偐万葉田舎家持歌集

偐万葉田舎家持歌集

2015.01.15
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カテゴリ: 銀輪万葉

承前 )<1月11日(2)>

 九州国立博物館は天満宮の敷地よりもかなり高い位置にある。前記事の「筑紫や何処」の旅人の歌碑付近から撮った写真がこれ。背後の丘がガラス壁面に映って、建物が景色に溶け込んでいるみたいです。

九州国立博物館 (九州国立博物館)

 博物館を後にし坂を下る。県道76号に出て左へ。左は上り坂。右は下り坂で西鉄太宰府駅南側の踏切へと至る。政庁跡に向かうには右に行くべしであるが、その前に立ち寄るべきは、吉木小学校。この小学校の校庭隅に万葉歌碑がある筈。

県道76号・筑紫女学園校門付近から大野山を見る (県道76号・筑紫女学園校門付近から大野山を見る)

 上の写真は筑紫女学園の校門だか通用門だかの前から、来た道を振り返ったもの。手前の丘の向こうが太宰府天満宮。丘の中央を切り裂くように開かれた道を上った処にあるのが九州国立博物館。小生はこの道を下って来て県道76号に出たのでありました。
 筑紫女学園と言えば、確か高校女子駅伝で優勝したかの駅伝の強豪校であったかと記憶する名前である。この高校の前で道は大きく左折し更に急な上り坂となって、上り切ると、太宰府市から筑紫野市に入る。
 目指す歌碑は、小学校の校庭南隅にありました。

吉木小学校・校庭万葉歌碑(巻8-1530) (1) (吉木小学校校庭万葉歌碑)

をみなへし 秋萩交じる 蘆城野 (あしきの)
            今日を始めて 万代に見む (万葉集巻8-1530)

 この歌は大宰府の官人たちが蘆城 (あしき) の駅家 (うまや) で宴を開いた時の歌。新しく着任した官人を歓迎する宴であったのだろう。作者は不詳であるが「オミナエシと秋萩が入り交じって咲いているこの蘆城野は今日初めて拝見したが、いついつまでも見たいものです。」と言っているから、新任の官人が詠ったものであろう。
 吉木小学校の東側を流れている宝満川を下った辺りに阿志岐という地名が今も残っていて、阿志岐小学校というのもあるが、昔は吉木も含めて「蘆城」であったのだろう。「あしき」は「悪しき」に通ずると「良しき・吉木」と言い替えたのであろう。そういう事に頓着しなかった地域が「阿志岐」のまま残ったということでもあるか。「よし」と「あし」が隣り合って併存しているのも面白いが、そのよしあしは此処では論ずべきものでは勿論ない。

吉木小学校・校庭万葉歌碑(巻8-1530) (2) (同上・副碑)

 吉木小から県道65号を渡り宝満川を渡って直ぐの処にある万葉歌碑がこれ。

吉木・消防御笠分団車庫前万葉歌碑(巻4-569) (1) (吉木・消防御笠分団車庫前万葉歌碑)

唐人の 衣染むとふ 紫の
             情
(こころ) に染みて 思ほゆるかも (麻田連陽春 万葉集巻4-569)

 吉木小の前歌が歓迎会の歌であったのに対して、こちらは送別会の歌である。大伴旅人が大納言に任ぜられて京へと上ることとなったので、その送別会を蘆城の駅家で行ったのである。
 「唐人の衣染むとふ紫の」は「染みて」を導くための序詞であるが、紫には大伴旅人の意味が込められている。衣服令で身分により着用すべき衣服の色が決められて居り、紫は三位以上の者の礼服の色である。大伴旅人は正三位であり、当時の大宰府で紫色の衣服を着用できたのは旅人のみであった。
 この歌などは転勤や退職の人の送別会などに替え歌にしたりして使える歌である。勿論そのままでも使える(笑)。

吉木・消防御笠分団車庫前万葉歌碑(巻4-569) (2) (同上・副碑)

 太宰府市へと引き返す。県道76号を直進すればいいだけであったのに、県道35号との交差点で勘違いして左折し35号に入ってしまう。右側にゴルフ場があるため、ネット張りのトンネルが続く。トンネルを出た処で間違いに気付く。本人は近道を走っている心算であったのだが、トンネルを出た辺りで地図を確認して間違いに気付いた次第。

県道35号上宝満橋方面へ (県道35号・上宝満橋方面へ)

 県道76号に戻り、来た道をそのまま辿り、向かった先は大宰府市役所。その前庭に山上憶良の歌碑がある。

太宰府市役所前庭万葉歌碑(憶良・巻5-818) (1) (太宰府市役所前庭・山上憶良歌碑)

春されば まづ咲く宿の 梅の花
       独り見つつや はる日暮らさむ (山上憶良 万葉集巻5-818)

 この歌も天平2年正月13日の観梅の宴での歌である。皆で観梅を楽しんでいる席で「ひとり見つつや」はあるまい、と思われるが、これは反語的表現で、「ひとり見つつ暮らそうか、いやそんなことはとてもできない」と解するのが一般的なようだ。しかし、「憶良らは今は罷らむ子泣くらむそれその母も吾を待つらむぞ」と宴席で詠った憶良であるから、歌としては「ひとり見つつ暮らそう」という意味で、皆の盛り上がりに水を差すと見せて、逆説的な面白味を醸した憶良流の諧謔と見るべきではないか、という気がする。この歌をして宴席の楽しさに背を向ける憶良だとか、妻を亡くしたばかりの旅人を気遣った、などという生真面目な解釈は勿論戴けない。

太宰府市役所前庭万葉歌碑(憶良・巻5-818) (2) (同上・副碑)

 市役所から西へ。観世音寺である。ここにも万葉歌碑がある。


観世音寺 (1)

観世音寺 (2) (観世音寺境内案内板)

観世音寺境内万葉歌碑(沙弥満誓・巻3-336) (1) (観世音寺境内・沙弥満誓歌碑)

しらぬひ 筑紫の綿は 身につけて
        いまだは著ねど 暖かに見ゆ (沙弥満誓 万葉集巻3-336)

観世音寺境内万葉歌碑(沙弥満誓・巻3-336) (3) 観世音寺境内万葉歌碑(沙弥満誓・巻3-336) (2)
(同上)            (同上・副碑)

 作者の沙弥満誓は観世音寺の別当であった。彼の俗姓は笠朝臣麻呂。養老5年(721年)に元明太上天皇の病気平癒を祈って出家したと言われている。
 歌の意味は明瞭だが、「綿が暖かに見える」では何の面白味もないから、綿は女性を暗喩していると解すべきだろう。すると何やら可笑し味も伴う歌になる。坊主が何言うか、ではあるが。

 観世音寺から少し北に行くと、道端に僧ゲンボウの墓がある。もう制限字数に近付いているので、ゲンボウさんのことは省略します。

僧玄ボウ墓 (2) (僧玄ボウの墓)

僧玄ボウ墓 (1) 僧玄ボウ墓 (3)
(同上説明碑)

 本日はここまでとします。( つづく







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最終更新日  2015.01.17 15:57:57
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