超重神山さんDESTINY

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第13話 大空の邂逅 後編



「全MS帰還を確認!!」

アトランティス格納庫で出撃していた全MSの帰還を確認した整備員が叫ぶ。

「総員、“龍”が来るぞ!!何かに捕まれ!!MSは意地でも倒れないように踏ん張ってろ!!」

整備班長らしき人物が叫ぶ。その直後、アトランティス全体を激しい揺れが襲った。

「うおおっ!!」

整備員は近くの手すりや固定機材に捕まりメンテナンスベットに固定されていないMSはパイロットが必死で転けないように操作し踏ん張っている。

「今回のはまた強烈だな・・・・っ!!」

ディープワングを転けないように必死で踏ん張らせながらマグナが悪態をつく。
この“龍”と呼ばれる物の正体は、急速な潮の流れとそれに伴い発生する津波である。数百年前、温暖化により起きた水位の上昇により陸地の約70%が海底へと沈んだ際に初めて起きた現象。
不定期に潮の流れが急速に速くなりMSは愚か潜水艦や船ですら船体を固定しなければ流れに飲み込まれ弄ばれるほど。さらには津波までもが発生し、その様子がまるで龍が暴れているように見える事から“龍”と呼ばれ始めたのだ。 詳しい原因などは不明だが“龍”は発生する前に魚など海の生物がそれを察知し慌ただしくなるため発生時期は不定期ながらもそれを察知する事は出来る。いわば、海の地震である。
“龍”は数分間、暴れ回った後に収まり海は元の静けさを取り戻した。

「全員、無事か!?」

収まった後、整備班長が格納庫にいるメンバーに向かい叫ぶ。

「ええ、怪我した奴はいますが死人はいません!!」

整備員の一人が答えながら散らばった整備用具を片づけ始める。MSもメンテナンスベットに固定されパイロットが降りる。

「うえ・・・気持ち悪・・・酔った・・・」

マグナが顔を青くしてその場に座り込む。

「大丈夫?」

シャイルがマグナの顔をのぞき込み聞く。マグナは弱々しく首を横に振る。

「あらあら・・・・そう言えば・・・隊長さんとゲイルの姿が見えないけど?」

格納庫を見渡しながら呟く。いつもなら戦闘終了後の指揮もとっているアキラとすぐに自分たちの所に来るゲイルの姿が見えない。

「サリア、二人の事知らないかしら?」

「え・・・・ゲイルは知らないけど・・・隊長は・・・・」

シャイルの問いにサリアは表情を曇らせる。それでなんとなくだが彼がどうなったのかは予測がついた。

「そう・・・・・それにしても、ゲイルは何処に行ったのかしら?」



「お・・・女?」

敵のイカロスのパイロット。青い長髪で整った顔立ちの女性を見てゲイルは一瞬、
思考が停止した。

「とりあえず・・・・・気絶・・してるんだよな?」

もう一度念のために確認。頬を軽く叩いても反応しないが脈はある、気絶している事は明らかだ。それを確認した上で女性の腰のホルスターから銃を取り出し分解して海に投げ捨てる。

「とりあえず、これで良しと・・・ん?」

ふと、女性の黒いパイロットスーツの脇腹部分が血で染まっている事に気がついた。恐らく此処に流れ着く前に飛び散った部品で怪我をしたのだろう。
怪我自体はたいしたことはなさそうだが、放っておくと細菌などが侵入し危険である事に変わりない。ゲイルは腰の小物入れから応急処置セットを取り出し治療しようとするがーーーー手を止めた。

(待てよ・・・俺は男、怪我人は女。此処は無人島、怪我を治療出来るのは俺だけ・・・怪我の治療のためには・・・・相手の衣類を脱がさないといけないわけで・・・・えっと・・)

そう考えた途端、思考が再び停止した。いくら気絶していて仕方ないとはいえ女性の服を勝手に脱がすのはためらうし気が引ける。ゲイルは難しい顔をして空を見上げ呟いた。

「神様・・・・・俺にどうしろっていうんですか?」



「そうか・・・フェルが戻っていないのだな?」

部下の報告を聞いたオルトが確認するように聞く。

「ハイ、アトランティスの赤いガルーダと戦闘していたのは確認したのですが彼女の機体だけ帰還していません」

その報告を聞いたオルトは難しい顔をして考え込む。本国から支給された試作機を落とされ更に部下の一人が行方不明ーーーー最悪の結果だ。

「捜索しますか?」

横に控えていたレオスが言う。

「・・・・・・・・今は状況確認が先だ。捜索は追って指示する」

オルトの支持を聞き部下は敬礼して部屋を後にする。レオスもそれに続き部屋を後にした。

「私も・・・甘いか」

オルトは自嘲気味に呟いた。此処は敵陣のすぐ近く、下手をすれば混乱の隙をついて追撃がある可能性も捨てきれず、本来なら即座に撤退すべきだが部下を置いて逃げるなど彼には出来なかった。



