.JPG023蝋梅.JPG
(白梅、蝋梅)

白梅の 枝垂 (しだ) れ咲きぬる 巻向の
          風のやさしみ 春べなるらし (偐家持)

020穴師川と梅.JPG
(穴師川と梅)

世間 (よのなか) の 女 (をみな) にしあらば わが渡る
              痛背
(あなせ) の河を 渡りかねめや
                           (紀女郎 万葉集巻4-643)

痛足河 (あなしがは)  河波立ちぬ 巻目 (まきもく)
             斎槻
(ゆつき) が嶽に 雲ゐ立てるらし (万葉集巻7-1087)

巻向 (まきむく) の 痛足 (あなし) の川ゆ 往 (ゆ) く水の
              絶ゆること無く また反
(かへ) り見む (万葉集巻7-1100) 

021穴師川と梅.JPG022棟方志功筆万葉碑・穴師川辺.JPG
(穴師川、棟方志功筆万葉歌碑)

(まきむく)
            川音
(かはと) 高しも 嵐かも疾 (と) き (万葉集巻7-1101)

あしひきの 山川の瀬の 響 (な) るなべに
            弓月
(ゆつき) が嶽に 雲立ち渡る (万葉集巻7-1088)

019車谷の梅.JPG
(車谷の梅)

車谷 見むとし来れば 君に恋ひ 咲きか散るらむ 白梅の花 (偐家持)

016三輪山.JPG
三輪山

三輪山を しかも隠すか 雲だにも 情 (こころ) あらなも 隠さふべしや
                            (額田王 万葉集巻1-18)

014平等寺.JPG
平等寺

007玉列神社.JPG
玉列神社

002阿弥陀堂.JPG
(阿弥陀堂)
005阿弥陀堂のケヤキ(小).JPG
(阿弥陀堂前のケヤキ)

011仏教伝来之碑.JPG
(仏教伝来の碑)

010泊瀬川(大和川).JPG
(初瀬川<泊瀬川>)

三諸の 神の帯ばせる 泊瀬河 水脈 (みを) し絶えずは 吾 (われ) 忘れめや
                            (大神大夫 万葉集巻9-1770)

泊瀬川 速 (はや) み早瀬を むすび上げて 飽かずや妹と 問ひし君はも
                                 (万葉集巻11-2706)

泊瀬川 白ゆふ花に 落ちたぎつ 瀬を清 (さや) けみと 見に来し吾を
                                (万葉集巻7-1107)






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最終更新日  2016.09.18 16:45:08
コメント(16) | コメントを書く


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Re:山辺の道(02/28)  
山辺の道は何度か行ったことがありますがこの写真は新鮮ですね。梅も綺麗ですが色々な寺院も上手く撮れています。ありがとうございます。 (2009.02.28 20:57:43)

趣のある写真が いっぱいですね  
ビターc  さん
こんばんは ご無沙汰をしております
箸墓古墳は テレビで見た ような気がします
なにか 歴史的な なぞが 解ける 手がかり
だったような
浪漫が ありますね (2009.02.28 22:04:52)

松風6923さんへ  
けん家持  さん
ご訪問、コメント有難うございます。
 山辺の道はいいですね。でも、バイパスの高架道路が出来たり、住宅その他の建物が建ったりと、段々昔の風情が無くなってゆく感じもあって・・、思いは複雑ですな。小生にも絵心といささかの技量があれば、写真だけでなく絵でも表現できるのですが、とても無理です(笑)。 (2009.02.28 22:53:50)

Re:趣のある写真が いっぱいですね(02/28)  
けん家持  さん
ビターcさんへ
こんばんは。お久しぶりです。
そうですね、最近、箸墓の周りで発掘が相次いでいますね。何せこの時代は文献もなく、考古学上の発掘物から推測するしかありませんから、古墳の埋蔵物に聞くほかありません。中国の文献、魏志倭人伝の記述だけでは、永遠の水かけ論ですからね。まあ、この「水かけ論」のゆえに、我々、素人は「ロマン」を感じるのでもありますが(笑)。
(2009.02.28 23:06:32)

Re:山辺の道(02/28)  
siinomi1566  さん
見事な蝋梅ですね♪
宮崎市は、橿原市と姉妹都市ですので、
興味があります(^^) (2009.02.28 23:15:47)

siinomi1566さんへ  
けん家持  さん
コメント有難うございます。 
 蝋梅は大阪ではもう盛りを過ぎていましたが、巻向ではまだ「匂ふが如く」でした。

蝋梅と 梅の香に酔ひ ひとりゆく 春の道の辺 風がまにまに (偐家持)

 宮崎市と橿原市は姉妹都市ですか。日本書紀では神武天皇こと、神日本磐余彦(かむやまといはれひこ)が日向を発って大和に入り橿原の地で天皇に即位するのですから、言わば「神武東征旅行」の始発駅と終着駅との姉妹都市という訳ですな。
 この旅行の最終段階の熊野からの大和入りに際しては、家持の祖先に当たる「道の臣」が先鋒となっていますから、偐家持とも縁のある話です(笑)。もっとも、我が住む地はその神武さんの大和入りを阻んだ物部氏の長髄彦が居た土地ですから、宮崎市とは姉妹都市にはなれませんです(笑)。 (2009.03.01 00:02:59)

