超重神山さんDESTINY

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第2話 大天使と龍騎兵


シグーは後ろから迫るメビウス・ゼロに向けガトリングとマシンガンを連射する。メビウス・ゼロはそれを機体をひねらせて回避するが目標を失った無数の弾丸がシャフト内部に着弾し爆発する。

「アイツ、コロニーの中で!!」

コロニー内部で周りの損害など気にもとめず射撃武装を撃ってくるクルーゼにフラガは怒りを覚える。こっちはコロニーへの損害や場所の悪さなどもありガンパレルが使用できず戦闘力が半分以下になっている。
しかし、クルーゼはコロニーなどどうなろうとも構わないのかマシンガンやガトリングを連射する。いくらコロニーに損害を与えられないと言ってもみすみす弾に当たってやる訳にもいかない。
損害を与えない方法はただ一つ、クルーゼを出来るだけ早く倒す事だ。

「舐めるなよ!!」

メビウス・ゼロのリニアカノンをシグーに向け放つ。クルーゼは鼻で笑うとシグーを真上に飛ばして弾丸を避ける。

「なっ・・しまった!!」

そのままシグーはメビウス・ゼロに向けて急降下しガンパレルの一つを全体重をかけて踏みつぶす。装甲が割れガンパレルが破壊される。

「畜生が!!」

フラガは破壊されたガンバレルを強制パージし一気に加速、シグーとの距離を取る。シグーも加速しそれを追う。
レーダーとモニターを注視しながらフラガは残りのガンバレルのパージを準備する。

「そうだ・・・そのままついてきやがれ」

限界ギリギリまで加速する二機。真っ直ぐシャフト内を飛行していく。

「貰ったぞ、ムウ!!」

クルーゼがシグーのマシンガンをメビウス・ゼロに向ける。

「それが命取りだ。クルーゼ!!」

フラガは残りのガンバレルを全てパージする。3つのガンバレルがシグーに向かい不規則に落ちてくる。

「クッ!!」

クルーゼはマシンガンを連射しガンバレルを二つ撃ち抜き破壊。残り一つは機体をひねらせ回避する。其処に間髪入れずフラガはメビウス・ゼロを反転させリニアカノンを放つ。
避けきれないと判断したクルーゼはシールドを投げ捨てリニアカノンの弾丸にぶつける。シールドに装備されていたガトリングが誘爆する。

「チッ!!」

「なかなか面白い戦法だがね。爪が甘かったようだな、ムウ・ラ・フラガ!!」

クルーゼはシグーを加速させメビウス・ゼロの横をすり抜けそのままコロニー居住区へと飛び出した。
機体を反転させムウもそれを追う。残った唯一の武装リニアカノンの残弾はあと3発しかないが追わないわけにはいかない。メビウス・ゼロも居住区へと躍り出た。



モルゲンレーテ工場区からだいぶ離れた位置にあるショッピングモールらしき建物の上空でアークラインとオレンジ色のジンが激しく撃ち合っていた。
三連装機関砲とマシンガンの弾丸をお互いに見事な動きで回避し一歩も譲らない戦いを繰り広げている。

「コイツ・・・俺の動きについてくるとは。面白いじゃないか!」

「さすがに・・・エースは伊達じゃ無いみたいね」

ミゲルは接近戦で一気に決着をつけようとマシンガンから重斬刀に持ち替えアークラインとの間合いをつめる。

「っ!!」

振り下ろされる重斬刀を機体を下がらせて回避する。間髪入れず重斬刀が振り払うようにふるわれる。機体をひねらせて無理矢理回避し三連装機銃で反撃をかける。
しかし、無理な体勢から放った機銃の弾丸は狙いをはずれ明後日の方向へと飛んでいく。

「接近戦は苦手みたいだな。このまま堕ちろ!!」

三度、重斬刀が振るわれる。クレアはアークラインの腰部の後ろに収納していたコールドメタルナイフを抜きそれを受け止める。
しかし、完全には受け止めきれずにパワー負けし体制を崩して地上へと叩きつけられる。