アトランティス自衛軍司令室。
状況確認のためにそこに訪れていたグレンは戦闘の報告、ゲイルの行方不明とアキラの戦死を受け表情を暗くした。

「そうか・・・・」

「代表、今後の事ですが・・・・」

軍人の一人が言う。今後の事、アキラが死んだために空席となった自衛軍隊長ーー指揮官の座の事と、ゲイルの捜索の有無である。

「・・・・今日はどのみち無理だろう、捜索は明日の早朝からおこなう。新しい指揮官は私に一任してくれ、心当たりが一人いる」

「了解しました」

「報告ご苦労、仕事に戻ってくれ」

グレンに敬礼し集まっていたメンバーは解散する。司令室から出て行くグレンの後ろ姿をサリアは恨めしそうに睨みつける。彼女にはすでにアキラの後任の話を平然としている事が理解出来なかった。

「死んだらすぐに交代なんて・・・・」

「仕方ないんじゃない。指揮官がいつまでの空席なんて良い状態じゃないでしょ?」

サリアの心情を察したのかシャイルが諭すように言う。

「それでも・・・理解出来ない」

「無理にする必要はないと思うけど・・・・・死んだ人間の事は速く割り切ったほうがいいわよ」

それだけいってシャイルも司令室を後にする。サリアはその姿を複雑そうな表情で見ていた。時々、彼女は冷酷な事をさらりと言ってのける。物事を客観的に見ているからなのだろうが・・・・。
近くの椅子に座り込んでいたマグナがサリアに話かける。

「どっちみち、もうすぐ夜だし・・・今日の所は部屋に戻ろうぜ。」

「・・・・・うん」



「・・うっ・・・く・・・」

パチッ と言う何かが弾ける音で気を失っていたフェルは眼を覚ました。

「ここは・・・」

周囲を見渡すと何かの廃墟の中らしき場所にいた。パチッ とたき火が弾ける。
腹部に少し痛みが走る。確認すると何者かが巻いたのだろうか包帯が胸元がしっかりと隠れるまで巻かれていた。

「お、目が覚めたか?」

声がした方を振り向く。そこには黒い長髪の少年が足跡で造ったのだろうかーー松明片手に歩いてきた。

「・・・お前は?」

フェルは警戒しながら問いただす。少年ーーゲイルは松明を近くの壁に立てかけながら言う。

「お前と戦ってた赤いガルーダのパイロットやってます、ゲイル・ライバートだ」

「お前が・・・アレのパイロットか・・・」

「おう。で、アンタは?」

「・・・・フェル・マーサカスだ」

「フェルね。なんとなく察しはついてると思うけど、此処は無人島で俺等しかいないから救助待ちな」

そう言いながら腰を下ろしてたき火に薪を放りこむ。

「なんで、無人島なんかにいるんだ・・私たちは?」

「さぁ?多分、龍にでも巻き込まれたんじゃねぇの?そのお陰で俺等の機体は使い物にならなくなっちまったしなぁ・・・・なんとか救助信号は送れたけどよ」

ゲイルの言葉を聞きながらフェルはため息をついた。戦闘で苦渋を舐めさせられた相手と共に無人島に流れ着く等、誰が思うだろう。フェルに取っては正直、認めたくない現実だった。

「・・・・・そういえば」

「ん、何よ?」

「この包帯はお前が巻いたのか?」

フェルは自分の体の包帯を見ながら言う。

「ああ、怪我してたからな」

ゲイルはたき火の火が消えないように薪を放り込みながら答える。

「で、それがどうかした?」

フェルは少し顔を赤らめながら呟く。

「・・・・・・見たのか?」

「へ?」

「だから、見たのか と聞いている・・・・」

ゲイルは一瞬、わけがわからなかったが彼女が何を言っているのか理解し、気まずそうに顔を背ける。

「・・・・・・・・」

「見たんだな・・・・・キサマ・・・」

場の空気が一瞬にして重たくなったのは言うまでも無い。

「・・・食べるか?」

ゲイルは懐から非常用の食料を取り出してフェルに差し出すが、彼女はもの凄い形相で睨みつけている。

「・・・・・・・ごめんなさい」

ゲイルはとりあえず土下座して謝った。

「・・フン。まぁ・・・・怪我の治療のため仕方なかった と言う事で今回は許してやる。・・助けて貰った借りもあるしな」

そう言ってフェルは苦笑気味にゲイルから食料を受け取り食べ始める。

「で・・・許して貰ったのはありがたいですが、何故にアナタは前を隠さないのでしょうか?」

ゲイルが言う。フェルは今、パイロットスーツの前の部分を全開にしているのだ。隠すべき場所は包帯で隠れているが、やはり気になって落ち着かない。フェルは「フン」と鼻で笑う。

「今更何を・・・・見られた相手に隠しても仕方ないと思うけど?」

「・・・・・・」

(結局許してくれてないのね)ゲイルはそう思いながら食料を口に運んだ。
まぁ、ボコボコに殴られないだけマシだろうが。食事を取りながらフェルを横目で見る。
最初、見たときも思ったが彼女は結構な美人だ。性格は・・・ちょっとキツイと思うが。

