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“やおっち”的電脳広場
第一部第7話
彼女とデートの約束をしてから後も、相変わらず同じ内容のメールが毎日のように送られてきました。
こう毎日送られてくると、彼にとって知らず知らずのうちに「日常の中の当たり前の出来事」に思えるようになってしまい、逆に彼女からのメールが来ない日があると、「あれ?」と思う自分の存在に気づき、そんな自分に思わず苦笑いしてしまうようになっていました。
そんな中、デートの細かい時間や待ち合わせ場所を詰めていったのですが、当初午後半日の予定が、前日に突然彼女から「その日の午後は一人で買い物に行きたい」というメールが来たために急きょ夕方からご飯でも、という約束に最終決定しました。
実のところ、彼にとってはその方が結果オーライだったのです。
その時の本音は「そんな時間いっぱいあるけど、どうしよう?」という思いが強かったために夕方というのが精神的負担を軽くしたのでした。
いよいよデートの日。
彼は彼女の家の近くまで車で行き、いつも使っている大型スーパーの駐車場で彼女を待っていました。
彼と彼女の家は車で行くと、下道で県境を越えた約1時間の距離にあり、実のところ、デートするたびに彼はそのスーパーまで彼女を迎えに行ってたのです。
当然、送るのもそのスーパーまでで、彼女はそこから歩いて家まで帰ってました。
彼女の話によると、家までは歩いて2~3分ほどですが、彼は一度も彼女の家まで送ったことはありません。
彼女曰く「だって、親や近所の人に見られたらうるさいから・・・」だそうです。
彼は、待ち合わせ時間より早くついてしまいました。そして彼女に「今着いたよ」とメールしました。
これもいつの間にか待ち合わせの約束事になってることで、このメールをしないと彼女から「今どこ?遅れそう?返事ください」とすぐメールが来て、それでも返事しないと電話がかかってくるのです。
これも彼女が「連絡して返事がすぐ来ないのは嫌い」という性格からのものでした。
そして、彼女を待つ車の中で思わず彼は感慨に浸りました。
「彼女と知り合ってこうやってデートするようになってどれくらいになるだろう?初めて知り合ったのが5月の連休に後輩の家でバーベキューした時に隣で飲んでたのが最初だったかな?後輩の同級生の友人で、後輩が「今、彼氏いないんだって。先輩もいないんでしょ?ちょっと話だけでもしてみなよ」がきっかけだったなぁ。それからすっかり意気投合して初めてデートしたのが、確か7月の終わりだったかな。それからもうほとんど毎週のようにデートしてたなぁ。気がつけばもう夏も終わって秋になり10月も終わりかぁ。早いもんだなぁ。」
しかし、そんな思い出もすぐ現実に上書きされます。
「そんなことより、これからだよ。どうするか考えないと。まずは会って、どう話をして、どういう付き合い方があるか、だ。でも、あまり考えてもしょうがないから、出たとこ勝負で、とことん腹を割って話してみよう。思いが届く、ってことになるかもしれないし。」
そうこうしているうちに、車の窓を「コンコン」と叩く音が。
振り向くと、そこには笑顔で手を振る女性が。
彼女が現れたのです。
彼女はおもむろに助手席のドアを開け、中に入ってきました。
彼女「お待たせ~。今日は早かったでしょ!?出かける準備してメール来るの、待ってたんだ。」
言われてみれば、いつも彼女はメール入れてから現れるまでは10分はかかったのですが、今回は3分ほど。
「なるほど」と彼は思いました。
そして、彼は彼女がシートベルトを締めたのを確認して車を走らせました。
彼女「今日、どこ行こう?」
彼「どこ行く、ってメシ食うんじゃなかったっけ?」
彼女「うん、それは分かってる。私が聞きたいのはどこに食べに行くか、ってこと。まだ考えてなかったら、実は行きたいところ、あるんだ。」
彼「どこ?」
彼女「ここからちょっと行ったところのファミレスで、なんか「いちごデー」ってのがあって、いちごのデザートがすごいんだって!ねぇ、行こうよ~!」
「まさか、デザートだけ・・・」彼は一瞬、彼女が「ご飯食べよう」と言いながらケーキバイキングに行き、胃がもたれてしまった過去を思い出して、確認と冗談交じりで言いました。
彼「デザートだけ食べるの?」
彼女「何言ってるの~。もう!普通にご飯も食べるの!」
そんな彼女のふくれっ面を見て、彼の心は落ち着きを取り戻したような感じがしました。
確かに、そこにはいつもの彼女がいて、そんな彼女がそばにいると安心できる、といつも思ってる自分がいる、それを彼は再確認したのでした。
彼「分かった分かった。じゃぁ、そこに行こう。案内してくれる?」
彼女「いいよ~。行こう行こう!」
こうして、二人はファミレスでご飯を食べ、いちごのデザートをたくさん食べた、というより彼が彼女に食べさせられたのでした。
そこには、いつものデートする二人の姿があり、会話もいつもと同じように続いたのでした。
その時の二人は、少なくとも第三者の目から見れば明らかに「恋人同士」にしか見えず、また、本人達もそんな気分に浸り続けたのでした。
そして、二人とも幸せな時間を過ごすとことができました。
しかし二人は知るよしもありませんでした。
それが、二人が楽しく過ごした最後の食事であり、二人が笑顔で話した最後の会話であった、ということを・・・(続く)
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