「あうっ!!」

パイロットスーツを着ていないため衝撃がもろに伝わり体を強く打ち付ける。

「貰ったぁっ!!」

好機と見たミゲルは重斬刀を構えアークライン目掛け突撃する。仰向けに倒れたままクレアはアークラインの右腕を持ち上げる。

「今更何をしても・・なっ!!」

アークラインの突き出された右腕の装甲が開き一丁の小型銃が飛び出し右手の中に収まる。それこそ手のひらにすっぽり収まる程度の小型銃だ。
その二連装の銃口からミゲルのジンに向けてカウンターでビームが放たれる。咄嗟の予想外の事でミゲルは反応が遅れたがなんとか機体をひねらせ回避する。が、完全には避けきれずに左腕と背中のスラスターを丸ごと持っていかれた。

「うわああっ!!」

その衝撃に体制を崩し近くのビルを巻き込んで地面に墜落する。それを確認したクレアはアークラインを立たせ右手の武装、二連装プラズマデリンジャーと左腕の三連装機銃をジンに向ける。
ジンのコクピットでミゲルは手当たり次第に計器を操作し機体を再起動させようとする。

「ええい!!動けってんだ!!」

スロットルを全開に入れ生きているスラスターを最大出力でふかす。なんとか機体を起動させ、そのまま空中へ飛び上がりアークラインから逃げるように飛び去った。

「・・・はぁ。助かった・・・」

それを見たクレアはほっと胸をなで下ろす。実を言うとアークラインのエネルギーはレッドゾーンに入っておりこれ以上の戦闘にはとても耐えきれる状態ではなかったのだ。
右手の二連装プラズマデリンジャーは小型ながらも高出力であり最後の切り札的武装なのだがエネルギーの消費量が半端ではないのだ。エネルギーがブルーゾーンの状態でも一発撃てばイエローゾーンに入ってしまう。
早い話が二発目は考えない武装でありさっきジンに突きつけたのはいわゆるはったりだ。

「とりあえずはなんとかなったわね」

そう言って機体を跪かせコクピットハッチを開けて外に出る。無駄なエネルギーの消費は避けたいので機体の動力を一度落とす。
なんとか友軍と合流してエネルギーの充電を受けておきたい所だが・・・・。

「此処じゃモルゲンレーテに戻った方が近いわよね・・・」

しばらく考えてその結論に至る。新造艦が待機しているはずのシャフト部は此処から距離がありエネルギーが持つかどうか微妙である。しかし、モルゲンレーテならなんとか飛んでいける距離だしエネルギーの充電も出来るだろう。
ザフトの攻撃を受けていたので設備が無事かどうかは賭けになるが・・・・・。