「何だ?人の事をじろじろと」

ゲイルの視線に気がついたフェルが言う。

「いえ、なんでもないっす」

ゲイルは慌てて視線をそらす。そんな様子を少し呆れた風に見ていたフェルはため息をつく。ふと、自分が彼に対する警戒を自然に解いていた事に気がついた。何故か、理由はわからないがこのゲイルとか言う少年は警戒しなくても大丈夫なような気がした。

「・・・・調子狂うわね・・まったく」

自嘲気味に呟いて食料を食べ終える。

「そう言えば・・・どうでもいい事なんだが・・・お前、なんで軍になんかはいったんだ?」

とフェルはなんとなく口に出した。

「軍に入った理由ねぇ・・・・・MSが好きだから」

「・・・・は?」

「だから、MSが好きだから軍にはいったんだよ」

「・・・・・く・・・くく・・はははははははははははははははははっ!!!」

あまりにも予想外な答えが返ってきた事に、フェルは思わず大声で笑い出した。

「なっ、わ・・笑うなよ!!そっちから聞いておいてよ!!」

「ははは・・・ゴメン・・・・でも、そんな理由で軍に入った奴がいるなんて・・・・はは・・・思ってもなかったから」

腹部を押さえて笑い続けるフェルをゲイルは睨みつけるように見ている。

「そう言うお前はなんで軍にはいってるんだよ?」

「私か?私は・・・・なんでだろうな・・自分でもよくわからない」

「はぁ?なんだよそりゃ・・・・」

「わからないものはわからない・・・・・強いて言うなら、居場所が欲しかったんだろうな私は・・・・」

そう言う彼女の顔は何処か、切なげな表情を浮かべていた。

「と・・・お前にしても仕方のない話だな・・・・」

「そっちからふっておいてそれかよ」

「フン・・・さて、なんだか眠たくなってきた・・そろそろ眠らせてもらうけ
ど・・・襲ってきたら、どうなるかはわかってるわよね?」

「俺にそんな趣味はないっつーのっ!!」

真顔で反論するゲイルにフェルは苦笑する。

「冗談よ。ま、襲ってきたらそれ相応の痛い目は見て貰うけど・・・・それじゃおやすみ・・」

そう言ってフェルはそのまま眠りについた。それを見たゲイルは呆れたように呟く。

「いくらなんでも・・・敵の目の前で寝るか普通・・・・ま、いっか」

とりあえず自分もそろそろ瞼が重たくなってきた所だ。焚き火の火もしばらくは持つだろう。ゲイルも壁にもたれかかり眠りについた。



翌日、アトランティスからゲイル捜索の為に出たガルーダ4機とネプチューン5機。その中にオーバーホールが終わり空戦装備で捜索に参加したヴァハと修理の完了したエーギルの姿もあった。

「ったく・・・何処まで流されたんだか、ゲイルの奴」

「愚痴っても仕方ないでしょ?とにかく、早く見つけないと・・・・ん?」

ヴァハのレーダーが何かの反応を捕らえる。それはMS等から発せられる救難信号と同じ反応だった。

「これ、救難信号・・・もしかして・・マグナ!」

「こっちでも捕まえた。俺たちが一番近いな・・・・行くぞ!!」



「ん・・・もう朝か・・・」

差し込む朝日でゲイルは眼を覚ました。体を伸ばし簡単な運動をする。

「ふあぁ・・・フェル、おはよ・・・ってありゃ?」

ゲイルはフェルが寝ている方を向く。しかし、いるはずの彼女の姿はなかった。

「いねぇ・・・ん?」

フェルが寝ていた場所のすぐ側、少し大きめのガレキに石か何かで削って書いた字が書かれていた。


ゲイルへ
一足先に救助が来たようだから先に失礼する。お前の事は黙っておいてやるから心配するな フェル


「あらま・・・お先に帰ってましたか」

その伝言を読み終えると同時に何かのエンジン音が聞こえてきた。

「俺にも救助が来たかな?」

廃墟を出るとヴァハがゆっくりと廃墟の外れに降下している姿が確認出来た。

「お~い!!」

ゲイルはヴァハに向け大声で呼びかけながら手を振り走り出した。



潜水艦ビックホエール。フェルを救助したイカロスが格納庫へと着艦、オルトとレオスがそれを出迎える。それを確認したフェルがガルーダの手のひらから降り二人の前で敬礼する。

「隊長、ご迷惑をおかけしました」

「よく無事に戻ったな。お前と戦っていた赤いガルーダのパイロットは?」

「・・・・龍に飲み込まれ機体は私と一緒に流れ着きましたがパイロットは中ですでに死亡していました」

「そうか・・・詳しい報告は後でいい、ゆっくり休め」

フェルの報告が嘘だという事をオルトはすぐに見抜いたがそれについての言及はせず格納庫を去っていった。

「ふぅ・・・・」

ため息をつき、フェルも格納庫を後にする。

(ゲイルか・・・・また、会いたいな・・・・)

心の中でそう呟きながら。


続く




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