こんばんは  
カマトポチ  さん
いきなり万葉集を読むのは無理そうなので、岩波現代文庫の大岡 信著「古典を読む万葉集」読んでいます。
その最初の方に、
香具山は 畝傍を愛しと 耳成と 相争ひき 神代より かくにあるらし
いにしへも しかにあれこそ うつせみも 妻を争ふらしき(巻1-13)
大和三山の男女論が書かれていたので、写真に写っていないか探してしまいました。
(2009.03.01 00:03:32)

Re:こんばんは(02/28)  
けん家持  さん
カマトポチさんへ
 残念でした。写真撮って来ればよかったですね。ある場所からだと畝傍山を中央にして、大和三山が等間隔に並んで見えるのですが、最近は住宅とか建物が少し邪魔になるので、道から少し上に入らなければならず、写真は撮らずに来てしまいました。次回はこれを撮って、この万葉歌を添えてみましょう(笑)。
 もっとも、この妻争いを見に来たのか、仲裁に来たのかは存じませんが、「印南国原」は先日、高御位山の山上から撮って、ブログに載せましたが、主役三人揃いの写真は未登場ですな(笑)。

香具山と 耳梨山と あひし時 立ちて見に来し 印南国原 (巻1-14) (2009.03.01 00:26:45)

Re:山辺の道(02/28)  
小万知 さん
懐かしい偽家持様の万葉道案内、歌案内を思い出しております。
ススキと萩の咲き乱れる中を銀輪で古人を偲びながら行きましたね。
今回は美しい白梅と蝋梅の香りが迎えてくれたのですね。
特に百襲姫命の墓前で語ってくださった三輪山に住む蛇との情熱的な物語はお供え物の卵と共に印象に残っております。
(2009.03.01 01:10:57)

小万知さんへ  
けん家持  さん
おはようございます。
 読書会でも結構あちこち行ってますから、ちょっと記憶にも混乱が生じていますが、山辺の道サイクリングは秋のことでありましたか。秋でも9月の結構暑い日だったのでしょうね。一緒に「かき氷」を食べたのを記億しています。薄や萩の記憶がないとは「おその風流士(みやびを)」ですな(笑)。

風流士(みやびを)と 吾は聞けるを 萩忘れ かき氷言ふ おその風流士 (偐石川女郎) (2009.03.01 08:59:13)

Re:山辺の道(02/28)  
るるら.  さん
箸墓古墳には一度訪れてみたいと思っていたので
写真を見れて良かったです。

三輪山は静かに佇んでいますね、
雨雲がかかっているところが
何とも三輪山の性質を象徴しているようにも
感じてしまいます。

素晴らしい場所ですね~ (2009.03.01 17:37:28)

るるら.さんへ  
けん家持  さん
るるら.さん
 箸墓古墳。機会があれば、是非お訪ね下さい。山辺の道は近鉄桜井駅または大和朝倉駅から、泊瀬川を渡り、大神(おほみわ)神社、桧原社を経て景行・崇神陵を過ぎ、天理市の石上神社までの南コースで約16キロメートルです。
 箸墓古墳へは車谷で「山辺の道」からしばし外れて、西へ左折、穴師川に沿ってゆくと正面右手に見えて来ますよ。
 上の「三諸の神の帯ばせる泊瀬川・・」の歌は、作者の大神大夫が持統天皇に諫言して、その怒りを買い、長門守に左遷されることとなった時、その送別会を泊瀬川畔で開いた際に詠んだ歌だし、「三輪山をしかも隠すか雲だにも・・」の歌は、明日香から大津京へ都が移り、引越しで三輪山の辺りを通りかかった時に、額田王が詠んだ歌です。こういうことを思いながら、現地に立って歌を口に出して読んでみると、感慨が一層深くなります。(笑)
(2009.03.01 19:00:48)

Re:山辺の道(02/28)  
山屋のしげちゃん(^^♪ さん
今日は山屋で登場。
来月、山の会で「山辺の道」例会を予定をしています。
石上神宮~長岳寺~JR三輪と青垣を左に見ながら一日ゆっくり春の山辺を歩いて来ます。4月3日なので、桜の見頃に出会えるかな?と、それも、楽しみであります。 (2009.03.01 22:43:27)

Re:山辺の道(02/28)  
昔、犬養孝先生と一緒に(市民大学講座万葉の里をたずねて)歩いたことを懐かしく思い出しました。
私は京都で育ちました~。 (2009.03.01 23:01:46)

山屋のしげちゃん(^^♪さん  
けん家持  さん
今日は山屋で登場ですか。
石上神宮の方から歩かれるのですね。4月3日なら桜の盛りでしょう。いいですな。まさに、花よ蝶よ、ですな。

石上 布留の高橋 高ければ 花に迷ひて 川にな落ちそ (偐定家) (2009.03.02 00:42:13)

カコちゃん08さんへ  
けん家持  さん
 そうですか、犬養先生とご一緒に歩かれましたか。それなら、あの犬養節もご存じなのだ。嬉しいことです。それに、京都のご出身どすか。
 何だか急に親近感を覚えてしまいますな(笑)。
(2009.03.02 01:04:04)

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