「此処でいつまでもいるわけに行かないし・・・行ってみるしかないわよね」

そう呟いて再びアークラインのコクピットに戻ろうとした時、機体の足下から「あのっ!!」と声をかけられた。

「ん?」

機体の足下を見ると民間人だろうか一人の少女が不安げな瞳でこっちを見上げていた。

「民間人?なんでまた・・・」

気になってラダーで足下まで降りる。少女は降りてきたクレアに少しおびえながら話しかける。

「あの・・もしかして、連合軍の人・・・ですか?」

「ええ、そうだけど。あなた、民間人よね?シェルターに避難しないで何やってるの?」

「え・・・その、シェルターに逃げ遅れちゃって・・あちこちボロボロで道もわからなくなっちゃって・・・」

少女の説明を聞いて「なるほど」と頷く。
確かにこのあたりは元の街並みがわからなくなるぐらいの廃墟になってしまって地元の人間でも元の道は判断できかねるだろう。

「出来れば近くのシェルターまで連れて行ってほしいんですけど・・」

「そうねぇ・・・今からモルゲンレーテの工場に戻るから、其処に行けば残ってるシェルターがあるかもね。いいわ、連れていってあげる」

クレアの言葉にようやく安心したのか少女はほっと胸をなで下ろす。

「ありがとうございます」

「別にいいわよ・・・えっと・・・」

「あ、フレイです。フレイ・アルスター」

「フレイね。それじゃ、行くわよ」

クレアはフレイをつれてアークラインのコクピットに乗り込む。フレイをシートの後ろに立たせて自らもシートに座り込み機体の動力に火をいれる。

「ちょっと揺れるし、狭いけど・・・・我慢してよ」

「はい」

二人を乗せアークラインはモルゲンレーテ目指して飛び立った。



キラ達よりも先にモルゲンレーテから逃げ出していたサイ、トール、ミリアリアの3人はシェルターへと続く道路をひたすら走っていた。
此処もあちこちが攻撃され道路が崩壊し車など走っていない。

「ハァ、ハァ、とりあえずこの辺までくれば安全じゃないか?」

息を切らしながらトールが言う。モルゲンレーテからかなりの距離を走って来たのだ体力的にも限界だと言うのが本音であろうがそれは3人とも同じだ。
この辺にはザフトのMSもいないし彼の言うとおり安全だろうとサイとミリアリアも同意し足を休める。

「はぁ・・・疲れたぁ・・・」

「ちょっと休んだらシェルターに行こう。此処からならそう遠くないはずだし・・・」

「そうね・・・いつまでも此処にいたって・・・・あれ」

サイと話をしていたミリアリアはなんとなく顔を向けた道路の向こう側から誰かがこちらに向かってふらつきながら歩いてくる姿を視界に認めた。

「向こうから誰かこっちに来る・・」

「え?」

ミリアリアの言葉にサイとトールもそちらを向く。確かにモルゲンレーテの作業着を着た一人の女性が肩を押さえておぼつかない足取りでこちらに歩いてきている。
離れていて少しわかりにくいがどうやら怪我をしているようだ。やがて、その女性は力無くその場に倒れ込む。それを見た三人は放っておけずその女性の元へと駆け寄る。

「大丈夫ですか!?」

「え・・ええ、なんとか・・・」

「ちょっと待ってください。止血しますから」

サイがポケットからハンカチを取り出し女性の肩の傷を塞ぐように巻き付ける。本当なら水で濡らしたりしてからの方がいいのだろうが手元に水がないため仕方なくそのまま巻く。

「ありがとう・・・・あなた達・・工場が今どうなっているかわかる?」

女性の問いに3人は少し困ったような表情を浮かべる。逃げるのに夢中で他のことなどよく覚えていないのだ。

「俺たち、逃げるのに必死であんまり周り見て無くて・・・・最後に見たときはザフトのMSがすぐ近くまで来てましたけど・・・」

それを効いた女性の表情が一変して険しい物へと変わる。工場によっぽど大切な何かがあったのだろうか、出なければザフトが中立国を攻めてくる等考えにくいのだが・・・・・。
女性は立ち上がるとそのまま工場まで駆けだした。

「って、ちょっと!?」

「怪我してるんですよ!?」

3人は女性の行動に驚きながらもその後を追うように走り出し工場へと戻っていった。




「おおおおおっ!!」

キラの咆吼と共に白いMSがジンに向かって突撃する。右手を突き出しアーマーシュナイダーをジンの頭部ーーアイカメラに突き刺す。
アイカメラを破壊されモニターが沈黙したジンの右足を掴み持ち上げてそのままもう一機のジンに投げつける。

「ぐああああっ!!」

「どういう事だ!?このMSの動きは!?」

二機のジンのパイロットは急に動きがかわり自分たちを圧倒し始めた目の前の白いMSに驚く。
さっきまではヨロヨロとした動きで見ているこっちが恥ずかしくなるような機体だったのにいきなりこれだ。驚くなと言うほうが無理である。
更にこのMSにはジンの武装である重斬刀もマシンガンも全く通用しないのだ。性能面でも遥かにジンを凌駕しているであろうこの機体に対し二人のザフト兵は打つ手を無くしていた。

「ハァ、ハァ、ハァ」

コクピットでキラは息を荒げてジンを睨みつけていた。さすがに戦闘用のMSの操縦はかなり疲れる。こんな事になるなら何かの運動部にでも入っておくんだったと今更しても仕方がない後悔をする。
かれこれ10分近くは暴れている。ケーン達も逃げ延びて安全な所にいるだろうからこの辺が潮時と考え少しずつ機体を後ろに下がらせる。このまま適当な所まで逃げて機体を乗り捨てその辺のシェルターに逃げ込もうと計画する。

「そろそろ・・・頃合いか!」

キラはパワーを全開にしストライクを方向転換しフルスロットルで駆け出す。このまま一気に適当な所まで逃げようとするが突如、目の前の道路が爆発する。それに続き周辺のビルなども破壊され退路が塞がれる。

「な・・なんだ!?」

「ほぉ・・・これが地球軍の新型MSか」

「!?」

真上から聞こえてきた声に驚きその場から飛び退いて声の主の姿を確認する。其処にはマシンガンをキラのMSに向け構えた状態でシグーが工場の上空で制止していた。
ゆっくりと地面に降り立ちマシンガンの弾倉を交換、背後で倒れている友軍のジンの姿を横目で確認したクルーゼは通信を開き二機のパイロットを呼ぶ。

「お前達、まだ動けるな?」

『クルーゼ隊長、自分は問題ありません』

『こっちはモニターをやられてしまって・・動ける事は動けるのですが・・』

「ふむ・・・わかった。二人とも撤退しろ、この機体は私が捕獲する」

『は・・了解しました』

クルーゼの指示を受けた二機のジンはお互いに肩をかしあって上空へと飛びその場から撤退する。それを確認したクルーゼはシグーのマシンガンを腰にマウントし背中にさげている重斬刀を抜き構える。

「さて・・・その力、見せて貰うぞ・・ガンダム!!」

シグーを走らせ自らガンダムと呼んだ機体へと突撃し重斬刀を振り下ろす。

「く・・来るっ!」

キラは機体の腕で重斬刀を受け止め防ぐ。刃と装甲がぶつかり合い激しく火花が散る。
クルーゼはシグーの足でキラのMSを蹴り飛ばし体制を崩させ追い打ちで横凪に切り払う。脇腹部分の装甲が斬りつけられ火花が散る。

「うわあっ!!」

「実剣が効かない・・・・面白い装甲だな。だがっ!!」

シグーを走らせ頭部に拳を入れてキラの機体を殴り飛ばす。

「がああっ!!」

「動きがまだまだだな・・・素人か」

重斬刀を地面に突き刺しマシンガンに持ち替えて連射する。ダメージこそ与えられないが着弾時の衝撃で中のパイロットは十分に殺せる。
キラはMSの腕を盾代わりにしてじっと耐える以外に打つ手が無かった。

「くそ・・どうすれば」




工場内部。まだ残っていたトレーラーの真下にケーン達は隠れていた。とてもではないが突っ切るには危なすぎる状況だったためだ。
すでに銃撃戦は収まり工場内部は静かなものだ。タップが恐る恐るトレーラーの下からはい出る。

「っと・・・・・とりあえずは安全みたいだな」

「だな・・・さぁて、今のうちに逃げるとしますか」

タップに続いてはい出てきたライトが言う。ただ一人、ケーンは二人の意見に意を唱える。

「おいおい、キラはどうするんだよ!?」

「どうするっていってもなぁ・・・・MS乗っていっちまったし・・・」

囮になり連合軍の物らしいMSに乗り込み工場の外へと飛び出した親友の事は心配だが自分たちにはどうする事も出来ない。
ケーンの言いたいことはわかるが今は自分たちも非常に危険な状況にいることに変わりないのだ。

「キラはあれで要領いいし自分でなんとかするって」

「今は俺らも逃げなきゃならない状況なんだ。お前の言いたいこともわかるが・・・」

ライトがケーンに諭すように言う。その時、自分たちの真横にあったトレーラーの荷台に積んであった機体がゆっくりと動きだした。
キラが乗っていたMSと頭部の形状が似ているが全体的な印象がまるで違うスマートな機体だ。アイカメラが緑色に光り灰色の装甲が深紅の色に染まっていく。完全に色が変わると工場の天井を突き破り外へと飛び出した。
天井が瓦礫となり崩れ始める。

「ヤッベェッ!!」

3人は急いで駆け出し瓦礫を避ける。さっきまで自分たちが隠れていたトレーラーとは別のトレーラーの真下に逃げ込むが瓦礫は完全に工場の出入り口を塞いでしまった。。
瓦礫からは助かったがこれではあまり変わらない。

「おいおい、冗談じゃねぇよ・・・」

完全にあたりを塞がれ移動するにも移動できない現実にタップが落胆する。

「クソッ、どうすりゃいいんだ・・・」

ライトは苛立ちをぶつけるように小さな瓦礫をけっ飛ばす。ただ一人、ケーンはトレーラーの荷台に上り何かを考えている。

「おいケーン。何やってんだよ」

「・・・・・一つだけあるぜ、こっから出る方法がな」

「「・・・・はい?」」

ケーンはニヤリと笑うとトレーラーの荷台に積まれた機動兵器を指さす。

「偶然にも俺たちはジョーカーを手に入れたみたいだぜ?」

その言葉に二人はケーンの考えている事が何か悟った。自分たちでこの機動兵器を動かして脱出しようと言うのだ。おあつらえ向きに自分たちは3人、機動兵器の数も3機。上手くできすぎていて逆に怖いぐらいの状況ができあがっている。
此処まで行くと偶然ではなく誰かの良いように動かされているような感じまで覚えてしまうが、この3機に乗り込んで脱出する以外に方法は無いようだ。

「まぁ、それしか方法ないわな・・・・」

「おいおい、二人とも本気かよ!?コイツは連合の秘密兵器かなんかだぜ!?そんなのを勝手に動かして大丈夫なのかよ・・・」

「中立国のコロニーでこんなの作ってた連中のせいで俺たちはこんな目にあってんだ!!偉そうな事言わせるかよ!!」

それだけ言ってケーンはトレーラーの荷台に積まれた機動兵器のコクピットへと潜り込む。ライトもそれに続いてすぐ近くのトレーラーの荷台へとあがる。

「おいタップ!!お前も乗れよ!!此処で瓦礫の下敷きになりたかねぇだろ!?」

「う・・・わーったよ!!乗りゃいいんだろ乗りゃぁよぉっ!!」

最後まで渋っていたタップも泣きそうな表情を浮かべトレーラーの荷台へと上がり積み込まれている機動兵器に乗り込む。
コクピットの中は授業で何回か乗り込んだMSとほぼ変わりない。これならば動かせる。そう思い起動させようと計器に火を入れる。

『パイロット登場を確認。認証番号と姓名の登録をお願いします』

「・・・・へ?」

不意にコクピットの中に無機質な電子音が響く。見ると正面のモニターが何やら難しい単語を並べ起動している。

『私は本機、メタルアーマー ドラグナーのサポートコンピューター、クララです。本機はパイロット登録制となっているため認証番号とパイロット姓名の音声登録が必要です』

それを聞いてケーンは「ほぉ」と頷く。パイロット登録制とは念の入ったセキュリティだな程度の認識。とりあえず番号と名前を言わなければこの機体は動かないらしい。
ケーンはしばらく考え・・・・・・やがて、何でもいいや と言う考えに行き着き。

「1234567。名前はケーン・ワカバだ」

適当にもほどがある番号を口に出した。小学生でも少しはマシな番号を考える筈なのだが彼にしてみればどうでも良い事のようだ。
何にせよコンピューターであるクララは言われたとおりの番号と名前、そして音声を登録するにすぎない。

『認証番号1234567。姓名ケーン・ワカバ。音声および体格データ登録完了しました。搭乗者がパイロットスーツ未着用の為、本機は完全シールド化されます』

いつの間にか目の前のディスプレイに自分の体格をスキャンしたらしきデータが映し出されている。コクピットのシートなどあちこちにセンサーが仕込まれており自動登録される仕組みのようだ。
何はともあれ、この機体ははれてケーンがパイロットに登録された彼の専用機となった。

「さて・・タップとライトは上手く登録出来たかなっと・・・お二人さん、そっちはどうだ?」

通信機を使って他の機体に乗り込んだタップとライトに通信を入れる。間をおかず通信機から二人が軽い調子の答えが返ってくる。

『さすがは連合の新兵器ってところだな。実習で乗った作業用とは比べ物にならないぜコイツは』

『なんていってもこの優越感。パワーがすげぇでやんの』

「よし・・・それじゃ、行くぜ!!」

ケーンの叫びと共に起動兵器のアイカメラに光が灯った。




コロニー内部で戦闘が起こっていた丁度その頃。コロニーシャフト内部の格納庫に一隻の白い戦艦が眠っていた。連合軍が此処、へリオポリスで新型機動兵器と同時に開発していた新造戦艦アークエンジェルだ。
アークエンジェルのブリッジに数人の連合軍の軍服を着た数人の士官がいた。ザフト軍襲撃の際、此処も襲われ爆弾による攻撃で多大な被害を受けたがそれでもほぼ無傷だったこの戦艦に生き残った者全員が集まっているのだ。

「では・・生き残っているのはこれで全員と?」

「今、此処にいる我々とこの艦にいる十数人の下士官のみです。他は艦長含め皆・・・」

それを聞いた女性士官、ナタル・バジルールは表情を暗くする。この艦が無事だったのは幸いだが主だった士官は全員死亡していては話にならない。
ナタルの横に立っている頭に包帯を巻いた男性士官ジェームズ・C・ダグラスが口を開く。

「とりあえず此処で言い合っていても仕方がない・・・外にいるはずの部隊に連絡は取れるか?」

ダグラスは通信機を使って通信をためしているチャンドラーに話しかける。

「駄目ですね・・・妨害電波が出ているようで通信が繋がりません」

「通信妨害・・・狙いはモルゲンレーテと言うことか・・・・っ!」

それを聞いたナタルは悔しそうに歯がみする。敵は最初からモルゲンレーテにある新型が狙いだったのだ。

「通信妨害が続いていると言うことは・・・・まだ戦闘が?」

「だろうな・・・・・どうする、何時までも此処で隠れているわけには・・」

ダグラスの言葉にナタルが答える。

「ダグラス中尉。私は状況を把握するためにモルゲンレーテへ向かうことを具申します」

「モルゲンレーテに?しかし・・・どうやって行くのだ?」

「・・・アークエンジェルを発進させます。ローエングリーンで外壁を破壊しそこから内部へ」

ナタルの提案にその場にいた全員が驚く。しかし、状況把握などの為にはどのみち動かねばならないのだ。状況が状況だけに手段など選んでいる暇は無い。
しばらく考えダグラスもその提案に賛成。すぐに実行に移される事になった。

「全員持ち場に着け、コンピューターの指示通りにやれば問題はない筈だ。バジルール少尉、艦の指揮は君が取ってくれ」

「私がですか?この場合は上官であるダグラス中尉が指揮をとられたほうが・・・」

「いや、俺はMSやモビルアーマーならともかく戦艦の事はさっぱりでな・・・この戦艦の事は俺より君が詳しいだろ?」

そう言ってダグラスは副長席に座る。ナタルも覚悟を決めたのか艦長席に座り表情を引き締める。




工場区から飛び出した機体のコクピットに乗っていたアスランは近くで戦闘を行っているシグーを確認するとその近くへ降り立った。

「クルーゼ隊長」

「アスランか・・予定より遅れているな、君らしくない」

「申し訳ありません。起動OSが未完成だったもので調整に手間取りまして・・・ラスティが任務中に戦死しました」

「ラスティが?ふむ・・・・それこそ予定外だな・・・アスラン君はその機体で早々に離脱したまえ」

「離脱ですか?」

「ああ、すでにジンを3機が大破、1機が小破と痛手を受けている。せめて・・機体の奪取だけは成功させねばならんのだよ」

クルーゼの言葉にアスランは不満を持った。今はそういう状況で無いことは理解しているが自分の部下が死んでも対した事はないかのような口振りが彼の神経を逆撫でする。
しかし、クルーゼの言っている事はもっともだ。機体の奪取は必ず成功させなければならない・・・・・・アスランはクルーゼのシグーと対峙している白いMSの方を見る。そのMSに乗り込んだ民間人がどうにも気にかかる。

(キラ・・・いや、アイツなわけがない)

再びわき上がった疑問を無理矢理押し殺しアスランは自分の乗った深紅のMSのブースターをふかしコロニーの空へと飛び上がり、出口へと向かった。
それを横目で確認しつつクルーゼはシグーのマシンガンの弾倉を取り替え銃口を白いMSに向ける。

「さて、そろそろ終わりにさせてもらおう」

クルーゼが静かに呟く。そろそろ白いMSにトドメを刺すつもりなのだろう。
キラはなんとか機体を動かそうとするがそれよりもクルーゼのシグーのほうが速い。

「トドメだ!!」

「っ!!」

シグーのマシンガンから弾丸が放たれようとした直前、シグーの背後に位置するモルゲンレーテの工場区が内側から吹き飛び完全に崩壊した。

「何だ!?」

クルーゼもキラも突然の爆発に驚きそちらの方を向く。炎と瓦礫に包まれた工場・・・・・・その炎の中にゆっくりと立ち上がる3機の起動兵器の影があった。
丸いレドーム状の頭部を持つ機体が2機とヘルメットをかぶった兵士のような頭部の機体の3機。そのアイカメラが一斉に緑色の光を宿す。

「あれは・・・・」

「起動したのか・・・・・・龍騎兵」

クルーゼが静かに呟く。龍騎兵と呼んだ機体のコクピットの中、ケーン、タップ、ライトは操縦桿を握りしめ目の前に移るシグーとストライクの姿を見た。

「キラの奴、まだ残ってたのかよ!?」

「見たところ、旗色はよろしく無いみたいだし応援に行ってみる?」

「そうするしかないだろっ!!行くぜ!!」

ケーンが叫ぶ。黒いレドームのような頭部の機体が炎の中から飛び出しシグーへ飛びかかる。

「うおりゃぁっ!!」

「チッ!!」

シグーはそれの攻撃を回避し空中へと飛び上がる。其処へ残り二機が手に構えたハンドレールガンで攻撃、クルーゼは地面すれすれを飛びそれを回避していく。

「おい、キラ。生きてるか?」

「その声・・・ケーン!?」

キラはいきなり現れた機動兵器から聞こえてきたパイロットの声がケーンである事に驚く。と、同時に残りの二機に乗っているのはタップとライトなのだろうと即座に予想がついた。
この3人はなんだかんだでいつも一緒にいる通称3バカトリオなのだ。しかし、念のために一応確認を取る。

「ってことは・・・あそこの二機に乗ってるのは・・・」

「タップとライトだけど?」

素っ気なく答えを返すケーンにキラは「やっぱり・・」と頭を抱える。3人を逃がす囮になるためにこのMSを動かしたと言うのにその3人も機動兵器に乗り込み先ほどまで自分が戦っていたザフトのMSと戦闘を始める。
本末転倒とはこの事だろうか・・・・・・。なんだかやるせないような苛つくような悲しいような嬉しいような複雑な心境になった。

「せっかく逃げる時間稼ごうと囮になった僕の立場が無いような・・・・・」

「んな事言ってもよぉ、逃げるに逃げられなかったんだし仕方ないじゃんか」

「って、其処の二人!!何のんきに井戸端会議してやがりますか!!?」

ライトが通信機越しに二人を怒鳴りつける。彼はタップと二人でクルーゼのシグーと戦っているのだ。

「「あ・・・」」

少しの間だけその事を完全に忘れていた二人はその場からシグーを攻撃する。
ケーンは右手に構えたハンドレールガンをキラはMSの頭部に装備されたイーゲルシュテルンをシグーに向けて発泡する。クルーゼは忌々しげに舌打ちし放たれる弾丸を回避していく。
この4機のパイロットはどう考えても素人だと言うのは動きを見ればわかる。しかし、素人と言えど最新鋭の新型4機が相手ではさすがに不利だ。マシンガンの弾倉も残りは装填済みの一個しか無い上に重斬刀は地面に突き刺したまま放置している。
どうするか考えているとレーダーがこちらに近づいてくる熱源を一つ捕らえる。識別反応が友軍の物では無い・・・・・・となると敵だと考えるのが普通だ。さすがにこれ以上とどまる意味は無いし危険だと感じたクルーゼはシグーを反転させそのままコロニーの空へと消えていった。

「逃げた・・・?」

「とりあえずは乗り切ったってとこだな」

4人は安堵の表情を浮かべる。これでとりあえずは危険が去ったのだ。後は適当にこの機体を乗り捨てて最寄りのシェルターに逃げ込むだけ。
早速、4人は機体を乗り捨て近くのシェルターに行こうとするがレーダーが捕らえた反応がそれを許さない。

「レーダーに反応!?また敵かよっ!?」

「いや待て・・・・コイツはザフトのMSじゃねぇな・・・・・なんだ?」

冷静にレーダーを見ていたライトが呟く。やがて、その反応の正体である白い機体ーーーアークラインーーーが自分たちの目の前に降り立った。

「ストライクにドラグナーが起動してる・・・何で?」

工場にたどり着いたクレアは起動している4機の機動兵器に少し驚く。未だこの場に残っている事を考えると友軍が乗っているのだろうと思えなくもないがあの状況で乗り込めた人物が自分以外にもいたのかと少し驚いている。
が、それよりも重要なのは工場が完全に崩れ落ち瓦礫の山になっていることだ。これではフレイをシェルターに避難させるどころかアークラインのエネルギー補給すら出来ない。シェルター自体は地下にあるため無事であろうが入り口は地上にあるのだ。

「工場があれじゃ・・・シェルターには入れないか・・・・」

「そんなぁ・・・・・」

「機体のエネルギー補給も出来ないし・・・・どうしよ・・」

コクピットの中で二人は同時にため息をつく。とりあえず目の前の4機に乗り込んでいる者と話をしておく必要はあるだろう。クレアは通信機を作動させ通信を取ろうとする。
その時、彼女たちがいる地点のすぐ近く、コロニーの人工の空が内側から吹き飛んだ。

「!?」

「な・・なんだぁ!?」

その場にいた全員の意識がそちらへ向く。爆発の煙の中、ゆっくりとその姿を現すのは大天使の名を持つ白き戦艦。
その姿と派手な登場に全員が呆然とする。其処へようやくたどり着いたマリューは走った事で乱れた息を整えながら状況を確認する。

「アークラインにストライク達が起動している・・・それに何でアークエンジェルが・・・・・・?」

呆然とする彼女たちの目の前で、運命が動き出した・・・・・・。


続く


《次回予告》

アークエンジェルと合流したクレア達はヘリオポリスを脱出する計画を立てる。
そんな中、ケーンは母親の無事を確認するためドラグナーで一人出撃してしまう。
一方、クルーゼは強奪に失敗した残りの新型機を破壊するため全戦力をヘリオポリスへ向かわせる。そして、キラはかつての友人と再会する。

スーパーロボット大戦エヴォリューション第3話 「友との再会」

戦火の空 飛べストライク!!



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